清貧の思想

著者 :
  • 草思社
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  • Amazon.co.jp ・本 (220ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794204776

作品紹介・あらすじ

生活を極限にまで簡素化し、心のゆたかさを求めたわれらの先達。西行・兼好・光悦・芭蕉・良寛など清貧に生きた人々の系譜をつぶさにたどり、われら今いかに生きるべきかを改めて問い直す。

感想・レビュー・書評

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  • 膨大な年収を稼いでいるであろう某芸能人が放蕩ながらも吝嗇、ことの真偽はさておき、金払いも後輩の面倒見も良くなかったらしく多方面から叩かれている。私個人は、テレビの世界などどうでも良いと思うタイプで、双方に大した道義も無さそうな話は興味が無いが、あれだけ金を貰っておいて使わない(これが本当なら)という所が気になった。何故か。

    金持ちとは、金満、拝金、利己的な我欲の向きと、相当範囲で重なるという推定に大きく誤りは無い。金稼ぎを悪徳のように断じる日本文化は時代遅れであり、今は投資の勉強も必要だし、お金に対してもっとオープンに語るべきとの論も間違いではない。しかし、お金とは、切り売りされた人間の自由を獲得するための媒体であり、他者が多く保有する事に警戒し、嫌悪感を持つのは自然な事だ。個人単位での安全保障が危ぶまれるために、人は他人の貯金や財、年収を意識する。

    本阿弥光悦の項で本著は引く。「いつの時代にも共存共栄を図るよりも慳貪なる者の方が多い」心持の高雅であるか卑陋であるか、足る事を知らねば、欲望に際限はない。腹は満たされ限度があっても、金には限度がなく、支配欲と生存競争における防衛本能として幾らでも人は蓄財するのだ。

    しかし、故に。神秘学者のエックハルトは述べる。自分が所有するもの、自分が持つもの、また神にさえも縛られ、自由を奪われ、つなぎ止められてはならないということ。束縛を受けず物や自我に執着することへの渇望から自由であると言う意味での自由は、愛と生産的にあることとの条件である。

    エックハルトの次の一文は考えさせられた。
    ー知識を所有することすら、持つこととみなした。

    情報通、芸能通。自らの豊富な話題に酔い、世俗的な話題を振りまいて賑やかす。ファッションやグルメ、車や不動産、スポーツ、芸能、旅行。そしてこれらも清貧に反すると。蓄財し、消費される人間の営為は生々しい生存競争においてのリアルだ。生存本能ゆえにあらゆる資産をせこせこ貯めるのも、また人間。しかし行き過ぎてバーストしないよう、お互いに許容範囲内の欲望を手探りで果たしていく、それが多くの人間の答えにも見える。

  • 「清貧の思想」中野孝次著、草思社、1992.09.16
    222p ¥1,500 C0095 (2020.12.11読了)(2020.12.02借入)(1993.03.09/37刷)
    1993年の本の年間ベストセラーランキング第7位です。
    ベストセラー本を気にしなくてもいいはずなのですが、なんとなく気になって遅ればせで少しずつ読んでいます。最近では、以下の本を読みました。
    「蒼い時」山口百恵著、集英社文庫、1981.04.25
    「絶歌 神戸連続児童殺傷事件」元少年A著、太田出版、2015.06.28
    「もの食う人びと」辺見庸著、角川文庫、1997.06.25

    「清貧の思想」もずっと気になっていたので、読んでしまうことにしました。
    日本製品が世界中で使われるようになり、また、日本人旅行客が世界中を訪れるようになって、日本人に対する関心が高まっている。日本人について関心を寄せている方に、「日本文化の一側面」として「西行・兼好・光悦・芭蕉・池大雅・良寛」等を例に引きながら「ひたすら心の世界を重んじる文化の伝統がある」という事を中野孝次さんは話している。
    講演では、十分話しきれないので、本にまとめてみた、ということです。
    西行・兼好・芭蕉・良寛は、作品を読んだり、関連本を読んだことがあります。光悦・池大雅は、作品を見たことがあります。そういう意味で、なじみのある方々です。

    【目次】
    まえがき

    一、本阿弥光悦と肩衝の茶入れ
    二、本阿弥妙秀の暮しと生き方
    三、本阿弥光徳、光甫の刀を見る目
    四、鴨長明と方丈の庵
    五、越後五合庵での良寛
    六、良寛、山中の沈黙行
    七、鴨長明が讃えた芸道一筋の名手たち
    八、子供と遊ぶ良寛の内なる世界
    九、池大雅の暮しと人となり
    十、桃源郷に心を遊ばせる与謝蕪村
    十一、蕪村、市井に住むことこそ己れの風流
    十二、橘曙覧、雨の漏る陋屋に万巻の書
    十三、吉田兼好の死生観とその普遍性
    十四、風雅に身を削る松尾芭蕉
    十五、旅で死ぬ覚悟の芭蕉に見えた景色

    十六、清貧の思想―日本文化の一側面
    十七、古代インド哲学と良寛の同質性
    十八、花を愛し孤独に耐えきる西行
    十九、清貧とは清らかで自由な心の状態
    廿、自然の中のいのちの気配に耳をすます
    廿一、現実の無残な相をも直視する精神
    廿二、庶民に生き続けてきた清貧の思想
    廿三、何が必要で何が必要でないか
    廿四、われらいかに生きるべきか
    参考文献

    ●与謝蕪村(1716~1783)(84頁)
    与謝蕪村は芭蕉なきあとの俳諧という文学の第一人者であり、画家でもあった
    ●最高の宝(109頁)
    人間にとっての最高の宝は財産でも名声でも地位でもなく、死の免れがたいことを日々自覚して、生きて今あることを楽しむことだけだ
    ●辞世の句(117頁)
    わが生涯いひ捨てし句々、一句として辞世ならざるはなし。(芭蕉)
    ●芭蕉の句(132頁)
    自然そのものが芭蕉の口を藉りて己をうたっているようである。

    ☆関連図書(既読)
    ☆西行(1118~1190)
    「西行-魂の旅路-」西澤美仁編、角川ソフィア文庫、2010.02.25
    「西行 さすらいの歌人」井上靖著、学習研究社、1991.06.20
    「西行」高橋英夫著、岩波新書、1993.04.20
    「西行」白洲正子著、新潮文庫、1996.06.01
    「白道」瀬戸内寂聴著、講談社文庫、1998.09.15
    「西行と清盛」嵐山光三郎著、集英社、1992.04.25
    「西行花伝」辻邦生著、新潮文庫、1999.07.01
    ☆鴨長明(1155?~1216)
    「鴨長明『方丈記』」小林一彦著、NHK出版、2012.10.01
    「方丈記」鴨長明著・武田友宏編、角川ソフィア文庫、2007.06.25
    「方丈記私記」堀田善衛著、ちくま文庫、1988.09.27
    ☆道元(1200~1253)
    「道元『正法眼蔵』」ひろさちや著、NHK出版、2016.11.01
    「正法眼蔵随聞記」懐奘編・和辻哲郎校訂、岩波文庫、1929.06.25
    「正法眼蔵随聞記」懐奘編・古田紹欽訳、角川文庫、1960.08.20
    「道元入門」秋月龍珉著、講談社現代新書、1970.02.16
    「「正法眼蔵」を読む」秋月龍珉著、PHP文庫、1985.11.15
    「道元禅師の話」里見弴著、岩波文庫、1994.08.19
    「道元断章―『正法眼蔵』と現代」中野孝次著、岩波書店、2000.06.15
    ☆吉田兼好(1283?~1352?)
    「兼好法師『徒然草』」荻野文子著、NHK出版、2012.01.01
    「絵本 徒然草(上)」橋本治訳・田中靖夫絵、河出文庫、2005.06.20
    「絵本 徒然草(下)」橋本治訳・田中靖夫絵、河出文庫、2005.06.20
    ☆松尾芭蕉(1644~1694)
    「松尾芭蕉『おくのほそ道』」佐々木櫂著、NHK出版、2013.10.01
    「おくのほそ道」松尾芭蕉著・板坂元訳、講談社文庫、1975.08.15
    「松尾芭蕉」嶋岡晨著、成美堂出版、1988.05.10
    「芭蕉、旅へ」上野洋三著、岩波新書、1989.11.20
    ☆良寛(1758~1831)
    「良寛『詩歌集』」中野東禅著、NHK出版、2015.12.01
    「良寛 旅と人生」良寛著・松本市壽編、角川ソフィア文庫、2009.04.25
    「風の良寛」中野孝次著、文春文庫、2004.01.10
    「良寛」水上勉著、中公文庫、1986.09.10
    「良寛を歩く」水上勉著、日本放送出版協会、1986.03.20
    「手毬」瀬戸内寂聴著、新潮社、1991.03.15
    ☆中野孝次さんの本(既読)
    「ブリューゲルへの旅」中野孝次著、河出書房新社、1976.02.20
    「ハラスのいた日々」中野孝次著、文春文庫、1990.04.10
    「五十年目の日章旗」中野孝次著、文春文庫、1999.08.10
    「「悦楽の園」を追われて―ヒエロニムス・ボス」中野孝次著、小学館、1999.05.10
    「道元断章―『正法眼蔵』と現代」中野孝次著、岩波書店、2000.06.15
    「風の良寛」中野孝次著、文春文庫、2004.01.10
    (2020年12月15日・記)
    (「BOOK」データベースより)amazon
    生活を極限にまで簡素化し、心のゆたかさを求めたわれらの先達。西行・兼好・光悦・芭蕉・良寛など清貧に生きた人々の系譜をつぶさにたどり、われら今いかに生きるべきかを改めて問い直す。

  • 物に溢れ、欲に溢れている現代。
    欲には終わりがない。
    ほしいものは無限にでてくる。

    それは資本主義の現代、仕方のない話。

    その流れに身を任せるのか。
    それとも、流れにさからい、能動的に動こうとするのか。

    自分なりの解釈がかなり入っていますが、倹約に通じる話だと思います。

    物への欲望を捨て、物の執着から逃れ、簡素な生活をしたなかに、本当に精神の充実や安定がおとずれるのかな?

  • 清貧という言葉が日本人らしい。
    要は質素に暮らすこと。

  • まだまだ日本が世界に冠たる経済大国であった頃、大量生産大量消費へのカウンターとして著されたんかな、著者自身が外国人と接する際にエコノミックアニマルとして日本人が捉われているような質問、発言をされる時に「そうではなくてこんな人たちがいた、こんな文化もあった」、という回答がそのまま本になっているよう。
    本阿弥光悦や妙秀、鴨長明、良寛、池大雅、与謝蕪村、吉田兼好、松尾芭蕉、西行など、清貧の中で心豊かに生きていった人々を紹介する。

  • 若い頃に読んだときは、辛気臭くて好きでなかった。
    当時ベストセラーで購入したけれど、挫折して手放した本。

    いまの若い読者の多くがそうだろう。我慢しろ、耐えろ、誇るな、奢るな、持つな。こんなことを説かれて、血気盛んな時期に頭に来ない方がおかしい。老人の訓戒と言われてもしかたがない。

    いま読み直してみると、書かれていることがすっと頭に入ってくる。人生の断捨離を迎えた頃に、余分なものをもたない、しがらみを捨てることがどれだけ豊かなことか。

    本阿弥光悦は吉川版武蔵の造形が、かなり本人と異なると聞いて驚いた。池大雅や与謝蕪村のような文人の生き方は、あきらかに名声だけを求める現在のクリエイターとは雲泥の差。教科書でしか知らずにいた『方丈記』を紐解きたくなる。

    若い頃、なぜしっくりこなかったかといえば、あのころは何者にかなりたくてウズウズしていたからのだろう。現在は、悪い意味で社会とかかわりたがらない隠者のような生活を好む若者が多いけれど、清貧に生きることが増えても経済が回りづらくなるので、考えものでもある。

  • “清貧”って思想は悪しき過去の遺物だと思っている。
    だからこそ読んだが…
    苦労すれば必ず報われると思ってる人はどうぞ、お読み下さい。

  • ジャパニーズスピリット

  • 生活を極限にまで簡素化し、心のゆたかさを求めたわれらの先達。西行・兼好・光悦・芭蕉・良寛など清貧に生きた人々の系譜をつぶさにたどり、われら今いかに生きるべきかを改めて問い直す。

    本阿弥光悦と肩衝の茶入れ
    本阿弥妙秀の暮しと生き方
    本阿弥光徳、光甫の刀を見る目
    鴨長明と方丈の庵
    越後五合庵での良寛
    良寛、山中の沈黙行
    鴨長明が讃えた芸道一筋の名手たち
    子供と遊ぶ良寛の内なる世界
    池大雅の暮しと人となり
    桃源郷に心を遊ばせる与謝蕪村
    蕪村、市井に住むことこそ己れの風流
    橘曙覧、雨の漏る陋屋に万巻の書
    吉田兼好の死生観とその普遍性
    風雅に身を削る松尾芭蕉
    旅で死ぬ覚悟の芭蕉に見えた景色
    清貧の思想―日本文化の一側面
    古代インド哲学と良寛の同質性
    西行、花を愛し孤独に耐えきる精神
    清貧とは清らかで自由な心の状態
    自然の中のいのちの気配に耳をすます
    現実の無残な相をも直視する精神
    庶民に生き続けてきた清貧の思想
    何が必要で何が必要でないか
    われらいかに生きるべきか

  • 足るを知らば貧といえども冨となづくべし、財ありといえども欲多ければこれを貧となづく 大雅には悲劇性が感じられないのは、認められなくても貧しくともそんなことに頓着せずただ画を描くことを楽しみにした 日本とは、日本人とは一体なにものだという関心が高まって来た  清貧とはたんなる貧乏ではない 日本家屋は広い開口部を設けて自然に向かって自己を開放している 

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著者プロフィール

1925-2004。千葉県生まれ。東京大学文学部卒、國學院大學教授。作家、評論家。『実朝考』『ブリューゲルへの旅』『麦塾るる日に』『ハラスのいた日々』『清貧の思想』『暗殺者』『いまを生きる知恵』など著作多数。


「2020年 『ローマの哲人 セネカの言葉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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