わたしのリハビリ闘争 最弱者の生存権は守られたか

著者 :
  • 青土社
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  • Amazon.co.jp ・本 (172ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784791763627

作品紹介・あらすじ

世界的な免疫学者である著者は、脳梗塞を患って以来、リハビリによって障害と闘いながら、かろうじて執筆活動を続けてきた。ところが二〇〇六年四月、厚労省の保険診療報酬改定によってリハビリ打ち切りという思わぬ事態が生じた。現場の実態を無視した医療費削減政策の暴走、弱者切り捨ての失政に怒った著者は、新聞への投書を皮切りに立ち上がった-。本書は一年余にわたる執筆・発言をまとめた闘争の記録であり、病床と車椅子の上から発せられた"命の叫び"である。

感想・レビュー・書評

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  • 免疫学者、多田富雄さん(2001年に脳梗塞を患い、現在右半身麻痺と嚥下・発生障害のリハビリ中)が、厚生労働省が2006年4月に突如導入した、リハビリ診療報酬改定の撤回を求めて立ちあがった闘争の記録です。リハビリが打ち切られ、社会学者の鶴見和子さんは帰らぬ人となりました。

    政人いざ事問わん老人われ
    生きぬく道のありやなしやと

    ねたきりの予兆なりかなベッドより
    おきあがることできずなりたり

    藤原書店刊 『環』 26号 「予兆」 より

    リハビリを続けることが、生命を維持するために必要なのに、今回の改定は、「障害が180日で回復しなかったら死ね」 というもので、これは明らかな生存権の侵害です。こうした弱者切り捨ての政策の背後には、国民皆保険を破壊し、民間の医療資本と損害保険会社の営利的参入を進めようとする意図が見えます。
    介護やリハビリに関心のある方はもちろん、いろんな人にぜひ読んで頂きたい本です。

  • 第35回天満橋ビブリオバトル テーマ「生命」で紹介した本です。

    https://www.facebook.com/bibliobattle/posts/615020418550160

  • 小泉政権が2006年医療費削減の為に老人、障害者、弱者を切り捨て診療報酬改定に踏み切った。

    この本は世界的な免疫学者、多田東大名誉教授が脳梗塞に倒れ半身麻痺、声をなくされリハビリ治療を途中で中止させられ新聞や雑誌で打ち切り反対の論説を集録したものである。

    多田さんは2001年脳梗塞を患い、半身麻痺と発声障害の重度の機能障害になられたが懸命のリハビリの結果、左手でパソコン入力が出来るほど回復された。 が保険診療報酬改定でリハビリ医療は発病から180日を上限とした改定で理学療法士と言語聴覚士からのリハビリを中止されられた。

    このリハビリ中止で犠牲になられた友人の社会学者鶴見和子氏は時世ともいえる歌を遺されている。

    「政人(まつりびと)いざ事問わん老人(おいびと)われ生きぬく道のありやなしやと」

    小泉構造改革は身障者の自立を妨害する「身障者自立支援法」、長期入院をさせない「療病病棟廃止」
    など弱者を見殺しにすることばかりやっている。

    残念ながら富田氏は今年の4月に76歳で亡くなられたが、ぜひこの本は明日はわが身です健常者の人たちに読んでもらいたい。 

  • 多田先生が寄稿したものを時系列順に記載しているために、かなり内容として重複している文が多いが、言わんとしていることはより伝わる。しかも、この文章はかなり身体がしんどい状態で作成されたもののようだ。

    小泉改革のその歪みが、徐々に世の中に出てきている。
    政治っていうものは、結果は後にならないとわからないものだなと思う。

  •  今、君は元気かな。そして、いつまで元気かな。今は自分の健康に自信を持っているのかもしれないが、いつ何が起きるのかわからないのが人生というものだ。突然病気や怪我に襲われて、障害を負ってしまうということは誰にでも起こりうることなのだな。
     本書の著者の多田富雄氏は免疫学の世界的権威で、一九七一年に国際免疫学会で報告した「サプレッサーT細胞」の発見はノーベル賞級の研究と注目されたのだそうだ(本書の腰巻にある著者紹介による)。この偉大な免疫学者があろうことか二〇〇一年五月に旅先で脳梗塞の発作に襲われたのだ。まだまだ若い六十七歳だった。脳梗塞というのは「脳血栓または脳塞栓の結果、脳血管の一部が閉塞し、その支配域の脳実質が壊死・軟化に至る陥る疾患」(『広辞苑』第五版)なんだそうな。まあ、脳のどっかが詰まる病気だな。ご承知のように身体の麻痺をはじめいろいろな後遺症をもたらす病気である。突然、襲って来るので、こいつに当たったらそれまで健康自慢だった人も障害者とならざるを得ないのだ。嗚呼運命の過酷なることよ。神の意思の気まぐれなることよ。
     ともかく、不幸なことに多田氏は脳梗塞に当たってしまった。そして、右半身麻痺、重度の嚥下障害(呑み込みにくい)及び構音障害(喋りにくい)を後遺症として引き受けてしまったのだ。この状態になったらどうすればいいのか。そう、リハビリをするしかない。リハビリによって身体能力の回復をはかるのだ。リハビリというのはリハビリなんだから、即効果があるわけではない。麻痺が完全にとれるかというとそんなに簡単ではない。気長に続けることが何よりだし、これで完治するほど脳梗塞の障害は甘いものではない。少なくともリハビリを続けることで症状の悪化は防げるのだが、悪化を防ぐだけでも高齢者になればたいへんなことなのだ。
     多田氏も理学療法士と言語聴覚士について毎週二回のリハビリを続けたそうな。ところが、二〇〇六年三月(発症から五年経ってる)診療報酬の改定が行われて公的医療保険で受けられるリハビリは発症から九〇~一八〇日までしか受けられないという上限を設けたのである。信じられないだろう。五年経ったって完治しないものを一八〇日までしか認めないというのだ。少なくともリハビリを受けなくては生きていくことがたいへんになるにもかかわらずだ。改善の見込みのない慢性疾患にはリハビリは認めないというのが意味のわからないところだ。慢性疾患というのはなかなか治らないということだ。そういう病気にかかったら治療はやめてしまえ、というのが、この診療報酬改定の意味するところなのだ。やめたらどうなるか。多田氏は三週間ほどリハビリを休んだら、五十メートルばかり歩けたのが、立つのも難しくなったというのである。つまり、衰えて寝たきりになり、死期を早めることになるのである。そうして亡くなったのが社会学者で歌人の鶴見和子さんだ。鶴見和子さんは一九九五年に脳出血で左半身麻痺となったが、十年以上リハビリを続けながら執筆活動をしてきた。それはそれは驚くべき知的エネルギーだ。その彼女がリハビリを打ち切られるやたちどころに寝たきりとなり、その年の夏に亡くなったのだ。彼女を死に至らしめたのは誰か。診療報酬改定に他ならない。公害研究の第一人者宇井純氏もリハビリを打ち切られてまもなく亡くなった。彼らは著名人であるからその死を惜しむ声が少なくともこのように活字で残る。しかし、膨大な数の患者がリハビリを受けられなくなって亡くなっていることはまちがいない。
     どうしてこういうことが起きたのか。医療費を減らしたい一心で無駄なものは削減しようという小泉路線の中で起きたことなのだ。それを新自由主義という。新自由主義者によれば長引くリハビリは無駄なものであり、そのような病を抱えている人間は無駄な人間なのだ。後期高齢者なる老人も無駄な人々であり、障害者、年金受給者など彼らにとって足手まといなものはすべて無駄な人間であり、それらの人間はできれば消えて欲しいというのが小泉後の日本の一連の政策なのである。そして、その意味するところは合法的殺人なのである。
     多田氏は不自由な身体でパソコンに向かい、この非道なる政策を告発し続けてきている。本書はそうした多田氏の闘いのメッセージが詰まっている。繰り返すが、これは一部の運の悪い人の話ではない。明日は我が身の話なのである。そして命というまさに人権問題がここにはあるのである。
     鶴見和子氏は歌人でもあった。

    ねたきりの予兆なるかなベッドよりおきあがることのできずなりたり   鶴見和子

    ☆☆☆☆ 基本的人権の保障された国、日本。だからこの国がそこそこ好きだったのに、小泉の頃からこの国は人間に冷たい国家へとどんどん変わっていってる。一方で、それでもこの国を愛するようにという教育だけは推し進められている。

    此の国の弱き病者は国の為かそけきいのちはよすてたまへ   休呆

    国民の命の値段に差がつきぬ二〇〇六年春は悲しも

  •  多田氏は2001年に脳梗塞で右麻痺となった。現在も執筆活動をされているが、左手だけでキーボードを操作している。これも、リハビリによって勝ち取った身体機能だった。多田氏の怒りは静かな青白い焔のようだ。しかし、凄まじい高温を放ち、暗い社会に生きる我々の面を照らす。

     <a href="http://d.hatena.ne.jp/sessendo/20080705/p1" target="_blank">http://d.hatena.ne.jp/sessendo/20080705/p1</a>

  • いかにリハビリが大切か身を持って語っている。こういう本が読まれるべきなのに、まだ一刷のまま。書店には読む値打ちもない駄本が山積みされて、無知な人が群がって買って行く。

  • 図書館2階「闘病記文庫」コーナーにあります。 請求記号:498.13//脳//24

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著者プロフィール

多田富雄(ただ・とみお、1934-2010) 
1934年、茨城県結城市生まれ。東京大学名誉教授。専攻・免疫学。元・国際免疫学会連合会長。1959年千葉大学医学部卒業。同大学医学部教授、東京大学医学部教授を歴任。71年、免疫応答を調整するサプレッサー(抑制)T細胞を発見、野口英世記念医学賞、エミール・フォン・ベーリング賞、朝日賞など多数受賞。84年文化功労者。
2001年5月2日、出張先の金沢で脳梗塞に倒れ、右半身麻痺と仮性球麻痺の後遺症で構音障害、嚥下障害となる。2010年4月21日死去。
著書に『免疫の意味論』(大佛次郎賞)『生命へのまなざし』『落葉隻語 ことばのかたみ』(以上、青土社)『生命の意味論』『脳の中の能舞台』『残夢整理』(以上、新潮社)『独酌余滴』(日本エッセイストクラブ賞)『懐かしい日々の想い』(以上、朝日新聞出版)『全詩集 歌占』『能の見える風景』『花供養』『詩集 寛容』『多田富雄 新作能全集』(以上、藤原書店)『寡黙なる巨人』(小林秀雄賞)『春楡の木陰で』(以上、集英社)など多数。


「2016年 『多田富雄のコスモロジー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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