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森岡貞香の秀歌

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著者 : 花山多佳子
  • 砂子屋書房 (2015年12月10日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (268ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784790415855

森岡貞香の秀歌の感想・レビュー・書評

  • 拒みがたきわが少年の愛のしぐさ顎に手触り来その父のごと
     森岡貞香

     作者は1916年(大正5年)、松江市に生まれ、2009年に93年の生涯を終えた歌人である。掲出歌は、息子を「わが少年」と表現した初めての歌として、戦後の女性短歌史にくっきりと刻まれている。

     生命力ある息子の「しぐさ」の歌が代表作であったが、11冊の歌集を丁寧に評釈した花山多佳子の著書「森岡貞香の秀歌」に、それ以外の歌の背景を教わった。

     なぜ森岡は短歌を生きがいとしたのか。答えを、花山は著書で明快に記している。夫が、日中戦争で2度出征し、敗戦後にまもなく急逝。まだ30歳の「戦争未亡人」は、幼い息子と戦後を生き延びねばならず、それが「短歌の起点」になったという。もしも夫の死がなければ、作歌を「やってませんでしたね」ときっぱりと答えたという逸話は、まさに肉声そのものだ。

     森岡の父が陸軍軍人であったことも、作品世界に色濃く反映しているそうだ。

     たとえば、64年刊行の3冊目の歌集では父の死が歌われているが、父を悼むその横で、やはり戦争が回想されているのだ。

     幾千の兵隊の死を見据ゑたる瞳は ちちの瞳の空きにける

     京都第16師団長だった父は、太平洋戦争下、ルソン島やバターン半島での激戦を経て、フィリピン上陸作戦にも従事した。歌の1字空けと、「ちちの瞳の空きにける」の字足らずのリズムには、父がいかに「兵隊の死」を見据え、字=言葉を失う瞬間があったかを、象徴しているようでもある。戦争を軸に、森岡歌集を再読してみたい。

    (2016年2月21日掲載)

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