- Amazon.co.jp ・本 (157ページ)
- / ISBN・EAN: 9784780801842
作品紹介・あらすじ
物書き業のかたわらに週一回、ゲイバーを経営している義明。作家としてはすでに書きたいテーマを書き尽くしてしまった感を覚え、気鬱な日々を過ごしていた彼の前に、弱冠二十歳のハーフの美少年、ユアンが現われる。自分への無垢な好意に、暗い情動を突き動かされる義明。当然のように二人は関係を持つ。突然の僥倖に淫する義明だったが、彼には長年のパートナーがいた。
27年の年の差を埋めるように、すべてを欲しがるユアンと、そんな恋愛感情は長くは続かないことを知っている義明。若者のストレートな純愛と老獪な中年の恋愛は当然激しくぶつかり合う。
「どうやったって過去は手に入れることはできないよ」
「いや、俺は全部欲しい」
お互い傷つけ合い、貪り合うような恋。そしてついに終止符が訪れる──。
「これが男と女だったら、そこまで互いを追いつめたりしない気がするわ」(本文より)
感想・レビュー・書評
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作者自身をモデルにしたと思われる、新宿でバーを開く同性愛者の主人公が、そこに来た客、美青年のユアンと出会い、恋人として付き合い始める。しかし主人公には十年来の、遠距離恋愛の恋人がいて、そちらとの関係を断ち切ることは無く、一途な愛情を求めるユアンとのすれ違いが大きくなっていく。
というのがだいたいの話なのですが、それに加えて、一番最初に新宿二丁目にバーを開いた老人松川氏へのインタビューというのが断片的に挿入されていくことになる。
同性愛者の恋愛は、なぜか実際つきあっている人間がいても、性欲は別のところで解消するということが多いように思う。それが一体なぜなのか、というのは分からないのだけれども。それに、かといって今回の主人公とユアンの関係は、単純に体の関係だけ、ということでも無い。これを主人公の不具として見るか、そこにある程度の共感を覚えるかで読み方がだいぶ変わってくるだろう。自分としては、理解できなくはないものの、やはりユアンに感情移入してしまった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
恋愛というものは、若かろうと、中年になろうと、余裕しゃくしゃくというわけにはいかない。
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最後のシーンに本当に全部持っていかれた。
2人の相手に持つ感情の違いもなんとなく理解できるけれど、ユアンにしてみたらたまらないよなその状況…と思いつつ読んでた。
それでも最後に見せた主人公の情熱、というか熱量が本当にもうなりふり構わない感じで、なんかもう、ぐっとくる。
これが恋か、という気持ち -
作者は中村うさぎとの対談でこんなことを言っている。
「主体的で、対等なジェンダー間での恋愛は果たしてうまくいくのか、自我と自我がジェンダーの差異を挟まずに剥き出しでぶつかり合ったときに、果たしてどういう関係性が可能なのか、というのが一つのテーマでした」
この本で描かれるのは、中年のゲイ・義明と、彼よりも遥かに若いハーフの男・ユアンとの同性同士の恋愛だ。ユアンよりも遥かに多く人生経験を積んだ義明は、ユアンとの恋愛において圧倒的に"優位"だ。加えて彼には忠士という実質的なパートナーがいて、20年の歳月の間に少しずつ積み重ねてきた彼との関係性をユアンにちらつかせる。ユアンは始めはそれに耐えられないが、彼がアメリカに帰るのを機にいざ別れを切り出すと、ユアンとの恋愛であれほど優位に立っていた義明は見るも無様に彼との別れに抵抗するのだ。
義明はユアンに自身の経験からくる教訓を語り、またユアンという遥かに若い男との恋愛に対して自らを戒めたりもするが、いくら理性を保とうとしたところで恋愛はそれをすべて無にしてしまう。恋愛は感覚的だ。言葉で説明する前に感情が動く。だから魅力的だが、一方でコントロールできないからこそ不安にもなる。でも誰にも先が見えないからこそドラマが生まれるのかもしれない。
「いかにして異なる二人が関係性を築くか」というテーマで読むとなかなか面白い。先の対談の中で中村うさぎが指摘していたが、男女の恋愛であれば「まぁ男と女は所詮分かり合えないよね」と安易な逃げ方もできてしまうわけだ。しかし男同士の恋愛だと、二人の差が露骨に浮かび上がってくる。「性差」に逃げられず、二人の「差」と真っ向から向かい合うことになる。義明は結局、この「差」に向き合うことから逃げてしまっていたのかもしれない。年齢の差、経験の差…それは決して埋まらない。埋まらない差をどうやって妥協しながら関係を作っていくべきなのか?
義明は自分が年長者であるという自負、はたまた恋愛で辛酸を舐めてきたというプライドが、彼自身を素直でなくしてしまったように思える。素直でなければ人は他者と上辺だけでしかぶつかれない。そこに確かな関係性は生まれないのかもしれない。 -
「坑道を潤すような残響がある」とか言う20歳の男の子にはリアリティを一切感じない。最後のオチは私小説らしくていい。