- Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
- / ISBN・EAN: 9784791758647
作品紹介・あらすじ
イスラム、絢爛たる知のアラベスク。古代ギリシャとルネサンスをつなぐ懸橋となり、近代西欧科学の発展に決定的影響を与えた中世イスラム文化。数学、地理学、医学から天文学、錬金術、宇宙論まで、厳格なるイスラム教義との拮抗と融和を経て達成された驚異の文化的偉業のすべてを、豊富な図版をもとに解き明かす。
感想・レビュー・書評
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【配置場所】特集コーナー【請求記号】402.27||T【資料ID】10403441
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イスラム文明は、7世紀以降、勢力を広げ、全盛期には中東・北アフリカ・イベリア半島・インド亜大陸まで版図を広げた。13世紀以降、キリスト教勢力に押されていくが、それまでの間、芸術・科学の分野において、豊かな業績を上げていた。
本書では、こうしたイスラム文明を科学技術の観点から見ていく。
イスラムの科学のルーツは、古代ギリシャやエジプト、インド、ペルシャ、メソポタミア等、征服先の遺産である。こうしたさまざまな文明の哲学的・化学的知識は、速やかにアラビア語に翻訳され、バグダッドやカイロの図書館に所蔵された。都市には学問所が置かれ、大学の前身となった。
学問は、医学、天文学、論理学、算術、幾何、測量術、光学など多岐にわたり、さらには占星術や錬金術も含まれた。
イスラム思想の根本となっているのは、啓示であり、それを記したコーランであるという。科学はあくまで、「神の意志に奉仕する知的な枠組みの範囲内において人々が知識を獲得する上で助けとなる技術」と捉えられた。
イスラムにおいて、礼拝は非常に大切なものである。聖地メッカの方角を知るため、測量や天文学が発展したのは1つの例だろう。またモスクを飾る美しい文様は精緻な幾何学の発達によるものだろう。イスラムの学者たちは数学に音楽と天文学を連想し、哲学的な学問と位置づけたのだそうである。
白黒なのが残念だが図版もかなりある。
天体の運動はかなりの精密さで記載され、コペルニクスに影響を与えたという説もあるという。
アストロラーベと呼ばれる天文観測機器は、ギリシャで発明された後、イスラムの改良によって、アナログコンピュータに匹敵するほどの計算機能も持つに到った。
ヒトや動物の解剖研究もなされており、神経や血液循環も相当正確に記された図がある。
動植物の博物図も多く遺されており、鳥などはオーデュボンの絵を思い出させる。
こうした豊かな科学はオスマントルコ帝国の没落とともに、次第に凋落していってしまう。
だがイスラムが遺した古代ギリシャなどに関する文献は、15~16世紀にラテン語へと次々に翻訳され、ルネサンス期のヨーロッパへと取り込まれていった。
イスラム文明は、橋渡しの大きな役目を果たしたのである。
*ちょっと難しかったです(^^;)。もう少しイスラムについていろいろ知ってから読むとよりおもしろい本なのかも知れません。
**参考
・『図説 アラビアンナイト (ふくろうの本/世界の文化)』:本書は、この本の関連文献に挙げられていました。
・『イスラム芸術の幾何学 (アルケミスト双書)』:神の図形に音楽を見る
・『チェーザレ2』:アリストテレスの著書の挿話が出てきます。この翻訳がアラビア語を経由しているのかどうかはわかりませんが。 -
ヨーロッパの科学の発展にイスラムの科学が大きな影響を与えたことは世界史の授業でも出てくる。この本は中世イスラムの科学史をテーマにすえている。
青い表紙がカッコよかったので表紙借り。
イスラムの科学は古代ギリシャの思想などの影響下にあるので、ヨーロッパとイスラムの科学はずっと近いそうだ。
ユダヤ教、キリスト教、イスラム教は兄弟だと聞いたことがあったのだが、思想も共有していたのかな。
また、神が創造した世界について理解を深めるのは信者としての義務であるというのもキリスト教徒おおむね一緒だったような。
そのための科学では現象や物体から神の意図を汲み取ろうとするため、信仰から超えられない壁があったのもまた事実であり、そのために行き詰ったり、壁を壊そうとして弾圧を加えられた著名人などの話も興味深かった。
宇宙論、数学、天文学、占星術、地理学、錬金術などそれぞれが魅力的なテーマなのでもっと掘り下げたものが読みたいと読みたくなった。