- Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
- / ISBN・EAN: 9784790715139
作品紹介・あらすじ
嘘や騙しをふくむ熾烈な駆け引きを展開するマチンガ。彼らのアナーキーな仲間関係や商売はどのように成りたっているのか。みずから古着を売り歩き、500人以上の常連客をもった著者が、ストリートで培われる狡知(ウジャンジャ)に着目して解き明かす。
感想・レビュー・書評
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タンザニアの都市路上零細商人マチンガ。彼らがウジャンジャ(狡智)を駆使して、不安定で不確実な日々の生活を生き抜いていく様、その論理を明らかにしようという試み。/「うまく騙し、うまく騙されることができること人間こそ仲間なのだ」「かるめとることを覚えなければ泥棒になる」「彼らも商売をしているのだから、仕方がない。生活のためのカネを稼ぐのに嘘も騙しもあるものか」(マチンガたちの声)/その生活世界は流動的で多様で流動的。商慣行は、口約束だけの信用取引(マリ・カウリ取引)。マチンガどうしの関係は、流動的に職を転々とし、好機があればいつでも職・場所を変えるかわからず、現住所・本名・出自も正確に知り得ないまま取り結んでいる関係(p.76より)/なぜ、卸商は信用ならないもの、騙すものとより商関係を結ぼうとするのか。ウジャンジャに基づいて行動できるものは、こちらの要求、無意識のシグナル、客とのやりとり、交渉、商機をとらえること、お互いの状態を理解し合うことについて高い能力を有していると判断するから、と。そして、新たにやってきたものへの教育は、基本、放置。彼らが自分なりに新しいポーズ/スタイル(得意分野、やり方など)を打ち出したら、尊重し邪魔せず協力はする、といったもの。/「ウィットが効いた皮肉で、相手を思わず笑わせる」「卑屈におだてるのではなく、大胆に誰でもわかるゴマスリをし、相手を閉口させる」「必死に道化を演じて、相手にむしろ哀れだと思わせる」「あまりに非常識な田舎者や何を言っても動じない頑固者でありつづけて、相手にもうお手上げだと降参させる」というのは、ウジャンジャな交渉術の真骨頂である。p.169/マチンガにとってのウジャンジャの発揮には「制限」がある。それが「盗み」「詐欺」に思える場合でも、基本的に、事後的になんとかごまかせたり、許されたり、取り返しがついたりする範囲内の「かすめてとる」ではないか。マイナスの意味だけでなくプラスの意味でもあくまで非計画的、非建設的なものではないか(p.147より)/マチンガのウジャンジャが発揮される際の特徴 1.商人間で各々の役割を瞬時に判断すること 2.客の期待することを演じること 3.癖を技化すること(スタイルを応用すること) 4.「リジキを判断すること」(お互いにとって生活を営む最低限のラインを了解すること)(p.156より)/「ふだんからオレを騙そうとする小売商のほうが、断然扱いやすい。何も不満を言わず、生活補助も要求しないような田舎者の小売商は、持ち逃げしやすい。彼らはオレたちが言っている嘘や要求にも気づかない。オレが困難を訴えてもうまく動けず、突然、怒りだしたり、いなくなったりする」(p.181-182)/小売商は、ウジャンジャを駆使して、困難や不満を中間卸売商に訴え、「仲間」としての共感にもとづいた値下げや生活補助を引き出す。中間卸売商はウジャンジャを駆使して、小売商に「仲間」としてこちらの事情に気づくことを求め、ときには売りにくい古着を販売させる(p.186-187) やりすぎるとどちらかに不満がたまるし、うまくバランスをとることが求められ、バランスが崩れると即、離れてしまう、緊張感をはらんだ関係に思える。/生活の必要や有用性に限定された便宜であるという理由で、彼らはウジャンジャなかすめとりを詐欺や盗みとは異なるものにしている。(p.328)//現代日本と対比するなら、その厳しさ、緊張感の持続、絶え間なく頭を働かせ、機会をとらえ、隙あらば食い入っていかなければいけない。現に、ウジャンジャを発揮しての暮らしというのも、若いうちの特権という一面もあるようだ。ただ、だからこそ、機会があればまずやってみる、やってみないとはじまらないという起業家的なマインドは、より発揮されているように感じる。ベースとなる社会の安定性の違いがあるからどちらがいいかなんて一概には言えないけど。
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アフリカタンザニアで商人になった著者のフィールドワーク。
なんでこの本に興味を持ったのかわからなかったけれど内容は面白かった。
コミュニケーションがものすごく大事で、信用取引がなんかもう本当に大丈夫?って言いたくなるけれど回ってるんだからいいのかな。
これでやってけるんだなぁって思いつつ昔の日本もこんなところあったよなぁって。 -
誠実さ真面目さに重きが置かれず、
お互いに交渉(コミュニケーション)できるかが
大切な価値観ぎ面白かった。
でも、難しかったので腰を据えて再読したい。 -
図書館の返却期限の関係で、社会情勢の解説に重心を置いた中盤は飛ばし飛ばしになっちゃったけど、それでもなんだか凄まじいものを読まされておなかいっぱい、ていう気分。世界の広さ・複雑さと、人間のわかりあえなさが心底怖くなったのと同時に、自分が生きていける隙間もどこかにあるのかもしれないと思えてちょっとだけ気が楽になった。
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著者自らが古着販売を実践しての、フィールドワークの論文。全く予備知識のない内容で、しかも論文!ですが、マチンガたちの暮らしぶりがありありと伝わってくる筆致で、感動的に読みやすい学術書でした。読むのに体力のいる大作だけど、説明がわかりやすくて、解説もふんだんで、典拠もきっちり明示されていて、読み進めるのに全くストレスがない!学問的ワクワク感を追体験できてほんとに楽しい1冊。
社会主義体制から経済が自由化されグローバル資本主義に飲み込まれていく課程で、人びとがどんな風に生き抜こうとするのか。そのあたりを興味深く読みました。「アフリカの底辺に暮らす人々」というと、ともすると同情的に思ってしまいがちだけど、とんでもない。生き生きと、貪欲に、楽しげに生きるマチンガたちが、平和ボケした日本で惰性で生きている私を見たら、全く覇気がなく見えるだろうなぁ。うん、これからは私もウジャンジャに生きよう! -
著者が実際にタンザニアで古着を売る商人と一緒になって古着を売りながら調べたものである。マチンガについて知るために飲み会の費用を全額持ったが結局わからなかったという事例も書かれている。それぞれの商人からの聞き書きの部分はポイントを小さくしているが、字下げで引用してくれた方がよかったと思う。写真や表や図がある。
様々な本で一部が紹介されていて、博士論文の一部も入っている個人露店商売の集大成の本である。
タンザニアだけでなく、ほかの国の露天商を研究する上でも役立つと思われる。 -
成程、中に入っての知見とはという感じで非常に面白かった。見えてくるのは都市部の路上にいる物売りに対するこちらのステレオタイプな見方以上に内部は多層であるのと同様、ステレオタイプな見方を衣装化してる現実。著者が書いている通り観測による変質があるし再現性の面で限界があるけれど、時事面の点も含めて興味深い。
個人的な感想。各人のエピソード読むと何故か巷説百物語思い出した。
ところでアフリカだとウサギが狡知の象徴なのに、ビックリ。 -
■ 内容
グローバル資本主義システムの末端で、零細商人マチンガが日々織りなしている商世界の実態を開示し、その商世界を維持・再生産している独自の人間・社会関係と商慣行を、彼らのミクロな商実践に注目して明らかにしている。〔P312より〕
■ 感想
一見、非合理で倫理に反する様に写る、マチンガの様子(マリ・カウリ取引/ウジャンジャ)にも、合理性や倫理的なつながりがある事がよくわかった。
日本、アメリカなど先進国と言われる国では、資本主義やそれに紐付く商慣行が行き渡っている。それは、とても合理的で恵まれている一方で、それにより人々の想像力や生き抜く知恵(本書で言うウジャンジャ的なもの)を身に付ける機会を失っているとも言える。
先の読めない現代、本書を通じて、タンザニアのマチンガとウジャンジャの実践を観て行く事で、我々は多様性を持って様々な課題に取り組める、キッカケになる様な気がした。
■ 更に
特に、タンザニアの若者がストリート教育の中で、ウジャンジャを身に付ける様子が印象的だった。我々も、仕事をする上で様々な知識やスキルを身につけていく。それらのうち、体型立てて学べるものはごく一部であり、その多くは実践と体感で身に付けていくものだと思う。ある意味、それは本書で書かれる「ストリート教育」と「ウジャンジャ」の関係に近いと感じた。 -
◆10/18オンライン企画「なぜ人はあいまいさを嫌うのか〜コントロールしたい欲望を解き放つ〜」で紹介されています。
https://www.youtube.com/watch?v=t2KA8IjVT9U&feature=youtu.be
本の詳細
https://sekaishisosha.jp/book/b353879.html