クワインと現代アメリカ哲学 (世界思想ゼミナール)

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  • 世界思想社教学社
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  • Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784790705079

作品紹介・あらすじ

現代哲学にとってクワインとは何であったか。現代アメリカ哲学の基礎を築いたクワインの思想の本質とは何か。またそれはデイヴィドソンとローティによってどのように継承されたか。

感想・レビュー・書評

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  • クワインの哲学と、その影響を受けたデイヴィドソン、ローティの哲学について解説されている。

    本書は3つのパートから構成されており、第1部では、著者がおこなったクワインへのインタヴューが収録されている。議論の中心はデイヴィドソンのいわゆる「第三のドグマ」批判である。第2部5章の「近位説と遠位説との間」は、このインタビューでのクワインの議論を受けて、あらためてクワインとデイヴィドソンの議論の検討をおこなったものである。

    第2部は、クワインの思想を解説した論文が5つ収録されている。デイヴィドソンの「第三のドグマ」批判を取り上げた第5章では、クワインの「概念図式」という言葉をくわしく検討することによってデイヴィドソンの批判が当たらないことを論じている。だが同時に、著者はクワインの近位説的な立場は遠異説的な立場によって補完される必要があると指摘している。体表刺激に基づいて観察文に対する同意・不同意がなされるというクワインの近位説的立場は、個々の話し手に対して観察文を定義するものだ。ところが、フィールド言語学者がインフォーマントの発する言葉についての根本的翻訳をおこなう場面では、間主観的な同意・不同意の一致が要求されるために、遠位説的な観点が不可欠のものとなる。こうした著者の議論は、デイヴィドソンの批判から私たちが何を受け継ぐべきかということを明確にしたということができると思う。

    続く第3部では、デイヴィドソンとローティの思想についての解説がおこなわれている。とくに興味深いのは、アーペルに対してローティを擁護した第2章「基礎づけか連帯か」だ。ここで著者はアーペルの論じる討議の超越論的制約に対して、私たちが議論においてさまざまな論法や倫理規範をそれに従うべきものと認めており、現にそれに従っていると言う以上に、「どうしてわざわざ、それらは超歴史的な超越論的制約であると言わなければすまないのか、という問いを繰り返し提起したいと思う」と述べている。ただしアーペルは、超越論的語用論を超歴史的な真理として絶対視しているのではなく、それが間主観的妥当性の可能性の制約として機能することを論じているのであり、まさに彼はその主張を、「妥当性要求」を掲げつつ遂行しているというべきだろう。こうした論点を、本書のような観点から扱うことができるのかという問題は、なおも問題として残されているように思う。

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著者プロフィール

1952年、香川県生まれ。京都大学文学部哲学科卒。京都大学博士(文学)。ハーバード大学客員研究員などを経て、現在、京都大学大学院人間・環境学研究科教授。著書に、『ロック哲学の隠された論理』(勁草書房)、『クワインと現代アメリカ哲学』(世界思想社)、『観念説の謎解き』(世界思想社)、『観念論の教室』(ちくま新書)、『ローティ』(ちくま選書)、『カント入門講義』(ちくま学芸文庫)、Inquiries into Locke’s Theory of Ideas(Olms)、 The Lost Paradigm of the Theory of Ideas (Olms)、「科学哲学者柏木達彦」シリーズ全5冊(ナカニシヤ出版)、「生島圭」シリーズ全3冊(講談社現代新書)など、訳書に、R.ローティ『連帯と自由の哲学』(岩波書店)がある。

「2019年 『デカルト入門講義』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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