「日本人」の境界―沖縄・アイヌ・台湾・朝鮮 植民地支配から復帰運動まで

著者 :
  • 新曜社
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  • Amazon.co.jp ・本 (778ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784788506480

作品紹介・あらすじ

話題作『単一民族神話の起源』から三年。琉球処分より台湾・朝鮮統治をヘて沖縄復帰まで、近代日本の100年にわたる「植民地」政策の言説をつぶさに検証し、「日本人」の境界とその揺らぎを探究する。

感想・レビュー・書評

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  • 〇琉球処分
     琉球の処遇について、明治政府の方針は一枚岩ではなかった。
     一方では、江戸時代以来の支配方式の維持が唱えられた。その根拠として、直接支配(日本の領土に編入)方式ととった場合のコストの大きさや琉球の人々と「日本人」との間に大きな差異があるとの主張がなされた。あくまで「琉球人」による政府を存続させて、イギリスによるインド統治のように間接統治をとり、外交権などを日本が掌握して内政は現地人に任せるべきで、琉球を日本とはしない。
     もう一方の琉球論として、日本の領土に編入し、中央政府による直接支配を行う方針が打ち出された。琉球はアジアにおける交通・軍事の要衝であり、欧米諸国によって植民地化されれば、日本の安全保障にとって脅威となる。琉球防衛のためには、日本政府が直接統治する必要がある。
     結果的に、後者のルートが選ばれたことは言わずもがな。

    〇沖縄での「日本人」化教育
     琉球人を国家に忠実な日本人にするため、「日本人」化教育が言語・文化などの面で推し進められた。これは、土地制度などについては旧慣を温存して琉球を利益基盤としていた士族層の離反を避けるなど、制度上の改革は後回しにする形で行われた。
     旧慣温存と「日本人」化教育の併存については、統治上のプラグマティズムの面から唱えられることもあったが、山県有朋などは国防上の目的からその併存を主張した。
     琉球での「日本人」化政策を進めるため、琉球の歴史は改変され、源為朝伝説などを用いて琉球人と日本人の民族的同一性が広く唱えられ、同時に進められる文明化政策の影響も受けて、徐々に琉球人=沖縄県民にも「日本人」としての意識が浸透していった。
     琉球での「日本人」化教育の成功は、のちの台湾や朝鮮における植民地統治の原型となった。

  • <日本人>の境界に関わる問題はスラブ民族国家の境界のそれにも、EUの境界のそれにも、ひいては中華民族国家やアメリカにもつながるものであり、現在進行形で世界中を覆っているものである。

    又、国家や民族という大きなくくりだけではなく、地域や家族、個人、更には個人の心の中で日々揺らぎ移ろうものであろう。

    絶対的正解等ない。相対的な最大多数の納得を獲られる様な解決に向かって行かなければいけない。

    楽天にて購入。

  • ■一橋大学所在情報(HERMES-catalogへのリンク)
    【書籍】
    https://opac.lib.hit-u.ac.jp/opac/opac_link/bibid/0000143008

  • 2022年03月05日(土)返却

  • 前作でその名前が強烈にインプットされていたので読んでみたがかなりハード。これも博士論文…

  •  江戸後記から明治以降の日本が,どのような「日本」として歩もうとしていたのか,その日本のあり方に関して,とても詳細に解説してくれています。
     北海道や沖縄が日本であることは自明なのか。自明だとすればいつからか。それはどのように,そうなったのか。朝鮮や台湾が併合されたり占領されたりしたときに,どのように「日本」化しようとしたのか,あるいはしなかったのか。日本の植民地政策というのはいかなるものだったのか。
     西洋に追い付き,不平等条約の改正を求めて,富国強兵で進んできた日本。まわりの領土を獲得していくのだが,ここで問題が出てくる。「わたしたちは,西洋人がアジアでやってきたこととは違うことをするのだ」「日本人は同じアジア人として,同胞としてやっていくのだ。しかし,まだ,土人たちは未開人なので…」という姿勢で支配を強めようとするのだが…。

  • 161208-170111

  • ◆〈日本人〉とは何か
     沖縄・アイヌ・台湾・朝鮮という,近代日本が時に日本人とし時に非日本人としてきた人々をめぐる政策と言説の揺らぎを詳細に検討して,この問いを追求する。国家とは何か,国民とは何かを真剣に考えようとする人々に必読の書。
    http://www.shin-yo-sha.co.jp/mokuroku/books/4-7885-0648-3.htm

    【目次】
    序章 
    「日本人」の境界変動/「日本」と「植民地」、そして「欧米」/「包摂」と「排除」/「政治の言葉」と「表現されえないもの」


    第1章 琉球処分―「日本人」への編入
    「国内に人類」への統合と排除/外国人顧問の提言/「日本人」としての琉球人/歴史をめぐる争い
    第2章 沖縄教育と「日本人」化―同化教育の論理
    旧慣維持と忠誠心育成/「文明化」と「日本化」/歴史観の改造
    第3章 「帝国の北門」の人びと―アイヌ教育と北海道旧土人保護法
    国境紛争から「日本人」へ/〈日本人の住む土地〉/宣教師の脅威/「漸化」という論理/北海道旧土人保護法の成立
    第4章 台湾領有―同化教育をめぐる葛藤
    台湾統治の混迷/外国人顧問の同化反対論/「殖民地」か「非殖民地」か/国防重視論と対欧米意識/「日本人」化教育の開始/巻き返す非同化論/「漸進」という折衷形態
    第5章 総督府王国の誕生―台湾「六三法問題」と旧慣調査
    〈事実上の立法権〉/〈台湾自治王国〉構想/折衷としての「法律でない法律」/議会側の反発/「日本人」の意味/後藤新平の台湾王国化/根拠不明の独裁支配
    第6章 韓国人たりし日本人―日韓併合と「新日本人」の戸籍
    踏襲された折衷案/「漸進主義」の教育/国籍における排除と包摂/同化言説の完成


    第7章 差別即平等―植民地政策学と人種主義
    フランス同化主義と啓蒙思想/ル・ボンと同化主義批判の台頭/「生物学の原則」/「自治」と「離隔」/「自主」のジレンマ/二つの差別の間
    第8章 「民権」と「一視同仁」-植民地と通婚問題
    「一視同仁」の高唱/「植民者民権」の出現/通婚と「日本人」
    第9章 柳は翠、花は紅―日経移民問題と朝鮮統治論
    錯綜する論壇の統治批判/デモクラットの文明的同化主義/大アジア主義者の分化多元主義/自由主義者の分離主義/「民族問題」隘路
    第10章 内地延長主義―原敬と台湾
    文明化としての「日本人」/「日本」編入のモデル/総督府の抵抗と「漸進」/頓挫した統治改革
    第11章 統治改革の挫折―朝鮮参政権問題
    総督府による統治改革/自治か参政権か/〈総督府の自治〉の浮上


    第12章 沖縄ナショナリズムの創造―伊波晋猷と沖縄学
    沖縄にとっての同化/二重のマイノリティ/防壁としての同祖論/沖縄ナショナリズムと同祖/排除と同かの連鎖/啓蒙知識人として/挫折した沖縄ナショナリズム
    第13章 「異身同体」の夢―台湾自治議会設置請願運動
    権利獲得としての「同化」/多様性への願望/植民政策学の読み換え/キリスト教徒とアジア主義者/多元的な日本、多元的な台湾/「憲法違反」の限界/引き裂かれた請願運動
    第14章 「朝鮮生まれの日本人」-唯一の朝鮮人衆議院議員・朴春琴
    「日本人」としての権利/内地在住朝鮮人の参政権/「我等の国家」への屈折/「一視同仁」の壁/虚像の「日本人」
    第15章 オリエンタリズムの屈折―柳宗悦と沖縄言語論争
    オリエンタリズムとしての「民芸」/沖縄側の猛反発/「西洋人」としての方言擁護/「日本人」の強調/沖縄同化の最終段階
    第16章 皇民化と「日本人」-総力戦体制と「民族」
    「朝鮮」の否定/民族概念の相対化/平等と近代化の期待
    第17章 最後の改革―敗戦直前の参政権付与
    境界を揺るがす三要因/遺跡問題の浮上/超えられなかった臨界/「日本人」という牢獄


    第18章 境界上の島々―「外国」になった沖縄
    「少数民族」としての沖縄人/「琉球総督府」の誕生/「アメリカ人」からの排除/「日本人」であって「日本人」でない存在
    第19章 独立論から復帰論へ―敗戦直後の沖縄帰属論争
    沖縄独立論とアメリカ観/保守系運動としての復帰/帰属論議の急浮上/揺らぎの中の帰属論
    第20章 「祖国日本」の意味―一九五〇年代の復帰運動
    人権の代名詞としての「日本人」/親米反共を掲げた復帰運動/日本ナショナリズムの言葉
    第21章 革新ナショナリズムの思想―戦後知識人の「日本人」像と沖縄
    「アジアの植民地」としての日本/「健全なナショナリズムの臨界」/単一民族史観の台頭/「植民地支配」から「民族統一」へ/民族統一としての琉球処分/非難用語となった「琉球独立論」
    第22章 一九六〇年代の方言札―戦後沖縄教育と復帰運動
    復興活動としての復帰/方言札の復活/「日の丸」「君が代」の奨励/憧れと拒絶の同居/「祖国は日本か」/政治変動と転換と
    第23章 反復帰―一九七二年復帰と反復帰論
    琉球独立論の系譜/復帰の現実化/「仮面」への嫌悪/独立論との距離/「否」の思想

    結論
    後発帝国主義としての特徴/国民国家における包摂/公定ナショナリズム/「脱亜」と「興亜」/分類外の曖昧さ/被支配者の反応/有色の帝国

    あとがき

  • 沖縄、北海道、台湾、朝鮮の統治の状況を言説から分析した本。北海道と沖縄の併合からわずか10年後に台湾統治が、そしてそのすぐあとに朝鮮併合があり、当時の日本にとっては沖縄と北海道併合の延長線上に台湾、朝鮮併合を捉えていたことがわかる。その結果、台湾、朝鮮併合の正当性について大きく悩むことはなく、一方で沖縄、北海道であったことと同様、大和民族とそれ以外のエリアの民族との間で権利として平等運用は行わなかったことが描かれている。対外的には主権国家として同一民族(出自は同じ。もしくはアジア人論を創造)を主張しつつ、民主主義としては二級民族認定し、戸籍の別途運用、選挙権非付与を貫いた。差別については、「民度」が低いという文明的発想と、ナショナリズムが混在している。台湾、朝鮮統治においては、総督府が内閣ではなく、天皇に直結した組織だったことが、のちの陸軍の暴走につながったと、法制面の分析から、太平洋戦争の政治的背景を推測する上でも役に立つ。

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著者プロフィール

慶應義塾大学総合政策学部教授。
専門分野:歴史社会学。

「2023年 『総合政策学の方法論的展開』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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