跳びはねる思考 会話のできない自閉症の僕が考えていること

著者 :
  • イースト・プレス
4.10
  • (125)
  • (130)
  • (67)
  • (11)
  • (1)
本棚登録 : 1289
感想 : 159
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784781612454

作品紹介・あらすじ

重度自閉症の著者が「生きる」ことの本質を鋭く、清冽な言葉でとらえた珠玉の一冊。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 本書を読んで、言語によるコミュニケーションの困難さ、こだわり行動など、自閉症に関連して表面的にしか理解していなかったことを痛切に思い知らされた。支援学校の教員をしてる友人からは、お子さんたちの日々の様子を聞く機会はあったが、個々の行動の内面にある葛藤を知ることはできなかった。

    ”自由にならない壊れたロボットの中に閉じ込められた知性”として、心の内面と普通の社会とをつなげるために、東田さんとご家族がなされてきたご苦心。全てを明らかにしてくれたことは、苦しみを持たれているご家族の方たちにとっても、我々にとっても理解せねばならない貴重な内容であると思う。

    一方で、我々は外の世界を分離し、区分し、意味立てて理解しようとしている。それが合理的であり、社会一般の通念として通じる理解の仕方で、世界を見ているのであろう。東田さんの著作を通じて、こんなにも純粋に外界と自分のつながりを感じ取ることのできる感性に驚きを覚えた。

    人が話しかけるときの理解の難しさ、それは風や、鳥の声、匂いや、温かさ、全ての情報が同じレベルで話しかけてくる、その時心をとらえた一点に集中してしまうため。
    青い空を見上げて、泣きたくなるような一体感を感じてしまうとき、そこには自我と外界の区分も無くなる。

    私たちが感じ取ることのできない、優れた感覚をお持ちなのだ。
    他の方のレビューで、今年一番の本というのがうなずける一冊です。

  • 読みながら、何度も何度も涙をぬぐった。悲しいのではなく、胸がしめつけられるように切なくて。(「切ない」と言う表現は日本語にしかないんだった、などと思い出したりもしながら。)

    重度の自閉症を抱えている著者は、自分のことを『まるで壊れたロボットの中に閉じ込められているかのよう』と表現する。
    自分の願いどおりに身体が動かず、『線ではなく点になっている記憶』が何らかのきっかけで蘇ると、『突然笑い出したり』恐怖のあまり『叫んでしまう』というのだ。
    その場にふさわしい言動を取ることが出来ず、それを止めることさえ出来ないのだと。
    自分の居場所がないと訴える人は近年かなり多いが、その人たちはそう言葉で表現できるし、それを言える場もあるし、たとえネット上であれ聞いてくれる相手もある。
    だが東田さんは、こんなにも深く人生を思索し哲学し、自分を見つめる鋭い眼を持ちながらそれを表現できなかったのだ。
    自閉症の彼を抱えて生きてきた家族の方々の長年の辛苦も含めて、もう涙しか出ない。

    ややユニークな構成の本で、著者の言葉たちが綴られている合間に、編集者とのインタビューも載せられている。
    そのやり取りがとても面白いのだが、この場面で自閉症である彼をあらためて認識してしまう。 
    彼の言葉を綴った部分は、常日頃私たちが「これはこうではないかな」と漠然と思うことをすっきり言語化してくれてあり、それがまた実に凛として清々しい。
    繰り返し語られる『自分はこう生きたい』という意志と願いの部分は、心の深部をえぐられるような感動さえよぶのだ。
    ああそうだ、そうだった。かつて確かに私もそう思っていた、と。
    そしていつの間にか忘れていた無垢な言葉の数々に、ただもううなだれてしまう。

    自閉症の子を抱える世界各国の親たちの間で、東田さんの本は感謝され賞賛され求め続けられているという。
    いえいえ、健常のはずの私だが、もしや障害を抱えているのは自分ではないかと悲しくなってくるほどの素晴らしい内容だったと言い添えておく。

    かつて、常に動き回り飛び跳ね、奇声を上げる男の子がいた。
    かたや、常に動かず視線も下向きで表情も乏しい男の子もいた。
    不思議なことに、動き回る子の方が、動かない子をいつも代弁し、フォローしていた。
    この子たちの言葉が分かりたいと、あの頃どれほど渇望していたことだろう。
    ふたりは、『壊れたロボットの中に閉じ込められて』、どんなにか不自由だったことだろう。今にしてそれが分かる。
    ふと心の中に芽生えてもそのままやり過ごしてしまう、純粋な「気づき」や考えることの喜び、魂と対峙するような数々の瞬間、そんな豊かな時間を与えてくれたあのふたりに、あらためて感謝でいっぱいになる。
    そうだ、今からでもお礼に行こう。間に合ううちに。

    • 8minaさん
      nejidonさん、こんにちは。
      読後の強い感動が伝わってくるレビューでした。子供たちといろいろな関わり合いをご経験されているのですね。私...
      nejidonさん、こんにちは。
      読後の強い感動が伝わってくるレビューでした。子供たちといろいろな関わり合いをご経験されているのですね。私は図書館で順番待ちです。
      2014/12/08
    • nejidonさん
      8minaさん、こんにちは♪
      コメントありがとうございます。

      はい、今年はこの良い本にめぐり合えて良かったと、そう思います。
      仕事...
      8minaさん、こんにちは♪
      コメントありがとうございます。

      はい、今年はこの良い本にめぐり合えて良かったと、そう思います。
      仕事を通じて直接的に、時に間接的に関わった子たちを思い出さずにいられませんでした。
      今もなお、当時のお仲間さんたちは懸命に稼働中です。
      少し多めにこの本を購入して届けようかと画策中です(笑)
      8minaさんのお手元にも、早く届きますように。
      レビューを楽しみにお待ちしています。
      2014/12/08
  • 会話ができず、跳びはねたりふいに大声を出してしまう重度の自閉症を患う東田さんの手記。自閉症の方の見えている世界・感じている想いを知る手立てはないと思っていましたが大きな誤解でした。

    「まるで壊れたロボットの中に閉じ込められているようだ」
    この一言にはハッとしました。しっかりと周りも見えていて、自分のことも理解している。喜び、哀しみ、悩み…豊かな感情を持っている。
    周りが簡単にできることが自分にはできないという苦悩した日々もさることながら、東田さんの目に映る柔らかな景色や“今”を大切にする姿勢など素直で、そしてとても優しく丁寧に綴られた言葉は詩を読んでいるように心地良くすらありました。

    自閉症を患っている人が周辺には居ないためについステレオタイプ的に自閉症の印象を捉えていた自分が恥ずかしい。予測のつかない言動をする人に対して、「理解ができない」「怖い」と感じる人も少なくないはず。
    自閉症を患う人がそばに居る人もそうでない人も、1人でも多くの人にこの本を手に取ってほしいと思います。彼が文字盤を駆使して語る心情に、外からは知りえなかった多くの気づきがあるはずです。

    ~memo~
    ・記憶は「線」ではなく「点」。
    ・他人は風景の一部となる。ひとつのものしか目に入らないのではなく、どうしようもなく惹かれる。
    ・肌で匂いで、「夏」を探し出す。
    ・突然声を上げたり騒いでしまうのは、「点」で記憶をした過去の映像がフラッシュバックするため。

  • 重度の自閉症の著者の徒然の思いが描かれているエッセイ。普通の会話ができない=何も理解できていない、考えていないということではないということがよくわかります。
    文章だけ読んでいるとホントに自閉症なの?と思うくらいなのですが、間に挟まれるインタビューの様子で、ああ本当に重度の自閉症の人なんだなあと・・・。
    それにしても彼の紡ぎ出される言葉の美しさ、繊細さは素晴らしいです。描かれるの思いは障害をもたない私たちにも響いて、共感できる言葉がたくさんあり、手元に置いておきたい一冊となりました。

  • 文章を読んで感じたことが二つある。
    東田さんは、なにか対象物に対する共感力や没頭力が高い。作家になるべくしてなった人なのだと思う。
    もう一つは、文章がわかりやすい。その理由は、意見のあとに、すぐ根拠を述べているからだと思う。

    印象に残ったことばがあった。
    「自分は色々な人に支えられているとわかってから、人への恐怖心がなくなった」

  • 自閉症の人がどう感じ、何を思うか、最近随分わかってきたようだが、やはり当事者の書いたものは貴重だと思う。
    自分の身近に自閉症の人がいないから、無責任だとは思うけど、自閉症の人たちが好きになってしまう。
    人前では愛想よく、おべんちゃらを言って、陰では悪口言ったり、足引っ張ったりする「定型発達」の人と比べたら、人間としてずっと上等なんじゃないか。
    水の動きに心奪われ、同じことを繰り返して安心してしまうようなことは誰しもあるけれど、ここまで豊かにとらえてない。「感性が豊か」なんて紋切り型の表現にはおさまらないほどの深い感覚を持っている。
    こういう本がなかったら、コミュニケーション不可の人と思い込んでしまったかもしれない。
    もし自閉症の人と知り合いになったら、案外仲良くやれるかも、と希望も持った。

  • 自閉症の人もそうでない人も人それぞれにその人にしかわからない世界があって、色々な思いがある。
    東田さんは詩のように流れる文章で心の中を教えてくれました。
    日々、自閉症の子どもたちと関わる事が多い自分も会話が難しい子とのコミュニケーションに悩む事が多々あります。第3章の他者とともにの中の『話せない僕の望み』では言いたいことが相手に伝わらないのは日常→思いが伝わっていないと感じる→不満や葛藤が生まれる→気持ちが十分伝わったと思えたなら、一言だけでも満足と記してありました。言いたい事が伝わらない事が日常なんてどんなにストレスなことでしょう。東田さんのご家族のように、少しでも相手の気持ちが軽くなるような言葉かけや触れ合いができたらいいなと強く感じました。
    とはいえ会話と言うコミュニケーションツールをつかっても自分の思いを伝える、相手の思いを汲み取る事は誰にとってもとても難しい事です。東田さんのように自分の思いをこんなふうに文章で綴れるって素晴らしい。

  • 外から見る自閉症って、怖い感じだったけど、いろいろ理解できて安心した。無知は良くない。もう少し調べてみようという気になった。

  • 子供のころの
    思うように伝えられない葛藤も
    そのまま書いてくださってて
    とても 辛いことだったんだろう
    と胸が痛くなりました
    それでも 透明感のある
    詩のような美しい文章で
    心の美しさがにじみ出るようでした

  • 読んでいる間ずっと透明な水の玉がころころ転がったりはじけたりするようなイメージがありました。

    私自身身内に自閉症の者がいて四半世紀以上の関わりになるというのに、この本を読んで「あれはそういうことだったのか!」という発見というか納得というかそういう「!!」というようなことが結構ありました。

    「自閉症だからといってみんな知能が低いわけではない」と著者も語られていること、そのことを自閉症者との関わりで自分も気づいていたはずなのに言われるまできちんと認識していませんでした。いやぁ今まで失礼だった。驚いた。わかっているつもりのことが全くわかっていなかったんだと思い知らされ目から鱗が落ちっぱなしでした。
    こんな風にその世界を語ってくれる人がいて本当に良かったな、と思いました。

    著者の文章からは端正な知性と柔らかい感性を感じます。この本からは詳しいことはわかりませんがきっとご家族の人間性や寛容さが素晴らしいのでしょうね。

    本の設えも手に取ってもらいやすいように成功していると思います。文も平易で、活字の大きさや行間の余白、本全体の厚みやインタビューや挿絵の挟み方など、本を読みつけていないような人や中学生くらいの方でもすいすい読めると思います。
    いい言葉や文章がたくさんありましたが、引用だらけになってしまいそうです。

全159件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1992年生まれ。重度の自閉症でありながら、パソコンおよび文字盤ポインティングによりコミュニケーションが可能。著書『自閉症の僕が跳びはねる理由』が現在30か国以上で翻訳され、世界的ベストセラーに。

「2020年 『世界は思考で変えられる』 で使われていた紹介文から引用しています。」

東田直樹の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
佐々木 圭一
辻村 深月
朝井リョウ
西 加奈子
ジェームス W....
三浦 しをん
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×