- Amazon.co.jp ・本 (317ページ)
- / ISBN・EAN: 9784794204813
感想・レビュー・書評
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人類学者が考えていることが、いかに現在の反映でしかないか、というのを、あらゆるところで感じる
むしろ、死ぬの生きるのがすぐ隣にあることの新鮮さや、とはいえ既に動物からは大きく隔たっていることとか
多神教的、汎神的、シャーマニズム的世界によりながらも、語り手の見せるわずかな拠り所の痕跡がとても一神教的で
こういうのを書ける日本人がいれば、もちょっとリアルだったんやないかな
けど、素晴らしい読書体験になる詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
上下巻。
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変わらない人々のいとなみ、狩りをして肉を得る、男と女が血をつないでいく。
いきなり「私」が死んだあと、というところで物語がはじまるほど、霊との近い関係におどろかされる。
あとがきによればシャーマンということばは、シベリアあたりのツングース諸語に由来するようで、舞台となるここは2万年前のシベリア。強く美しい「私」ヤーナンの意外に強情っぱりな人物像が浮かび上がってきてハラハラ、でもやはり命をおびやかされるほどの酷寒で「生きる」ことは無我夢中で、強い意志なくしては命を保つことはできない。生きるためには肉が欲しくて、いつもおなかをすかせている。読みすすむうちいつのまにか痩せたライチョウではなく、ぷりぷりともり上がった尻の牝ウマを心待ちにしている。
作者のエリザベスは20歳で両親・弟と、地図にも載っていなかった僻地で数年間調査のためブッシュマンの人々とともに生活し、その後人類学者としての地位を確立していく。
綿密な調査と自由な想像力の上に立ったこの本を読んだあとには、血と肉の焼けるにおいや、凍る大地に獲物がかからないもどかしさと飢え、そこで生きていてみんな死んでいくことがとてもなまなましく、これからどこかの博物館で槍のための石を見つけたならば、あの男たちのうちの誰かがあの火の前でていねいに削る背中がよみがえり、ここでたしかに生きてたんだなあと思うに違いない。