- Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
- / ISBN・EAN: 9784789731874
感想・レビュー・書評
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1937年、スペイン内戦に敗れ、敗残兵となりひっそりと山に身を隠しながら生き延びる者たちの9年間。
静謐な文章で、月明かりや星空の描写が印象的だ。
何も起こらない夜も、襲撃の時でも、死体の目に映るものだって、夜空は綺麗なんだろう。
そうかと思えば、怒りに震えている場面でも変わらない静かな月明かりに、無情を突き付けられている気がする。
危険は感じても、追われている焦燥感はあまり感じなかった。
しかし仲間が減っていき、逃げ続ける日々もどんどん過酷になってくると、ただ生き延びるために息を潜めているだけで、生気が感じられなくなってきた。
家族はずっと治安警備隊に目をつけられていて、何度も酷い目に遭っている。
夜から出なければならない。
朝の光が射すラストの、その先を思った。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「ほら、月が出ているだろう。あれは死者たちの太陽なんだよ」
暴行。拷問。虐殺。スペイン内戦時代。山深くに身を潜め逃げ続ける男たち。
絶望は静かにひたひたと満ちてくる。静謐な透明感に照らされた作品。
最後に国境を越えることはできたのだろうか。 -
20C、半ば。スペインの山野に潜伏して10年、果てしない絶望を肩に背負い、先の見えない逃亡生活の四人。「黄色い雨」は死をモチーフとした呼吸を感じさせない画像だったが、こちらは動、!しかも、回りは蠢く市民の、兵の群れ。だが、共に感じるのは孤独。
仲間を次々と失いつつ、家族との離別を決意し、故国を愛してやまない男。
フランコの独裁の終わりはまだまだ、先が見えない。
漆黒の空に鎌の様な、突き刺す月が浮かぶ。
時おり、耳にこだまする狼の吠える声、!
刹那の生の先が見えない恐怖で息が詰まる。
解説の木村氏の文が秀逸。見えていなかったスペインのピースが埋め込まれ、作品を理解する素地に厚みを与えてくれた。 -
「そりゃあそうさ、野生のヤギのように山を駆け、野ウサギみたいに耳ざとく、狼のように狡猾に敵に襲い掛かるんだ。ぼくはこのあたりでもいちばんの獣なんだよ」
内戦時代のスペイン。4人の反政府戦士たちが警備隊からの探索を逃れ故郷の山に籠もる。探索は止まない。仲間たちは1人、1人と殺され、最後に残った男も家族への拷問に耐えられず、故郷を離れ国境へ向かう。
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同じ作者の「黄色い雨」が完全に人と離れた孤独だとしたらこちらは人間の近くに住みながらも外された者の孤独。強い精神力で山を隠れまわるけれど、逃げ続けるか殺されるかの日々。物語は最後の一人が亡命を目指すところで終わるけれど、上手く逃れられるかも分からずまた逃れたところで平穏は決してないと分かっているので、読後も気持ちは休まらない。 -
無音が沁みる。内なる声が気づかれぬように孤独や自死が絡みつく絶望の穴に落ちぬようにと。妹の耐え忍ぶ傷を思い。10年余りの呪縛の土地の戦争がし向ける監視と暴力の故郷を逃れる哀切。生き抜く意志が冴え冴えと透徹する。
2023.9.30 -
詩人としての筆者と小説家としての筆者で筆致が迷っているように感じた。「黄色い雨」を読んだ後にこれを読むと実に物足りなく感じると思う。
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①文体★★★★☆
②読後余韻★★★★☆ -
なかなか他に類を見ない豊かな表現力。詩的でありつつ、どこか漫画的でもあるのが面白い。