- Amazon.co.jp ・本 (318ページ)
- / ISBN・EAN: 9784779116254
作品紹介・あらすじ
兵事書類について沈黙を通しながら、独り戦没者名簿を綴った元兵事係、西邑仁平さんの戦後は、死者たちとともにあった―全国でも大変めずらしい貴重な資料を読み解き、現在への教訓を大宅賞作家が伝える。渾身の力作。
村人に毎日のように赤紙(召集令状)を届けつづけた兵事係、西邑仁平さん(105歳で亡くなった、滋賀県大郷村〈現・長浜市〉)は、敗戦時、軍から24時間以内の焼却命令が出ていたのに背き、命がけで大量の兵事書類を残した。「 焼却命令には合点がいきませんでした。村からは多くの戦没者が出ています。これを処分してしまったら、戦争に征かれた人の労苦や功績が無になってしまう、遺族の方にも申し訳ない、と思ったんです」 警察や進駐軍による家宅捜索への不安の毎日。妻にさえ打ち明けることができなかった。100歳を超え、ようやく公開に踏み切った。赤紙は軍が綿密な計画のもとで発行し、人々を戦地に赴かせていた。兵事係は、その赤紙を配るだけでなく、戦死公報の伝達や戦死者の葬儀なども担っていた。
感想・レビュー・書評
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3.44/57
内容(「BOOK」データベースより)
『命がけで残した兵事書類について沈黙を通し、独り戦没者名簿を綴った元兵事係の戦後は、死者たちとともにあった―。なぜ、国家は戦争ができたのか、なぜ、かくも精密な徴兵制度が稼働したのか、戦争遂行は上からの力だけではなかった。村の日常から戦場への道のりを追った力作。』
『赤紙と徴兵: 105歳最後の兵事係の証言から』
著者:吉田 敏浩
出版社 : 彩流社
単行本 : 318ページ
発売日 : 2011/8/1詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
まず感心したのが、赤紙・徴兵のシステムがここまで緻密で高度なものだったということである。ITが進化するたびに議論になる国家による監視・管理の体制強化は、ITなどなくてもここまで緻密にできるのだということだ。
技術ではなく、国家の強い意志、国民への煽動と相互監視がそれを可能にしているのは言うまでもない。
本書のように焼却処分に逆らった方がいらしたおかげで、今、こうやって過去から学び、後世による歴史の判断が可能になっているが、IT化のもとでの国民監視で、それは可能だろうか。
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松本にて。
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在りし日の汗して努めし稲稔り今日ぞ供えん君の御前に
河瀬 勇
「赤紙は、来る時に来る」
戦時、召集令状は唐突にやってくるものと恐れられていた。人選の方法や人数、任地、令状の届け方さえも軍事機密であり、一般の家庭は受け身でいることしかできなかったのだ。
吉田敏浩著「赤紙と徴兵」は、滋賀県大郷村(現長浜市)で「兵事係」の任に当たった男性の証言と、貴重な関係書類をめぐるノンフィクションである。徴兵に関する事務は、軍と警察、地方行政機関が密接に関わった動員システムであった。敗戦後、兵事文書の焼却命令が出されたが、「戦死者を出した家族に関わる大事な書類」だと熟知していたその男性は、60年近く密かに自宅に保管していた。妻にさえ打ち明けられないことだったという。
その男性から召集令状を受け取った当地の人々の肉声も取材されている。掲出歌は、農業を営む河瀬家の長男の作。男兄弟4人全員に召集令状が届けられた。
菊薫る十月二日のあの佳き日征って来るぞの顔忘られじ
「征【い】って来るぞ」と決意した「君」は次男。2度目の召集で、フィリピン戦線で戦死したことを悼んだ兄の歌である。三男も戦病死し、一家は大切な働き手を失った。
兵事係は「戦時召集猶予者」として召集されない立場にあった。村の人々はみな、口にこそ出さないが、どこかで兵事係を恨む思いもあったと想像される。証言を残した男性は、その葛藤も胸に戦没者名簿を作り続け、2010年に没。享年105。
(2012年8月19日掲載) -
赤紙とか徴兵ってこういう仕組みだったんだ・・・と初めて知った。
国を挙げてがんじがらめになってて、当時だって戦争に反対する人は庶民レベルでも絶対にいたと思うけれど、こういう時代こういう仕組みの中で反戦なんてもししたいと思ってもすごく難儀なことだったんだろうなあ。