政治・空間・場所―「政治の地理学」にむけて

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著者 : 山崎孝史
  • ナカニシヤ出版 (2011年1月発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (210ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784779505102

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政治・空間・場所―「政治の地理学」にむけての感想・レビュー・書評

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  • 地理的スケールには、グローバル、リージョナル、ナショナル、ローカルとある。
    欧州におけるイスラム系の移民問題から、女性専用車両まで幅広く地理的問題について捉えている。

  • 出版社から著者謹呈本として送られてきた。早速,講義で使えると思って読み,ブクログに登録しようと思ったら見つからない。奥付をみたら,発行日が2010年12月20日。先日奈良で開催された人文地理学会学術大会の折にも先行販売されたとは思うが,書店に並ぶ前に読み終えたという優越感。そして,山﨑さんとは実はあまりきちんとお話したこともないのだが,送ってくれて感謝。実は一度だけディープな交流があった。1999年の『現代思想』に,オートゥーホール『批判地政学』の一部を翻訳することになっていた。本来ならば,先に『人文地理』に書評を書いた山﨑さんが翻訳すべきところだが,コロラド大学留学中のため,私にお鉢が回ってきたのだ。当時,山﨑さんとは面識がなかったので,この仕事は日本の政治地理学の第一人者である高木彰彦さんを通じて話がきたのだが,私に丸投げするのも不安に感じたのか,翻訳は山﨑さんとのメールのやり取りによって進めることになった。結局,かなり細かいところまで修正していただいて申し訳なかった記憶がある。ちなみに,この時,オートゥーホールという難しい読み方は定着しておらず,本人もつけていた略称の「トール」となっている。また,翻訳が理論編の2章になったのは,当初予定されていた現代米国の時事問題を扱った章は私には翻訳できないと判断したため,変更してもらったのだ。その後,山﨑さんが帰国して,学会などで大勢集まったなかで顔を合わせることもあったのだが,なんとなく私の存在など気にも留めていないような気がしてその時のお礼は未だいえていない。ちなみに,私は政治地理学にはあまり関心がないのだが,「地政学」にだけは妙に関心があったのだ。1997年に論文も書いているし,オートゥーホールの本は私も『地理科学』に書評を書いた。
    本書は著者自身が書いているように,「戦後初めての単著による政治地理学研究書」である。もちろん,その前の世代では高木彰彦さんの業績を忘れてはならないが,彼は翻訳書と編著はあるものの,単著はない。また,戦後日本で盛り上がりのない政治地理学を研究者レベルで盛り立てる役割を担っていたといえる。それに対し,本書で著者は自らの研究に基づく箇所が多いものの,基本的には学生レベルでの関心を高めるために本書を執筆したという。地理学の教科書としては,著者の同年代でもある大城直樹氏や私の同年代である加藤政洋氏によって数冊比較的良質なものが作られてはいるが,正直複数の執筆者によるそれらの教科書を一人の教員が半期,ないし通年をかけて講義の教科書とするには適していないと思う。
    さて,前置きが長くなったが,本書は半期での教科書を意識しているのか,半期の授業回数と等しい14章から成っている。

    第1部 政治地理学がたどってきた道
    1 政治地理学の起源と地政学の盛衰
    2 戦後の政治地理学――その日本的展開
    3 政治地理学の展開と課題
    第2部 空間・場所・領域
    4 空間分析批判
    5 場所の政治的意味
    6 人間の領域性
    7 グローバル化とナショナリズム
    第3部 コンテクスト/スケール/言説の政治
    8 コンテクストの政治
    9 スケールの政治
    10 言説の政治
    第4部 事例研究にむけて
    11 大都市圏行政と公共選択論
    12 政党の編成と対立
    13 領域と社会運動
    14 安全と安心のまちづくり

    著者が冒頭で,日本の政治地理学が戦後なぜ盛り上がらないのかを,戦時中に盛り上がった「日本地政学」との関連で論じる。といっても,決して戦争への加担ともみなされかねない日本地政学へのタブー視だけが,政治地理学の不人気だとはみなしていない。そこで,に本の地政学から戦後の政治地理学を丁寧にたどる。しかし,やはり1章に当てた分量を,1回分の講義を念頭においているためか,ある事実は単純化され,もう少し突っ込んで理解したい事項があっさりと結論付けられたりと,物足りなさも感じる。しかし,そこは教科書だけあって,戦後の英語圏政治地理学で話題になった論点をほぼ網羅しているように思う。
    地政学の話は第1部で触れられている他,第3部の言説に関する議論としてもう一度登場する。そこでは,私が杉山氏と香川氏と共同執筆した2007年の論文も取り上げてくれている(しかし,その他の私の地政学関連の文章は全く無視されています)。アグニューが論じた「場所の政治」についても,新しい地誌学からの流れとしてしっかり説明されているし(だからこそ本書のタイトルに「場所」が入っている),最近著者自身が『空間・社会・地理思想』に翻訳したサックの『人間の領域性』(1986)も,サックによる1970年代からの空間分析批判もとりあげながら,なかなかうまい話の展開でつなげていると思う。
    後半,若干「これって本当に政治地理学なの?」って思わないこともない。そもそも,人文地理学全般に「政治性」を問題にしてきており,かつては社会地理学(そもそもサックも政治地理学を標榜していたわけではない)や文化地理学と呼ばれていたような研究が,本書の事例のなかにも登場する。本書は事例にも気を配っていて,かなり豊富な身近な事例が登場する。これまた,安易なものから説明不足のものまであるが,まあ教科書における事例は語りすぎな方がいいかもしれない。それから,私のような読者にはくどいような基本的な用語説明の注があるが,当該ページの下部に印刷されているのは嬉しい。
    本書は冒頭で妙に日本の独自性にこだわっている。あくまでも米国留学していた経験上,英語圏の理論を紹介しているが,日本の政治地理学が英語圏の理論の適用だけになってはいけないという。また,本文でも何度か登場する地理学の独自性は場所志向的に物事をみる能力だという。そういう意味では著者はかなりナイーヴで古風な地理学者だともいえる。人種,民族,ジェンダー,セクシュアリティに関する議論をまとめて「ポストモダン論」と括ってしまうのもちょっと強引な気がするが,まあ,著者の志向が外向けのアクチュアリティにあるのであって,内向的に政治について考えがちな私とは思考の方向性がかなり違っているというだけで,まさに彼のような人物がこれからの日本の政治地理学を牽引していってくれると思う。

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