演説歌とフォークソング (フィギュール彩 53)

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  • Amazon.co.jp ・本 (151ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784779170560

作品紹介・あらすじ

添田唖然坊らによる明治の演説歌から、吉田拓郎、
井上陽水、高田渡、そして清志郎らの
昭和のフォークソングにまで通底する「精神」を探る。

フォークソングのなかに流れる「精神」は古来より
日本人が持ち続けてきたものである。
多くの制約のなか多様な表現が生み出され、
資料も多く残る近代では、その精神は演説歌にて表出された。
演説歌を分析すると、フォークソングに近似したものがあり、
昭和のフォークソングのなかで、なぜ演説歌がリメイクされ
歌われたのかが見えてくる。
これらの表現にはどんな関連があり、共通性があり、
そのときの文化的背景には何があったのかを
考えることの重要性が見えてくる。
フォークの精神を根強いものにし、それを時代に合わせて
表出していったことを明らかにしていき、それを紹介する
のが本書の眼目である。

感想・レビュー・書評

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  •  著者が恵泉女子大学で行った講義「音声表現」を、あらためてまとめたもので、フォークソングの歴史を概観し、今後を展望する内容になっています。著者は主張や思いを歌で表現しようとする姿勢を「フォーク精神」と呼び、その原点を求めて歴史を遡っていきます。
     この本の新味は、従来のフォークソング解説本の多くがカレッジフォーク時代あたりから話を始めるのに対して、もっとはるか先、19世紀の自由民権運動までも広義のフォークソングととらえていること、そして浪花節や講談等までを分析の対象にしている点にあります。
     この着眼点には感心しましたが、正直、私には少し退屈でした。フォークソングを精神でとらえ、自由民権運動まで遡る、これには異論はないのですが、著者はあまりに間口を広げ過ぎて、話が散漫になってしまっているような気がします。例えば著者は、効果的な演説術をAKB48出身の高橋みなみの著書「リーダー論」から引用して語ります。この本の元が大学での講義だったことを考えると、学生になじみ深い芸能人を登場させ、フォークソングを知らない世代の興味を引くという事情があったのだろうと推察しますが、それでも私の感覚ではAKB48は著者の言う「フォーク精神」とはあまりにかけ離れています。また、高橋の述べる演説のテクニックそのものも、あえて引用すべきほどのものとは思われず、この本には不適な気がしました。
     また、講談等の芸とフォークソングを結びつけるのも、私は少し強引な印象を持ちました。(これはもしかしたら、著者が高田渡の歌に感銘を受けてフォークソングの世界に入っていったことと関係があるかもしれません)
     それから、著者の言葉遣いが気になる個所が、私には結構ありました。

    「現実という事実を報道しなかった」
    「どの時代にも囲まれる問題点は似ている」

     「現実という事実」「時代に囲まれる問題」、こうした表現はそれらしく見えますが、不正確で評論には不適だと思うのですが、この本には類似の表現が随所にあり、私は読んでいて気になりました。
     それでも、フォークソングの原点を従来より一歩進んだ視点でとらえていることや、歌の主体が「わたしたち」から「わたし」に変わっていったことに着目するなど、評価できる点も多い本だと思います。

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著者プロフィール

たきぐち・まさひと
1971年、東京都出身。演芸評論家、編集者。「オフィスぼんが」代表。
恵泉女学園大学、和光大学、早稲田大学エクステンションセンター講師。
現在は、朝日新聞で演芸情報、しんぶん赤旗で演劇評や書評を担当。
ポニーキャニオンや日本コロムビアで落語や演芸に関するCDやDVDの監修を務める。
2019年5月、墨田区東向島の化粧品店だった旧町屋を改築し、寄席「墨亭」として
オープン。
著書に『噺家根問―雷門小福と桂小文吾』(彩流社、2007年)、『平成落語論 12人の笑え
る男』(講談社現代新書、2009年)、『2009東京落語家名鑑』(小学館、2009年)、『落語を観るならこのDVD』(ポット出版、2009年)『落語の達人 - この噺家を忘れてはいけない!』(彩流社、2011年)、『公務員試験文章理解 すぐ解ける直感ルールブック』(実務教育出版、2011年)、『八代目正蔵戦中日記』(青蛙房、2014年)、『本朝話者系図』(国立劇場調査養成部、2015年)、『古典・新作落語事典』(丸善出版、2016年)、『演説歌とフォークソング』(彩流社、2016年)等がある。

「2021年 『講談最前線』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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