ブック・オブ・ソルト

  • 彩流社
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  • Amazon.co.jp ・本 (373ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784779118319

作品紹介・あらすじ

ベトナム生まれのアメリカ女性作家が描き、12 カ国で翻訳
されている問題作、日本上陸!

「うっとりさせるような小説だ」(「ニューヨーク・タイムズ・ブックレビュー」)、
「全ページに著者のしなやかな想像力が開示されている」
(ロサンゼルスス・タイムズ」)など、
全米で大絶賛され、12カ国で翻訳されている問題作、遂に刊行!

【ストーリー】   
若きピカソやヘミングウェイの才能を見出した伝説のパトロン、
ガートルード・スタインと、その同性愛的な関係にあったといわれる、
アリス・B ・トクラス。この2人の住まうパリのアパルトマンに料理人
として採用されたベトナム人、ビン。実は、彼も同性愛者だった。
2人の女主人公との共同生活を通して、ビンは自分の出自から
ベトナムで料理人をやっていた兄のことなど、声にならない
ベトナムのメモリー(記憶) をパリの地で回収していく……。
やがて、2人の女主人はアメリカへ旅立つことに。ビンは、
ベトナムに帰るか、アメリカに同行するか、パリに留まるのか……。

感想・レビュー・書評

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  • 作家・多和田葉子が選書。「国、民族、言語を超えた先にあるもの」を考える3冊 | ポップカルチャーの総合誌『ブルータス』 | BRUTUS.jp(2022.2.4)
    https://brutus.jp/author_tawada2/

    人模様:女性の視点で八雲を描く モニク・トゥルンさん - 毎日新聞(PDF 2015.6.15)
    https://monique-truong.com/wp-content/uploads/2017/03/mainichi-shimbun-061515.pdf

    ブック・オブ・ソルト – 彩流社
    https://sairyusha.co.jp/products/978-4-7791-1831-9

  • ベトナム系アメリカ人による、詩的文学。
    詩的といっても抽象的だったり、センテンスが短かったりするわけではない。
    かもしだす雰囲気がアンニュイというか美的というか。
    舞台もパリだし。

    食欲って官能的。

  • ベトナムは小さな奇跡だ。
    ユニクロでニット製品を選ぶとき、私は溢れる中国製の山の中から「made in vietnam」を探す。編み目の大きさに不愉快なむらがあったりすることが比較的少ない気がするからだ。それは、今はお気に入りになったワッフル編みのニットシャツが、珍しいベトナム製であることに気づいてからの習慣だ。

    ベトナムからの留学生のお土産だといって粉末コーヒーを家内がもらってきたことがある。勝手に粉ミルクも砂糖も加えられたその小さな袋の粉コーヒーは、甘すぎるし濃すぎるのに、不思議に嫌みのないコクがあって、なぜか美味かった。ニットにしても粉コーヒーにしても、思いがけない完成度の高さは、根気強い品質改良やテイスティングの成果なのではないかと思う。こういう地道さは米国や中国には元々ないし、今の日本からもほとんど失われてしまったものだ。

    世界史の中で米国は、最初に英国と戦って独立を勝ちとり、次いでスペインと戦って勝ち、先の大戦ではドイツや我が日本を打ち負かした。近頃では、アフガニスタンやイラクを捻り潰している。史上最強で不敗の国だと世界は思い込んでいる。だが唯一の例外がベトナムで、米国はこの小国を屈服させることがついぞできなかった。これは文字どおり世界史上の奇跡だろう。なのに、その米国に唯一勝った国がベトナムであることを世界は忘れたがっているかのようだ。ベトナムはそういう無視されることに慣れている民族なのだ。私たちは、この小国から送り出されたものは、実は世界一のものであるかもしれないという神秘に近い畏れを抱くべきなのではないだろうか。
    この国が世界に送り出したものの一つが、ボートピープルである。「南」のベトナム人は米国の撤退後虐げられていた。社会主義化が完成した国土から、海に弾き出された彼らボートピープルや彼らの子孫から、国際的な作家は私が知る限りでも何人も生まれている。『ボート』のナム・リーがそうだし、この『ブック・オブ・ソルト』でデビューを今果たしたモニク・トゥルンもその一人である。

    ニューヨークの弁護士として今はエスタブリッシュドの一員である彼女だが、彼女の描く物語は紛れもなくベトナムから見た視点にほかならない。主人公は、静かに冷徹に欧と米を観察している。けして偽善を告発するというようなとんがった感じはない。ただ、インドシナから流れ着いて、奇妙な笑えるフランス語をはなすこの雇われ料理人に向けられた「上から目線」の眼を、見られる方から見透かしているのだ。たとえば、レズビアンのカップルとして堂々とパリの街で暮らす雇い主の米国人2人を、自分だってゲイなんだぜ、ということをおくびにも出さずに主人公は静かに観察するのだ。私は、通常の恋愛よりも同性愛の方が上等だとも下等だとも思いはしないけれど、《上等だと思いこんでいるアンタ達を、こうしてクールに見つめる知性を俺は内に秘めている。それがアンタ達には見えないだろう》という「眼」には、なぜだか強い共感を覚えてしまう。

    私はこの本をたまたまパリ観光特集が目に付いたフィガロの最新号で見つけた。新刊本紹介のページになにげに載っていた。20年代の「パリのアメリカ人」の1人であったガートルードスタインの邸で雇われたベトナム人料理人が主人公であること、彼女は当時「パリのアメリカ人」の代表格だったヘミングウェイに面と向かって、「あんたらは、くだらないロスト・ジェネレーション(失われた世代)よ!」と揶揄した元祖ロス・ジェネの名付け親であったことも知る人ぞ知るところだ。だから、「パリ特集」の最新号にこの本が紹介されていることはもっともなのではあるが、これを選んだ編集者は相当にディープなパリマニアの読書人だなあ、と感心してしまう。

    2012年の「マイベスト」の本に、『フランス組曲』を挙げた人が多かった。あるユダヤ人女性作家がアウシュビッツで処刑される前に家族に託したノートに記された遺稿が、70年の時を経てひのめを見たという、あまりにも劇的なエピソードがヨーロッパの読者の感性を刺激してちょっとしたブームを巻き起こした。
    一方で、この『ブック・オブ・ソルト』である。著者の簡単な経歴が訳者解説に書かれている。ベトナム「解放」時、著者の父親は家族を先に逃がし自分は逃げ遅れてしまう。サイゴン陥落後彼は文字どおりボートピープルとなって脱出する。想像を超える苦難の末、父は残りの家族との再会をアメリカで果たすのだ。私はつくづく思うのだが、いかなる物語にも物語を生んだ書き手の物語が必ず隠されている。多くの場合、私たちはそれを知らないだけなのだ。目をこらして読み、耳をすませて聞く読書人にとって、この1冊は、奇跡かもしれないと私は思う。
    本書の冒頭には、次の献辞が掲げられている。

    ついに家に帰り着いた旅人である父に捧げる

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著者プロフィール

MONIQUE TRUONG
1968年ベトナム、サイゴン生まれ。6歳でアメリカに移住し、
現在はニューヨークに拠点を置く。
イェール大学卒業。処女作『ブック・オブ・ソルト』をはじめ、
『ビター・イン・ザ・マウス』などの話題作を次々と発表。
2013年に来日。
邦訳近刊に
『かくも甘き果実 The Sweetest Fruits』
(吉田 恭子 訳、集英社、2022年4月)。



「2012年 『ブック・オブ・ソルト』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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