エコロジ-のコミュニケ-ション: 現代社会はエコロジ-の危機に対応できるか?

  • 新泉社
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  • Amazon.co.jp ・本 (333ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784787707086

作品紹介・あらすじ

エコロジーの危機およびエコロジーに関する議論について、今日の社会システムと結びつけて論じた本書は、ルーマン社会学を理解するための格好の入門書である。

感想・レビュー・書評

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  • 【由来】


    【期待したもの】

    ※「それは何か」を意識する、つまり、とりあえずの速読用か、テーマに関連していて、何を掴みたいのか、などを明確にする習慣を身につける訓練。

    【要約】


    【ノート】

  • 大澤真幸さんの初期論文集で詳述されていた、現代社会学の大物、ニクラス・ルーマンの著書を初めて読んだ。札幌の書店で探したらルーマンの本はたくさんあったが、どれも抜群に高価でやたらに分厚く、とりあえず手頃な本書を手に取った。
    タイトルにあるとおり、「エコロジー」をめぐる書物の一種なのだが、ふつうにエコロジーのための政策とは、とか、意識変革とか、そういったことを書こうとはまったくしていない。「エコロジー」という主題が出てきたときに、ルーマン氏の捉える「社会(なぜか彼はゲゼルシャフトと呼んでいる)」の分化機能たる諸システムに、いかなる影響が出るか、ということを問うているのである。
    オートポイエーシス/システム論によって独自のラジカルな「社会学」を創出したルーマンは、ひたすら分析に徹している。彼によると社会はいくつもの「システム」の絡み合いから成り(本書によると、その諸システムというのは古典的な社会学分類をなぞるように、「経済」「法」「政治」「教育」等といった各系だ)、それらは相互に干渉し合っている(「共鳴」とルーマンは呼ぶ)が、すべてを鳥瞰して全社会を統合するような高次の理性は存在「しない」。
    難解とされ日本の読書界ではどうも評判が悪いらしいルーマンだが、私にはとても面白かった。1,2箇所を除けば意味のわからない箇所はなかったし、社会学における「社会」そのものを構成する諸概念を改めて問い直し、この学問の再出発を促そうとするルーマンの姿勢を評価したい。
    結局本書における「エコロジー」はただの「ネタ」であって、実は他の何かでも全然構わない。要するに社会の諸システムがどのように動くかということを追究したいだけだから、なんだっていいのである。たまたま、当時世相にエコロジーへの関心が高まっていたから、これを取り上げてみたのだろう。
    さて実に興味深いルーマンの社会システム論、次はいよいよ大著にとりかかってみるか。しかしやたらに高価なのが・・・。

  • ルーマンはあまり真面目に読む気はないが,『メディアのリアリティ』だけは読んでおこうと思っているが,たまたま本書を古書店で見かけたので,購入した。1986年の時点でエコロジーを論じているのも重要だし,「訳者あとがき」をさらっと読んだら,どうやら本書はルーマン社会学のエッセンスが詰まったような,入門書的なものだというので読む気になった。本書は最近『エコロジーのコミュニケーション』というタイトルで改訳版が出ていて,このタイトルの方が原題の直訳だが,私はこの初版のタイトルの方が内容にあっていると思う。
    本書は決して,現代の日本で多くの人が思い浮かべるような意味でのエコロジーについて論じているわけではない。ひとまず,目次を示してみるが,そこから分かるように,本書は社会全般について論じられていて,エコロジー問題に集中しているわけではないからだ。

    序文
    1 社会学的禁欲
    2 原因と責任?
    3 複雑性と進化
    4 共鳴
    5 観察に関する観察
    6 社会的操作のコミュニケーション
    7 エコロジーの知識と社会的コミュニケーション
    8 バイナリーコード
    9 コード,規範,プログラム
    10 経済
    11 法
    12 学問
    13 政治
    14 宗教
    15 教育
    16 機能的分化
    17 制限と強化――ごく僅かな反響ときわめて強い共鳴
    18 代理と自己観察――「新しい社会運動」
    19 不安,モラル,理論
    20 エコロジー的コミュニケーションの合理性について
    21 環境倫理

    こんな感じで,各章はとても短く,10ページ足らずのものも多い。だというのに,各章のこの大きなテーマよ!確かに,いかにも入門書的な構成だ。中盤に,経済,法,学問,宗教,教育という社会を構成する一般的な時限の名称が並ぶ。ルーマン社会学を基礎付けているのは「社会システム論」だが,これらは社会という全体システムの下位システム,あるいは機能システムというものである。ルーマンのシステム論にも当然私は初めて触れたのだが,思いの他,独自なものというよりはきちんと自然科学における一般システム論も踏まえているようです。そして,当時流行りだった,オートポエーシスもきちんと取り込まれている。本書では「自己生産」という訳語だが。そうそう,本書は訳語の面,特にカタカナ表記が気になります。「パースペクティーフ」などと馴染みの英語もドイツ語読みをカナにするのはどうなのか?フランスの哲学者ミシェル・セールの『パラジット』に何度か言及があるが,彼の名前を「ミカエル・セレー」と表記するのはさすがにいかなるものかと思う。
    さて,全体的にはシステム論に依拠している成果,論理が整然としていて分かりやすいような気もするが,やはりすっと頭のなかに入ってくる感じではない。1980年代中ごろに,「エコロジー」という言葉がどれだけ浸透していたかは分からないが,ウォーラーステインのいう「反システム運動」として,地球環境の危機を訴える社会運動が起こっていたことは確かだ。一昔前には日本のローカルな文脈でも盛んだった「公害運動」がグローバル化とともに運動の規模と目的が大きくなっていく。なので,本書における「エコロジー」ももちろんそうした自然環境という意味合いも含んでいるのは確かだが,ここではむしろ,社会システム論を発展させていくために,閉鎖システムと開放システムの関係,一つのシステムと他のシステムの関係,一つのシステムを構成する要素の範囲,そんな考察のなかで,当然これまではシステムの外部と思われていたものがシステムの重要な構成要素と認識される。そんなところに,「エコロジー」の言葉が利用されているように思う。そして,原著タイトルにもある「コミュニケーション」とは単なる人間主体間の意思伝達というものだけを意味するのではなく,システムの構成要素間のインプットとアウトプットのやりとりのことを意味しているのだろう。私の単純な読みが正しいのかどうかは分からないが,まあ,そんなところだと思う。最後にちょっと長いですが,一箇所だけ下線を引いた箇所の引用で締めくくろう。

    観察とは区別することであり,また標記することであるならば,区別する能力においては評価すること,つまり区別を区別しようと申し出ることである。システムと周囲世界とのシステム論的区別は一貫して処理され,まさしくエコロジー的課題を目指している。そのシステム論的区別は再登録の概念の助けを得て,合理性の概念の定式化を許す。そのことでシステムが合理性を入手するのは,システムと周囲世界の差異をシステムのなかに再導入し,それに基づいて(それ自身の)同一性ではなく,差異性に方向をとる程度に相応しているのである。(p.202)

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著者プロフィール

ニクラス・ルーマン(Niklas Luhmann) 
ビーレフェルト大学名誉教授。1968年から1993年までビーレフェルト大学社会学部教授を務めた。著書は『社会システム』の他、『社会の……』や『社会構造とゼマンティク』のシリーズなど多数。1927年-1998年。


「2020年 『社会システム 下 或る普遍的理論の要綱』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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