パレスチナ 「戦傷外科」の日々: 行った、診た、切った

著者 :
  • 彩流社
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  • Amazon.co.jp ・本 (230ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784779115707

作品紹介・あらすじ

日本の外科医である著者が、日本パレスチナ医療協会の医療ボランティアとしてパレスチナに滞在し、医療活動を通じて見聞きした紛争地における医療現場の真実。実際に手術などの医療活動に携わった医師にしか伝えられない紛争地の医療活動の理想と現実。

感想・レビュー・書評

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  • 『本書は、パレスチナ現地の医療活動中にリアルタイムで活動内容をHPにアップしていた当時の日記を加筆訂正してまとめたものである。多くは現地にいる間に書いたものであり、主にパレスチナでの生活に基づくものであるため、紛争の見方については、多くはパレスチナ側の主張に影響されているかもしれない。しかし、実際の戦時下(まさに現地は戦争状態である)での彼らの生活を見るとき、単に一部の過激派がテロを行っているような単純な話ではないということは本書をお読みになった読者には容易にご理解いただけると思う』―『あとがき』

    副題に「行った、診た、切った」とある。差し詰め、カエサルの「来た、見た、勝った(veni, vidi, vici)を擬えているのだろう。「見た」が「診た」になっている辺り、くすり、とさせる。

    実は著者とは同級生。とは言っても高校三年間一度も同じクラスになったことはない(話は逸れるが、そういう時、正しくは同窓生、と言うのかな。同じ学年の集まりでも同窓会と言うし。でも学年が違っても同じ学校出身なら同窓とも言うしね。同期、というと何だか会社の同期入社の人を連想してしまうし)。当時は一学年八クラスなので、まあそういう人の確率は62.5%以上。選択授業でのクラス合同の授業を入れても56.25%以上だから、つまり半分以上の人とは一緒のクラスになったことはない。彼も単にその内の一人だということ。部活や委員会でも一緒になったことは無くて、多分一度も話したことも無いんじゃないかな。そんな彼の著書を紹介してくれたのも元同級生(こちらは二年次のクラスメートなのでまさに元同級生)ということになるのだけれど。二つ上には爆風スランプの中野君が居たり、一つ上には「いつも何度でも」(千と千尋の神隠し)の主題歌の作詞家が居たりするようなちょっと変わった高校ではあったので、パレスチナに医療活動に行く人が居ても不思議ではない。それより指山君って頭が良くて東大に行った印象があるけど、東大理Ⅲではなかったような、と思ったら、農学部卒業後に(少し時間が空いている気がするけど)千葉大医学部へ行ったんだね。思わず、へえ、となる。

    それにしても彼の経験して来たことは短期間ながら物凄く密度の高いことであることが淡々とした文章からも伝わる。特に第二次インティファーダ(2000年)直後のパレスチナの情勢は先の見通せない一触即発の緊張感が漂う状況であっただろうと想像すると尚更だ。そして彼の言う通り、世の中、白黒に単純に二分しようと大きな声で主張する人が居る時こそ、むしろ問題は高度に複雑で、それに倦んだ人々の中に「解決」を求める感情が高ぶっている時こそ戦争の危険は不可避となることは、時が経ってもちっとも変わりはない。そんな物事の本質が、静かで冷静な語り口から伝わってくる。と言いつつ、そんな中、飄々と、と表現してよい雰囲気で精力的にあちらこちらを移動して回る著者の姿は、無鉄砲とも思えるが小気味よくもある。指山君ってこんな人だったのか、との感慨が自然と湧く。

    なるべく中立的な描写をしようとする著者の姿勢もあって、ともすると本書は一紛争地域における医療活動状況の報告書のような雰囲気すらある。特に、本書に掲載されている手術中の写真など、考えてみればよく撮らせてくれたなと思わずにはいられないものも多数あり、外科医というよりジャーナリストのような姿を思い浮かべてしまいがちなのだが、その間にも夥しい数の手術に携わり、かなり悲惨な状況の患者も診ている筈なのに、著者の文章には常に冷静さがある。流石、外科医として胆が据わっていると言うべきか。一方で誰彼となく話をし、また頼まれてもいない病院での仕事を自ら求めて行く姿勢は、悪く言えば何事も興味本位で見て回っているとも言えるけれど、世界を知ろう、という気概が常に著者の中にはあるが故のように伺える。またしても、へえ、そんな人だったんだね、という感慨に耽ってしまいそうになる。そして、いい本書いたね、とそっと呟いている自分に気付く。

  • 消化器外科医の著者様が踏み入れた、パレスチナ。医療を通じ、紛争の現実を目撃した生々しい記録です。現状を世界に伝えて欲しいとの現地の声がしっかり伝わってきて、背筋が寒くなりました。
    そしてこの本を読み終えた時、ユダヤ人に対しての印象も変化しました。
    より悪化する中東の情勢を知らなければならず、その上での適切な援助ってなんなんでしょう。偏った(主に欧米による)介入は正しいのでしょうか。
    宗教よりもっと根深いものの答えの断片が、この本には含まれています。

  • 日本で普段目にする報道と、実際現地にいて目にする報道の落差に驚く。だが、そのような中でも人々は陽気で、問題だけでない部分も知ることができる。

  • 日本の消化器外科医である著者が、日本パレスチナ医療協会(JPMA)の医療ボランティアとしてパレスチナのガザ地区に滞在し、医療活動を通じて見聞きした紛争地における医療現場の真実。記者によるルポルタージュとは違った視点で、実際に手術などの医療活動に携わった医師にしか伝えられないカザ地区の医療活動の理想と現実の姿が描かれている。

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著者プロフィール

さしやま・ひろし
千葉県出身、辻仲病院柏の葉大腸肛門外科部長。
千葉大学第二外科(消化器外科)、
光学医療診療部(消火器内視鏡部門)で研修をし、
2006年から大腸肛門病の専門病院である辻仲病院に勤務する。
専門は消化器内視鏡治療および大腸肛門外科手術。
大腸内視鏡施行経験は1万5000例以上、
辻仲病院ではESDを含めた消化器内視鏡治療を担当すると同時に、
消化器外科医として腹腔鏡手術を含めた外科手術にも携わっている。
消化器内視鏡学会専門医・指導医、消化器外科専門医・指導医、
外科学会専門医・指導医、大腸肛門病学会専門医、
がん治療認定医、消化器病専門医など消化器領域の資格多数。
主著『パレスチナ 「戦傷外科」の日々――行った、診た、切った』
(彩流社)。

「2016年 『胃腸の検査・手術で困ったときに読む本』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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