同化と他者化 ―戦後沖縄の本土就職者たち―

著者 :
  • ナカニシヤ出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (450ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784779507236

作品紹介・あらすじ

復帰前、「祖国」へのあこがれと希望を胸に、本土へ渡った膨大な数の沖縄の若者たち。しかしそれは壮大な「沖縄への帰還」の旅でもあった-。

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  • 「自分語り」がしたくなる本を / 『同化と他者化 戦後沖縄の本土就職者たち』著者、岸政彦氏インタビュー | SYNODOS -シノドス-
    http://synodos.jp/newbook/4112

    同化と他者化 - 株式会社ナカニシヤ出版
    http://www.nakanishiya.co.jp/book/b134997.html

  • 一般的に複数の民族が共同する社会において、マイノリティのアイデンティティが「他者性」という形で確立するのは、マジョリティとマイノリティの社会・政治的な関係性においては、ある種の緊張関係で前者が後者に対して「同化」を強制する際においてである、と解釈されている場合が多い。それは歴史における様々なマイノリティ民族の問題を考えた場合に帰納的に得られる一つの結論ではある。

    一方で、本書が証明しようとするのはそうした一般化に当てはまらない仮説である。著者は日本復帰前後の沖縄と本土の関係性に焦点を当てて、差別や暴力ではなく、双方からの「両想い」のような同化圧力の中でもマイノリティの「他者性」が確立され、結果として「民族的同化」は不可能になるということを、沖縄の若年層の本土就職をモチーフに明らかにする。

    著者は沖縄の中卒者・高卒者が大挙して東京や大阪などの本土都市に就職した本土就職は、当時の沖縄経済の好調さや失業率の低さを踏まえると、決して経済的な側面からなされてものではないことを明らかにする。そして本書の白眉ともいえる多数の本土就職者経験者へのヒアリングから、そこから当時の本土での生活が苦しいものなどではなく、むしろ美しい青春時代の経験として「ノスタルジックな語り」で表現されていることに着目する。そして、多くの語りにおいて、「ラジオから流れてきた沖縄民謡を聞いて、沖縄を懐かしんだ」というようなエピソードに示されるように、自身が過ごしてきた沖縄の良さを再確認するかの如く、多くの本土就職者は数年で沖縄に戻っていってしまうのである。

    合わせて行われる本土就職に関する政策等のドキュメントの分析からは、本土就職は沖縄が本土というマジョリティに同化するための一手段として政策的に位置づけられていることが示されるが、かといって、その経験は別に苦しみに満ちたものではなく、当事者にとっては「ノスタルジック」な、美しい思い出として認識されている。

    これらの分析を踏まえて、著者が結論付けるのは、
    ・青春の幸福な記憶として位置づけられる本土就職とは、日本政府と琉球政府の共犯関係により、沖縄の若年層を「日本国民化」することを目的としたものであるが、決して抑圧的なものではなく、沖縄の若年労働者と政府との「両想い」的な関係に基づくものであったこと
    ・にも関わらず結局、多くが沖縄での生活にすぐ舞い戻ってしまい「日本国民化」しなかったのは、本土での生活の中で、マイノリティとしてのアイデンティティを認識せざるを得なかったこと
    ・つまり、一見理想的に思えるマジョリティとマイノリティの「両想い」的な関係においても、民族的同化は不可能であるということ
    である。

    本書の価値は、民族的同化の不可能性や困難さをここまでソリッドに証明する点にある。民族問題以外にも様々なマイノリティの問題が依然解決していない現代社会において、我々はその不可能性を認識した上で、同化を図るのか、融和を図るのか、また別の姿をゴールに据えるのか、考える必要がある。

  • 本土側が希望する就職者を作ると同時に、今も本土側が沖縄に対して抱いている"幻"を、本土就職者に対しても刷り込んでいく。例えば「本土」を知らなければ、そこに赴くにあたって必要とされた「幻としての沖縄」を知る事が無ければ、「自分」を問い続ける旅も始まらなかったのかも。何故かしら…ふと、ケニアの少年から「僕たちが"貧乏"だと分かったのは、君たちが来てからだよ」と言われたことを思い出した。

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著者プロフィール

岸政彦(きし・まさひこ)
1967年生まれ。社会学者・作家。京都大学大学院文学研究科教授。主な著作に『同化と他者化』(ナカニシヤ出版、2013年)、『街の人生』(勁草書房、2014年)、『断片的なものの社会学』(朝日出版社、2015年、紀伊國屋じんぶん大賞2016)、『質的社会調査の方法』(石岡丈昇・丸山里美と共著、有斐閣、2016年)、『ビニール傘』(新潮社、2017年)、『マンゴーと手榴弾』(勁草書房、2018年)、『図書室』(新潮社、2019年)、『地元を生きる』(打越正行・上原健太郎・上間陽子と共著、ナカニシヤ出版、2020年)、『大阪』(柴崎友香と共著、河出書房新社、2021年)、『リリアン』(新潮社、2021年、第38回織田作之助賞)、『東京の生活史』(編著、筑摩書房、2021年、紀伊國屋じんぶん大賞2022、第76回毎日出版文化賞)、『生活史論集』(編著、ナカニシヤ出版、2022年)、『沖縄の生活史』(石原昌家と監修、沖縄タイムス社編、みすず書房、2023年)、『にがにが日記』(新潮社、2023)など。

「2023年 『大阪の生活史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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