- Amazon.co.jp ・本 (173ページ)
- / ISBN・EAN: 9784791766680
作品紹介・あらすじ
ありとあらゆる少女のよろこび。奔放にして芳醇な言語宇宙の炸裂を見よ。
感想・レビュー・書評
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恐ろしい短編集。
物語そのものは恐ろしくない。
しかし、内面を外から覗くと恐ろしく感じてしまう。
これらの物語は思春期心性、或いは病理に近い無意識レベルの幻想のようだ。
しかし、その幻想の一端に驚くほどに的を射抜くような言葉がある。
P.135『「みんな不安を纏っているけど、誰もが痛みに満足してる」』
未分化な自他。
P.10『自分からついてでた言葉が人のなかに入っていってそこにありつづけるなんてたまらない。しかも永遠になんて』
曖昧な安全感。
P.32『〜この家からでて、この入れ子を放棄することだ、と暗闇が花の影のような模様をつくる天井をじっとみつめながらコスモスは思った。』
果たして治療とは歯科医院だったのか、それとも・・
時間の見当識が失われている様。
過去、現在、近未来の自己同一性が「黄色く」拡散してしまっている様子である。
この短編集をこういう読み方ばかりしていると健康に悪そうだ。
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2012年刊。収録作は2008年から2012年。
1年前に購入していたハードカバーの散文詩集だが同著者の『先端で、さすわ さされるわ そらええわ』(2008)と同様にこれも文庫化されてしまい、深い悲しみに包まれ月日が経った。
驚きと新しさに覚醒した言葉が次々と立ち現れ、文脈の意味ストリームに埋没せずに未見のイメージが生成されてゆく様は、まさに「現代詩」であり、その原理は現代音楽と同じである。
ご本人が喋るのを聴いたことはないが川上未映子さんはたぶんかなりの多弁で、言葉で溢れかえっている人なのではないか。しかもその言葉は鋭い感性に満ちていてそのきらめきは圧倒的な量となってなだれ込むのである。
『先端で・・・』の際よりも作品として成熟が見られ、作者特有の物語性・フィクション性への志向があって他の現代詩作者たちの作物との違いが窺われる。高見順賞を受賞したのだからたいしたものだ。
言葉たちの際立ちが楽しく、川上さんの小説作品よりも当然ながらそうした才気が走っている。最近は彼女は詩を書いていないのだろうか。 -
こちらが置いてけぼりにされるくらい逞しい想像力。ことばの洪水。
いつもこんなにたくさんのイメージやことばのなかにいるのだとしたら、ものすごく生きづらいだろうなと思った。 -
散文詩というよりも詩的散文...?
アートとも言える言葉の連なりで、言葉にも感触ってあるんだなと思った。
さらさらでふわふわ。
読み終わった後の余韻は小川未明の童話を読んだ時のそれと似ていた。
この中だと「治療、家の名はコスモス」と「わたしの赤ちゃん」が
物語としても読みやすかった。
やっぱり川上さんは「歯」が好きなんだね。
読むと右脳が刺激されそうな本です。 -
口当たりの好い言葉の羅列をすいすい読む感じ。
詩集だったんですね。気がつきませんでした。 -
短編集…なのだけど、小説というよりは散文詩のような不思議な言葉あそびのような作品集でした。大量のホットケーキを焼いてバベルの塔のようにひたすら積み上げていく家族の「誰もがすべてを解決できると思っていた日」がお気に入り。
※収録
戦争花嫁/治療、家の名はコスモス/バナナフィッシュにうってつけだった日/いざ最低の方へ/星星峡/冬の扉/誰もがすべてを解決できると思っていた日/わたしの赤ちゃん/水瓶 -
戦争花嫁、治療家の名はコスモス、バナナフィッシュにうってつけだった日、いざ最低の方へ、星星峡、冬の扉、誰もがすべてを解決できると思っていた日、わたしの赤ちゃん、水瓶
2008年〜2012年までに発表された8編と題名にもなっている書き下ろし9つの作品
「蝉と鳩」が出てくる話と「すべての〇〇」で出てくるすべてのことばのチョイスに圧倒された。
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短編集の戦争花嫁と冬の扉が好きだと思った。戦争花嫁の少女は言葉が相手を傷つける要因であると、言葉を閉じる。好きな文章をあげると長文になるので割愛する。冬の扉は散文詩だが、これは愛の物語だと思う。奔放で自由であり闊歩する。そんな言葉を愛する人に届ける物語。戦争花嫁を読めただけでも満足だった。意味が意味と通じない言葉遊びの羅列。言葉を愉しむ、言葉を吟味する。短編集としての区切りはあるが、終わりも初まりもない。ただ音として匂いとして空間としてストーリーが展開される。意味が意味と通じない言葉遊びの羅列。そこに川上未映子のエッセンスがある。
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雲の上を歩いた記憶が頭の奥底に確かに眠っているようで、手繰り寄せて埃を被ってしまったそれをポケットのハンカチで磨いて磨いて光らせる、読点読点読点、句点が見つからない、丸はどこに消えてしまった、の、時を刻む音と針、冬の隙間、金平糖の記憶、ホットケーキの泡、駅前のオブジェ、5月の夕暮れ、さよならの帰還、ハイヒールの消失、瞬きする間にあの透明な枠の中へ去ってしまったのですか、冬は
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わたしはいつもこうだから、だからこうして大事なときに大事なことを言えないままで見ていることしかできなくて、そのことを悲しいことだと思いはするのに、どうにかしなきゃと思うのに、それは決して嘘じゃないのに、なぜ何もかもを、なかったことにしてしまうのだろう。
(P.83)