からくり民主主義

著者 :
  • 草思社
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  • Amazon.co.jp ・本 (285ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794211361

作品紹介・あらすじ

さまざまな問題が噴出して右往左往の日本社会。いたるところで「権力」は悪行の限りを尽くし、「弱者」たる国民はつねに善良な犠牲者である。国民の怒りを背負ったマスコミは、悪いヤツらを鋭く追及する。沖縄米軍基地、若狭湾原発銀座、諌早湾干拓地、新興宗教団体…。ところが、問題の現場に実際に行って確かめてみると、ことはそれほど単純ではなかった。わかりやすい悪者は容易には見つからず、あちらを立てればこちらが立たず、ややこしく絡み合った利害関係は、絡み合ったままのほうが安定していたりする。どちらが悪いかという話だけでは、どうにも収まりがつかないのである。日本列島はどこもかしこも問題だらけ。どこかおかしな「戦後民主主義」に呪縛され、奇妙にひずんでしまった社会の、なまの姿をつぶさに記録したのが本書である。

感想・レビュー・書評

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  • うーん、これはまったく困った本だ。村上春樹さんの解説のタイトルも「僕らが生きている困った世界」となっている。(解説が村上さんというのも驚きだが)

    高橋さんは例によって、とにかく「現場」へ行って長期間とことん取材する。すると、新聞報道などでわかっていたつもりになっていたことがどんどん曖昧になり、混沌としてくる。

    最初のほうの「小さな親切運動」とか「統一教会」あたりはまだ良かった。「へぇ~」なんておもしろがってた。「諫早湾干拓問題」でその利害の絡まり方があまりに複雑であることに唸り、「沖縄米軍基地」では、自分の単純な思い込みが打ち砕かれ、「若狭湾原発銀座」に至っては、もう何が何だか「これはいったい何なんだ!」と叫びたくなった。

    まったく困る。これじゃあ何が正しいのか、何をよりどころにしたらいいのか、なにもわからなくなってしまうじゃないか。まあ、現実というのはそういうものなのだろうが、それにしても、である。むう、と落ち着かない気持ちを村上さんの解説がずいぶんなだめてくれた。
    「どこかから借り物の結論みたいなものを持ってきて、大言壮語しないこと。そういうのは僕らの生活にとって、すごく大事なことなのではないだろうか?」

  • 語り口が好き。面白い。ついつい声だして笑ってしまう。

  • 掲載誌もテーマも異なる短編(ノンフィクション)を、10作品詰め合わせたもの。
    それぞれの記事の背景にあるものは、複雑にこじれてしまい、もうにっちもさっちもいかなくなってしまった社会問題の現状か。
    いずれも、結論は記されていない。両論併記を配慮した結果というより、現状をありのままに記述したら、そうなってしまったという感じ。読み手が確実にジレンマに陥るであろう、もやもやと霧がかったようなルポルタージュの数々は、まるでテレビの深夜ドキュメンタリー番組を観ているかのよう。
    それでも、本書はおもしろい。論のキレ味の悪さを、着眼点のユニークさでカバーしているからだ。
    なかでも、小さな親切運動、世界遺産の白川郷、若狭湾の原発銀座のエピソードは目からウロコが落ちた。

  • 正しい解決策とか、はっきりとした原因とか、明確な対立とか、そんなものはないのです、ちゃんと調べたら。ありすぎる矛盾や皮肉をうまいひとがまとめると笑いになる。そういう本。

  • 日々のニュースがいかに表面的にしか伝えてないかよく分かる書籍。

  • 高橋秀実が続いてしまったが、偶然。『定年入門』は単なる老人インタビューといった赴きだったが、本書は世界遺産、原発、諫早湾、辺野古既知問題、横山ノック・セクハラ問題といった社会問題に鋭く(鈍く?)斬り込み、現地の人々の声を拾った秀逸なルポとなっている。一方で、真実や本質に関する考察はそっちのけで、とにかく問題を煽ることしか考えていないマスメディアの姿も浮き彫りにされる。

  • 福井の原発、沖縄米軍基地、諫早湾干拓を読んだ。

    諫早干拓事業は、1952年に諫早湾全体を水田化する「長崎大干拓構想」に始まったが、米の生産過剰が問題になると立ち消えになった。1970年に淡水湖をセットで造成する「長崎南部地域総合開発事業」として復活したが、これも打ち切られた。1982年に湾岸の洪水、高潮対策の防災を重視する現在の計画が打ち出され、89年に起工した。

    有明海の干満差は6mに及ぶため、潮受け堤防を造り、海の水位が低くなる干潮時に調整池に溜まった水を排水し、水位をマイナス1mに保持できるようにした。森山町は後背地に水源が乏しいため地下水に依存し、地盤沈下が進んでいたが、潮受け堤防によって淡水化された潮遊池からパイプラインで水を引くことができるようになった。

    有明海は反時計回りに潮が流れるため、熊本、福岡、佐賀の海に捨てられたノリ養殖の酸処理剤、工場排水、PCBなどの汚染物質が諫早湾にたどり着く。阿蘇の火山灰などの微粒子でできたガタ土も運ばれてくる。潮受け堤防ができるまで、農民たちはスコップでガタ土の除去作業をしていた。

  • p.14「ピンク色でも強ければよいではないか。男女共同参画を訴えたいがためのこじつけのような気がしてくる。」

    いや、ピンク色がダメなんじゃなくて、「女にはピンク与えとけ!」ってのがダメなわけ。選択肢が奪われてることがダメなの。

  • 日本で起きている様々な問題。それらはどこかおかしな「戦後民主主義」に呪縛されたものなのだ。統一教会とマインドコントロール、沖縄米軍基地問題、若狭湾原発銀座を例にあげ実際にその場へ行って調査する。するとこれらの問題に、分かりやすい一人の悪者はいない。ややこしく複雑な問題が絡み合っているのである。「戦後民主主義」の呪縛による「からくり民主主義」の日本について、今一度考えさせられる一冊。

  • 全ての事象に2面性以上あり。マスコミには注意を。

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著者プロフィール

医師、医学博士、日本医科大学名誉教授。内科学、特に免疫学を専門とし、東西両医学に精通する。元京都大学ウイルス研究所客員教授(感染制御領域)。文部科学省、厚生労働省などのエイズ研究班、癌治療研究班などのメンバーを歴任。

「2022年 『どっちが強い!? からだレスキュー(3) バチバチ五感&神経編』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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