私が愛した東京電力―福島第一原発の保守管理者として

著者 :
  • かもがわ出版
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感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (176ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784780304718

感想・レビュー・書評

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  • 「東電人生32年間を踏まえ、福島第一原発事故とは何だったのか、今後の東電はどうあるべきか、さらに原発・エネルギー政策をどうするのかについて、自分なりの考え方をのべていきたいと思います。」

    原発事故のまとまった解説書を初めて読んだ。国民総解説者になっているかの様な現在ではあるが、私なんかは肝心な処で理解で来ていなかったんだなと、こういう本を読んで気がつく。

    そうか、やっぱりプルトニウムは「格納容器の底をを貫通し、地下まで達し、地下水まで汚染を広げ、海に流れ出す可能性もあります。いまは、原子炉格納容器内でとどまっているだろうといわれていますが、それは誰にもわかりません」なのだ。二号機の水位が60センチだと最近分かった。それでも温度が上がらないのは、ブルトニウムが既に無いからだろう。または、下請け作業員の放射線量は信用出来ないと思っていたけど、やっぱり「(放射線が)低い処に置いて作業する」ということは、あったのだ。

    東電の現役社員からの告発本はまだ出ていない。よって、元東電(しかも技術畑の部長)社員からのこの本は貴重である。東電のトラブル隠しの体質は、蓮池さんは何度も指摘する。02年の時、小泉訪朝に合わせてプレス発表したというのもその一つ。何故もっと安全に対するコストをかけなかったのかと、問われれば「改造をしてしまうと、じゃあそれまでは危険だったのか、と言われるのが怖いし、そうなるとさらにコストをかけないといけなくなる」という理論らしいです。バカにしている。反対に言うと、これが原発事故の「原因」だろう。人の命よりも、自らの保身を優先する体質。果たしてこれから「改善」出来るのか。ストレステストの経緯などを見ていると「出来ない」と思った方が良い。

    「原発の電気は安い」というのもある意味では神話で、私がいた頃からどんどん発電コストが上がってきて、液化天然ガスによる火力発電と拮抗してきたので、最近は地球温暖化の影響を受けて「原発は二酸化炭素を出しません」という方にキャンペーンがシフトしてきました。…と、蓮池さんは云う。

    さらに重要なのは、蓮池さんは決して原発事故があったから東電を辞めたわけでも、会社から圧力があって辞めたわけでもないということです。

    「このまま行けば、原発は自滅する」核燃料サイクルの仕事に携わって、それが出来ないことに気がついたので、辞めたわけです。
    …多くの論者が言っていることですが、現場の人が言うと説得力は相当あります。結局、蓮池さんが言う様に、15-20年かけて原発を「フェイドアウト」するしか無い。

  • 【ノート】
    ・たまたま目についたが、こういう視点も必要ではないかと。
    ・と思ったら、別に、東電関係者の、東電擁護本ではなかった。
    ・著者は北朝鮮による拉致被害者家族連絡会で有名な人だったらしい。家内から聞いて知った。
    ・東電勤務時代の率直な回顧は読みやすかった。
    ・回顧もよかったが「拉致と戦争と原発を結ぶもの」という対談もよかった。
    ・「現在の反原発派の世論の動向を見ると、そういう恐怖によって煽られた世論が戦争のような重大な政策決定を政府にさせる過程と似ている部分があって、その気持ち悪さをどうやって伝えていったらいいか、僕はわからないのです。」(P122)
    ・これ、いい本じゃないだろうか。やるな!かもがわ出版!

  •  本書は、東京電力に32年間勤務した元社員による体験記。内情を語る貴重な証言となっている。

     水力から原子力、そして送電、変電配電など各部門間には、人的交流やコミュニケーションがほとんどないとの記述に驚いた。

    「原子力なんて、(外国から)丸ごと買って来たもんじゃないか」とみる他部門の社員。

     本書で報告される体質の特徴とは、画一性と、セクショナリズムだ。しかし、それは何も東電だけのことではない。あらゆる組織に大なり小なり、同じようなことがある。

     このことに戦慄する。つまり、東電は彼岸異なる特別の存在ではない。「私たち」自身なのかもしれないということだ。

     福島第一原子力発電所の事故以来、東電叩きの言説をさかんに目にする。問題の精査や責任の追及が必要なことはいうまでもない。

     しかし「あっち」の問題として「東電爆発しろ」と言及するだけでは、何も変わらないし、同じ事を繰り返してしまうのではないだろうか。

     「悪の凡庸さ」を想起させる好著。

  • 北朝鮮拉致被害者家族の会の代表だった蓮池透さんは、あの当時、東京電力の社員で原発部門に所属していたのだった。2009年に早期退職し、自由な立場から原発問題を語る。  
    タイトル程の愛は感じられず、拉致被害者の会代表の時と同様に淡々と、原発現場の感覚、電力会社の体質、反原発派の非現実的な主張、を切っていく。 バランス感覚に長けた方なのだろう。

  • 東電に入社し中の人として働いていた頃の様子がよくわかる描写である。

  • タイトルが蓮池さんの気持ちに沿っているかどうかは疑問。出版社がインパクト重視して決めたのではないかな?と思ってしまった。
    読んでいて、怖いなーと思った。分からなくても、専門外だからとはねつけるのではなく、自分でも少しは分かるように勉強しないといけないですね。

  • 実際に福島原発に身をおいた筆者が、専門的なことを非常にわかりやすく書いています。
    東電を退職されましたが、それでもなお在職中に知りえた秘匿事項はあるでようから、ある程度、ぼかしたところがあるのは仕方ないと思います。
    顔を知られている人が内部告発的に書くのも非常に勇気のいることですし。

    最終章の対談で、拉致問題にも触れていますが、原発の問題と拉致を一気に結びつけるような展開には首を傾げました。

    誰も責任をとらない、当事者意識がなく、ポリシーのない政治家や官僚が事態の悪化を招いたという点では、共通しているのかもしれませんが・・・

    蓮池さんも拉致問題がなければ定年まで東電にいられたのではないかと思いますが、大きく人生が変わったお一人なのだと思います。

  • 原発の技術者という観点から描かれている。それだけでなく、拉致被害者家族会のことを例に今後どう対応して行くのが良いのかも書かれていて非常に興味深い。

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著者プロフィール

「拉致被害者家族会」元事務局長

「2010年 『拉致問題を考えなおす』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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