バイオ化する社会 「核時代」の生命と身体

著者 :
  • 青土社
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  • Amazon.co.jp ・本 (300ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784791766437

作品紹介・あらすじ

生物学・医学をはじめとする科学技術の進展は本当に社会を変えたのか?むしろ従来の歪みを露わにしただけなのではないか?生殖技術から、幹細胞研究、うつ病治療、そして福島第一原発事故にいたるまで、人々の生を選別し分断する社会の現在を鋭く分析する。

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  • バイオ医療の進展に伴う社会及び人間の変容を「バイオ化(生物学化)」と呼び、社会と人間の変容を批判的に論じられている。

    扱われているテーマは
    生殖補助医療技術、遺伝子医療と出生前診断、幹細胞科学、マインドリーディング、うつ、痛み、そして原発事故である。

    実はどれもが渡したの身近、すぐそこにあるものであるけども、同時に遠くにも感じる。

    情報へ如何に向き合うか、そして、一段階高い視野から広くそれを眺めることができるか、そういったことの重要性を感じた。

    正直、難解な部分も有ったのだが、著者による説明はかなり噛み砕かれているのでわかりやすい。
    そして、著者による批判的な説明・解釈と問題提起は、どれも的を得たものだ。

    本書は2012年4月12日に発刊されたものだが、「あとがき」には東日本大震災から1周年を前にしてと書かれている。
    本書構想中に東日本大震災が起こり、大きく内容変更をされたらしい。
    この度の災害を直接的に論じるものではないのだが、それでもかなり震災、こと原発事故に言及されており、その内容もかなり考えさせられる。

    『バイオ化』とともに、『リスク』ということも重要に語られているが、そもそも、リスクとは何かという点において考えさせられた、かなり勉強になった。

    本書は非専門家・一般市民にむけて書かれているものであるが、医療に携わる自分としては、かなり重要な書籍となる。同僚や仲間などにも薦めたい良書。

    300ページに渡る本であるが、260ページからは各章の(註)と、ブックガイド&シネマガイドに費やされている点も非常にありがたい構成となっている。

    ----------------
    【目次】
    はじめに
    序章  3・11 “以前”、科学 “以外”
     二つの 「線」
     被災地にて
     地震・津波・原発事故
     「津波の高さは 「北高南低」 なのに、死者の数は 「南高北低」」
     社会的脆弱性
     リスク社会再考

    第1章 家族のバイオ化 生殖補助医療技術
     体外受精の先駆者、ノーベル賞を受賞
     「人工生殖技術の見えないコスト」
     不妊治療としての生殖補助医療技術
     生殖補助医療技術のバリエーション
     (1)人工授精
     (2)体外受精
     (3)代理出産
     家族のバイオ化/脱バイオ化の逆説
      生殖補助医療技術の現状
     生殖補助医療技術の問題群
     体外受精のリスク
      体外受精からES細胞へ

    第2章 未来のバイオ化 遺伝子医療と出生前診断
     「私のDNAをググってみた」
     『GATTACA』
     ヒトゲノム計画
     ヒトゲノムと原子力
     遺伝子医療
     (1)遺伝子治療
     (2)遺伝子診断
     (3)出生前診断
     (4)デザイナー・ベビー
     遺伝学化した社会
     ダウン症と出生前診断
     出生前診断の結果にもとづく中絶
     出生前診断にとって 「リスク」 とは?
     代理出産+出生前診断

    第3章 資源のバイオ化 幹細胞科学
     宗教? それとも社会?
     幹細胞とは?
     ES細胞の時代
      ファン・ウソク事件
     iPS細胞の誕生
     万能細胞はどのように 「万能」 か?
     多能性とは?
     倫理的な幹細胞
      イアン・ウィルムットの撤退
     社会的問題

    第4章 信頼のバイオ化 マインド・リーディング
     語りえぬもの
     ハーヴェイ・ネイサンの憂鬱
      法廷に立つ脳
     脳内現象と心的活動
     信頼と不信

    第5章 悲しみのバイオ化 抗うつ薬
     社会的殺人としての自殺
     うつ病とその治療
     うつ病の遺伝学化
      抗うつ薬の神話
     遺伝学化、生物医療化、バイオ化と社会的因子

    第6章 痛みのバイオ化 腰痛とその治療
      当事者として
     個人的な体験
      腰痛を越えて
     「身体的な痛み」 と 「社会的な痛み」
     「社会的な痛み」 の処方箋

    第7章 市民のバイオ化 原発事故
     3・11のフクシマ事故
     郡山市立明健中学校にて
     原子力発電と放射線
     放射線の人体への影響
      生まれてくる子どもへの影響
     放射能差別
     生物学的市民権
     出生前診断と 「産み控え」
     『チェルノブイリ・ハート』
     原子力的権力

    おわりに

    ブックガイド
    シネマガイド
    あとがき

    索引
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著者プロフィール

粥川準二(かゆかわ・じゅんじ) 1969年生まれ。愛知県出身。ライター・編集者・翻訳者。「ジャーナリスト」と呼ばれることもある。国士舘大学、明治学院大学、日本大学非常勤講師。博士(社会学)。著書に『バイオ化する社会―—「核時代」の生命と身体』(青土社、2012)、市野川容孝編『生命倫理とは何か』(共著、平凡社、2002)など。共訳書にエドワード・テナー『逆襲するテクノロジー―なぜ科学技術は人間を裏切るのか』(早川書房、1999)など。

「2016年 『曝された生』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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