容疑者の夜行列車

著者 :
  • 青土社
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  • Amazon.co.jp ・本 (163ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784791759736

作品紹介・あらすじ

戦慄と陶酔の夢十三夜。旅人のあなたを待ち受ける奇妙な乗客と残酷な歓待。宙返りする言葉を武器にして、あなたは国境を越えてゆけるか。-稀代の物語作者による傑作長篇小説!半醒半睡の旅物語。

感想・レビュー・書評

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  • 夜行列車に乗り込むだけで、いろんな出会いや出来事がある。目的地ごとの13編。
    舞台はヨーロッパからアジアまでの様々な都市に向かって走る夜行列車で、80年代の社会主義国やシベリア鉄道なんかは、知らない世界に興味津々でそわそわする。ほとんどが列車の中の話だけど、乗客の持ち物や行動でそれらを感じられて楽しい。
    東欧ってニンニクの匂いがするの、とどうでもいいことが気になってしまった。
    それに表現が独特で好きだなあ。
    特に赤色を鮭で表現するのが面白かった。なぜ外見じゃなく身の色を持ってくるのだ。「紅鮭のような嘘」って。

  • ダンサーの主人公は学生時代から列車で旅をしたり
    公演に向かうために移動したりする、列車での
    移動はトラブル続きで一筋縄ではいかない。

    語り口調や単語が独特で、読んでる私自身が列車に
    乗って、危険な目に合ったり、奇妙な人々と
    交流したりする錯覚に陥りました。

    そういった文体のテクニックかと思っていたら、
    最後に種明かし(?)のような結末が。

    文章に使われることばが新鮮でした。
    「紅鮭のような嘘」(P29)ってどんな嘘なんだろう。

  • 「あなた」と呼ばれる主人公が、世界各地でちょっとした不思議な出来事に遭遇する連作集ですが、それぞれの話の時系列は、つながっていたり、縦横無尽に入り乱れていたり、様々です。全ての話に共通しているのは、夜行列車でどこかに移動すること。現実、幻想、夢も入り乱れているなかでの、様々なストーリーは、シニカルな中にもコミカルさがあり、楽しく読ませていただきました。第12輪の最後で明かされた、「あなた」の謎は、なんとも言えない不思議な気分になりました。

  • あなたは、と語りかけてくるその声は何だかとぼけていて飄々として、あなたの身に降りかかるあれこれを面白がっているようにも思える。夜行列車は目的地ではない所であなたを無理矢理に降ろし、語り手はあなたを引き返させ迂回させあてどなくうろつかせ、行きずりの人々との束の間の邂逅に、あなたは狼狽え面食らう。あなたは「わたしは」と発話することは許されず自分を主張することは出来ず、列車が果たして本当に夜の向こうへと向かっているのか、何処かへと辿り着くのか知らされぬまま、語り手の気の向くまま、夜から夜へと揺られ続ける。

  • パリや北京や様々な都市に向かう夜行列車に乗るまでや車内での出来事が綴られているのだが、どれもがいささか不穏で不安定で神経を逆撫でされる心地である。すべてが夢の中のことだと言われたほうが腑に落ちるのである。しかも、容疑者というのがよくわからない。行き先が決まっているのに、決して辿り着けそうにない心許なさにも満たされていて、夜汽車特有の地に足がつかない感じに包まれる。

  • 旅をする
    目的地は12+1
    旅の途中出会った人々と交わすわずかな言葉から膨らむ世界
    私を終りのない列車の旅に連れて行ってくれる
    そうか、私たちはこんなふうに旅をしているんだ
    本のタイトル、今の私には解らない

  • 越境がテーマになった作品。
    夜を超えて走る列車は、国境を超え、日常を超え、読者の思惑を超えて進む。
    たぶん、この物語に終着点というものはなくて、「あなた」と名指され、否応なく物語に取り込まれてしまった読み手の私が、この先の夜を超えて引き受けてしまうんだろう。
    それにしても、冒頭で「あなたは」と指を突きつけられることで、こんなにもハッとさせられるとは思わなかった。語りを聞くはずの私が、語り手によって語られる存在にひっくり返された。
    私は、今頃、どの辺りを走っているんだろうか?

  • エッセイが妄想に絡め取られていくよう。
    何輪でも比喩が面白いので、語り手に多和田葉子みを感じずにはいられない(といえるほど、実は読んでないけれど)
    物語としての納得感は弱かった。この狐につままれた感が良いのか、わかる人にはわかるのか…

  • 十数年前には夜行列車はよく利用したが、ドイツの列車で利用したコンパートメントが何度も出てきて懐かしかった.たまたま若い女学生と一緒になり、日本の様子を紹介した思い出がある.本書の主人公も夜行列車で様々な事件に遭遇するが、シベリア鉄道に乗車中、夜はトイレに行った際に落下して、近くの家で妙な歓待を受けた話は楽しめた.バーゼルへの列車であった女優ミミの独白も面白かった.空想の世界に遊ぶことは有意義なことだと感じた.

  • 公演のため、飛行機に乗るため…様々な理由で夜行列車じに乗る。
    そこで出会う人々、出来事。
    多和田さんの作品の距離感が好きだ。
    人物同士の距離感、物語と読み手の距離感。
    そして通底する言語へのこだわり。
    いい。

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著者プロフィール

1960年東京都生まれ。小説家、詩人、戯曲家。1982年よりドイツ在住。日本語とドイツ語で作品を発表。91年『かかとを失くして』で「群像新人文学賞」、93年『犬婿入り』で「芥川賞」を受賞する。ドイツでゲーテ・メダルや、日本人初となるクライスト賞を受賞する。主な著書に、『容疑者の夜行列車』『雪の練習生』『献灯使』『地球にちりばめられて』『星に仄めかされて』等がある。

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