- Amazon.co.jp ・本 (179ページ)
- / ISBN・EAN: 9784782103654
作品紹介・あらすじ
本書は2001年に国内でBSEに罹患した牛の発覚に始まり、鳥インフルエンザや2010年の宮崎県の口蹄疫の発生など、矢継ぎ早に起こった家畜の感染症に獣医がどのようにアプローチし立ち向かったかということを、著者の体験を基にまとめたものである。それまでは、あまり表に出ることがなかった獣医が、食の安全や家畜等の食料の確保について、メディアや政府機関で説明するような機会が大幅に増えた。それは、家畜などの食料をめぐる世界的な感染症や、人獣共通感染症の脅威の高まりと無関係ではない。そして、こうした脅威に対する危機管理、獣医師の教育の在り方にも大きく影響した。本書は次世代の食の安全・食糧確保のもろもろのことを考える上で、一読をお勧めしたい。
感想・レビュー・書評
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マンガ風の装丁とはうらはらに、食の安全保障やヒトの生命・健康にも直結する家畜を巡る、獣医の渾身の取り組みが描かれる。2001年のBSEから、SARSや高病原性鳥インフルエンザ、2010年の口蹄疫。検査などの現場はもちろん、問題提起や説明責任の多くを果たしたのは獣医達とのこと。
大きく報道されるも、今なお理解がむずかしいこれらの感染症の原因、感染のしやすさ、発生した時に何が問題となるのかなどが解説される。
食の供給や経済活動が世界規模で行われる今日、著者は食品安全委員として、まずは科学的なリスク評価を実施した。しかし、結果的に牛肉輸入の再開には政治が介入し、科学的な評価の根拠が覆される。科学ではない“安全神話”にもとづくBSE全頭検査は未だに続く。
そこには新しい「リスク分析」という斬新な考えへの理解の未熟があり、管理する行政、自分で判断しない消費者自身にも責任があると言う。深く考えさせられる一冊。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
BSEや鳥インフルエンザに奔走する獣医の姿を描く。
伝染病の性質や法規について詳しく書いてあります。 -
これからの獣医さんは、どこを目指して走って行けばいいのかーー
その問に対し、日本の家畜防疫の最先端を走り続けていた著者は、
「one word, one health」(世界は一つ、健康は一つ)
というゴールを提示しています。
今更ながら物流及び交通のグローバル化が進むにつれ、国境を越えた感染症対策が重要視されています。
その中には鳥インフルエンザ、エボラ出血熱、BSEといった人獣共通感染症が多く含まれています。
また口蹄疫のような家畜のみに対する疾病も「食糧の安全保障」といった観点から、生産者のみならず消費者へも大きな意味をもっています。
獣医さんの役割は、日本の古典的な獣医師像に比べて、二つの点で大きく拡大しています。
一つは自国だけじゃなく、他国の家畜衛生に気を配らねばならないこと。
もう一つは、家畜だけじゃなく、人の健康まで責任を負わなくてはならないこと。
著者さんは、「one world, one health」という言葉を繰り返し用いることで、現代の獣医師の使命を再定義しています。
ご存知のよう(?)に、日本において獣医師の地位は、決して高いものではありません。
ありがたいことに一般の人の認識は違うかもしれませんが、他なる獣医師自身は、自覚している方も多いのではないかと思います。
私はその理由が、今の日本の獣医師がしていることが、一次産業に留まっているからではないかと考えます。
それは、単に畜産業=一次産業という産業構造のことを示しているわけではありません。
一見すると三次産業である小動物臨床の場も同様です。
すなわち「ペットおよび家畜の病気を治療する」ことが目的とされているのです。
それは方法であって目的ではないのです。
獣医師が目指すべき目的は、それを通じて「人の生活を守る」ことです。
「one world, one health」はその考え方を支えています。
それは今まで技術と知識に敬意を払ってきた日本の獣医師には困難なことかもしれません。
ひたむきに科学に向き合ってきたのに、今度は世界を視野に置いた人の健康などという、人文社会学的な問題への取り組みを突きつけられたのです。
そんなこと獣医師に可能なのでしょうか?
1人の天才の言葉が、我々獣医師を勇気づけます。
Macを作り上げたスティーブ・ジョブズは自らが目指した人間像をこう表現しています。
「僕は子供のころ、自分は文系だと思っていたのに、エレクトロニクスが好きになってしまった。その後、『文系と理系の交差点に立てる人にころ大きな価値がある』と、僕のヒーローのひとり、ポラロイド社のエドウィン・ランドが語った話を読んで、そういう人間になろうと思ったんだ」
本書で言う「one world, one health」という目標は、日本の獣医さんが、ジョブズが目指したような自然科学と人文科学の両方を仲介するような人間になることで達成されるものであることを示しています。