利他性の人間学―実験社会心理学からの回答

  • 24人登録
  • 3.67評価
    • (2)
    • (0)
    • (0)
    • (0)
    • (1)
  • 3レビュー
制作 : Charles Daniel Batson  菊池 章夫  二宮 克美 
  • 新曜社 (2012年11月20日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (425ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784788513129

利他性の人間学―実験社会心理学からの回答の感想・レビュー・書評

  • 利己性ということばにはどこか冷たい響きがある。自分のことしか考えず他者のことはおかまいなし、というようなイメージだ。それとは正反対なのが利他性である。他者を思いやって自分のことを二の次にする、そんな感じだろうか。ところで利他性とはいってもそれは本当の利他性ではないのだ、という考え方がある。つまり、周りのひとに親切にしておけばいずれ自分も他者の親切に与れる、情けは他人のためならずというわけだ。あるいは赤い羽根の募金箱に百円入れることで、善いことをしたという気分になれる。この気分を味わいたくて寄付する。これらはけっきょく自分の利得を高めることが目的なのであって、利己性から生まれた行動であるということになる。そんなことはない、人間は真に利他性を持ちうるのだ、というのが社会心理学者である著者の主張である。本書はまず「共感-利他性仮説」という利他的動機づけの理論を解説し、次いで人間が利他性のもとに行動をとれることを示す実験を紹介している。

    本書は三部構成である。第一部(1-3章)では本書の中心となる「共感-利他性仮説」という利他的動機づけの理論が解説されている。この理論をひと言で表せば、他者に対する共感(共感的配慮)によって利他性が生まれるというものである。本書で著者が強調するように、ここでの利他性とは「他者の福利を増すという最終目標を伴う動機づけの状態」(17頁)を意味するのであって、何かしらの行動を直接に意味しているのではない点に注意が必要だ。なぜなら利他性ということばを聞くと、自分の身を危険に晒して線路に落ちたひとを助けたとか、慈善団体に大金を寄付したとかいった「行動」を思い浮かべてしまいがちだからだ。著者の定義では利他性はあくまでも「動機づけ」であって行動そのものではない。真に利他的な動機があっても、実際に行動に移すかどうかはそれによる便益と費用のバランスによって決まる(77-80頁)。また、みずからの生殖的な適応度を低下させる行動をさす「進化的な利他性」とも異なる概念であることにも注意する必要がある(24頁)。

    世の中には利他性が実際の存在することを物語ってくるようなたくさんのエピソード(ホロコーストの救援者は勇敢な消防隊員など。さらには動物の事例も;113-120頁)が存在している。しかし著者はこうしたエピソードは利他性の存在については何も語らないと論じている。それは利他性が「動機づけ」にかんするものであり、目に見える「行動」からは背後にある動機が見えてこないからである。そこで第二部(4-6章)は「共感-利他性仮説」を検証するためには実験がもっとも適切な方法であると論じたうえで、そうした実験をいくつも紹介している。たとえば、共感から生じた同情心や苦痛などから逃れたいという「利己的な動機づけ」によって利他的な行動が生じ得るとする「嫌悪-喚起-低減仮説」と、「共感-利他性仮説」のどちらがもっともらしいのかを実験によって示すことができる。さまざまな利己的な代替仮説にたいして「共感-利他性仮説」のもっともらしさが多くの実験で検証されるほど、この仮説は強力になってくる。

    個人的には特に、共感を導入した囚人のジレンマ実験の結果が興味深かった(240-243頁)。ゲーム理論によれば、一回限りの囚人のジレンマでは「裏切り」が常に最適な戦略である。ところが、囚人のジレンマに先立ってプレイヤーがゲームの相手に共感を抱くように導かれると、このプレイヤーが「協力」を選ぶ確率が格段に上昇するという。とくに驚いたのは、囚人のジレンマをアレンジして交互に戦略を選ぶようにしたゲームの実験結果である。相手が先に「裏切り」を選んだことを知った場合ですら、共感を抱いた相手に対して実に45%のひとが「協力」を選んだという。「共感-利他性仮説」のもっともらしさを強く感じさせる実験結果であると言えよう。

    最後に第三部(7-9章)は、利他性が他者あるいは社会全体にとっておおくの利益をもたらす反面、場合によっては不利益ももたらすことを論じている。たとえば共感を抱いた特定の相手(他者)の福利を増すことを目的として、それ以外のひとに損失を与える行動をとったり、公平性といった規範を破ったりするかもしれない。あるいは人命救助の結果として自らの命を落とすことになるかもしれない。これらは利他性がもたらす不利益といえるだろう。そのうえで、利他性や利己性、またそれ以外の向社会的動機が存在することを考えに入れて、それらをうまく協調させられる社会の仕組みを作ることで多くの社会問題を解決していくことができるだろうと本書を結んでいる。

    著者が指摘するように、現在は「人びとは利己的な動機にもとづいて行動する」ことを前提としておおくの社会制度ルールが作られているように見える。しかし、われわれは「共感-利他性仮説」という動機づけの理論を知らなかった場合でも、自分たちが利己的な動機づけのみに基づいて行動しているわけではないことを知っているはずである。利己性がどのようなときにどう生じるのかの理論を知り、利己性や利他性をともに前提とした社会の在り方を考えてみることがたいせつだろう。その意味でも本書の内容はとても示唆に富むものである。ぜひたくさんのひとに読んでもらいたいと思う。

  • 人間には利他性が存在し、利他性が人間にかかわる出来事の重要な力であるという証拠を示します。今後の教育学と教育現場への応用が期待される書物です。→ http://t.co/qSTfo2Ijhv

  • 利他性で包括されているが、他人に対する援助行動全てである。これに関して卒論を書く学生には、ほとんどの代表的な文献を網羅しているので、これ1冊あれば足りるかもしれない。

全3件中 1 - 3件を表示

利他性の人間学―実験社会心理学からの回答の作品紹介

◆利己的か利他的か、それが問題だ◆

どんな美談にも、その裏には利己的な動機が隠されているのか、それとも人間は利己心なく他人に関心をもち、他人を助けようとするのか──多くの宗教や哲学がこの難問に挑んできましたが、バトソンは徹底して実証的に利他性の問題に挑んできた実験社会心理学者です。共感のような複雑で人間性の核心にある心理が、実験できるのでしょうか? 本書の醍醐味は、人間には利他性が存在するということだけでなく、利他性が人間についての出来事の重要な力であるということを、巧みな実験を行って検証していることにあります。心理学だけでなく、人間性についての哲学的な考察にとっても重要な一冊です。

利他性の人間学―実験社会心理学からの回答はこんな本です

ツイートする