健康帝国ナチス

  • 草思社
3.59
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本棚登録 : 133
感想 : 13
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  • Amazon.co.jp ・本 (373ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794212269

作品紹介・あらすじ

「健康は義務である」と、反タバコ運動や食生活改善運動を強力に推進した第三帝国が目指した"ユートピア"とは?今日にもつながる問題を提起する異色のナチズム研究書。

感想・レビュー・書評

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  • いい仕事してますね、と言いたくなる良書。誰も書こうとしないナチスのアナザー・サイド。タバコの発がん性を指摘し、アスベストの、合成着色料の危険性を警告し、自然食を推奨し、肉食を避け、動物の生体実験を禁じたのもナチスだった、という本書の主題はもちろん興味深い。
    だが、それ以上に考えさせられたのが著者が再三繰り返す「多面性」。動物を大切にする一方で人間を粗末にしたナチス。動機はともあれ、国民を健康にすることに情熱を燃やした一方で、健康でない(と決めた)人々を抹殺したナチス。現在の視点からみれば絶対悪にしか見えないけれど、あの時代のドイツでは圧倒的な支持を受けたナチス。たぶん、本物の悪党は、わかりやすい凶悪な人相はしていない。

  • ふむ

  • 原著のタイトルは『ナチスのガン戦争』。読み始めた時は翻訳本にありがちな、和訳の時に余計なことして原著の真意を壊してしまったタイトルかと思いましたが、訳者は後書きで「ガン以外のテーマにも多く触れているため、あえてこのタイトルにした」と述べています。
    確かにアルコールの制限や肉の摂取制限などといった「健康志向のナチス」という側面も語られていますが、本の大半が職業病として発生するガンとタバコに起因する肺ガンへのナチスの取り組みに割かれていることを考えると、果たしてこのタイトルが正解だったのかどうかは読了した今でも釈然とはしていません。
    読者を惹きつけることだけを考えたら、好いタイトルになっているとは思いますが。

    健康なドイツ国民を増やし純性を高めようとした一方、純粋でない他民族(特にユダヤ)を排除しようとしたナチス。
    効率性を追求する中で、非効率を生み出すタバコやアルコールを「ドイツの経済と軍事力の敵」とみなし、排除しようとしたナチス。
    自然回帰的、自然食志向的な側面を間違いなく持っていたナチス。
    理想的な世界として、人はできる限り長く働き、老人や非生産的な弱者は社会に負担をかけないように早く死んでいくのがよいと考えたナチス。

    著者も述べているように、「ナチス」という背景とフィルターをかけてしまうと反射的に拒否、黙殺してしまう雰囲気がある一方、そのフィルターがなければ一概に「悪」と決めつけて断罪し、切り捨てるわけにもいかないような政策や研究結果が存在していたこと(しかも一部はアメリカやイギリスなどより遥かに早い段階から)自体は、やはり中立的な視点から知っておくべきだと思います。単純な善悪論、敵味方論では辿り着けない内容になっていて、非常に面白いです。「日常的な平凡な科学の実践と、残虐行為の実践とが共存しうることを理解すべき」という著者の言葉は非常に重いと言えるでしょう。

  • 第二次大戦でヨーロッパを侵略したナチス・ドイツは、悪の帝国のイメージがあるが、健康医療に関しては最先端の考え方を持っていた。
    タバコ撲滅運動、アルコールの害毒性の認識、肉の食べすぎの危険性、
    ガン撲滅など現代の健康思想に通じる考え方でもあり、大戦前からナチスが健康増進活動に取組んでいたといいうのは驚いた。
    ヒトラーには、ゲルマン民族を世界で最も優秀な民族とする優生思想があり、そのためには、国民を健康で優秀な人間にすることが命題のひとつであった。そもそもヒトラー自身が禁欲的で、体に悪いとされるタバコや肉食やアルコールを好まなかったという面もある。第二次大戦の勝利者の連合国側のリーダー達が、健康に悪いとされるこれらの嗜好品を好んでいたのとは対称的だったようだ。
    一方で、ユダヤ人を人体実験に使ったり殺戮したり、健康のためというより優生思想を反映した部分もあり、著者もナチスの健康増進政策が必ずしも良いものとは認めていない。
    もしナチスが勝利し、欧州を支配していたとしたらどんな世界になったのだろう。タバコや酒などの嗜好品はストレス解消に役立つこともある。これらが撲滅された健康帝国は、体は健康であっても精神的なストレスを抱えた不健康帝国になったかもしれない。

  • 【ひとことポイント】
    ガン撲滅は、第三帝国の悲願だった!

    ナチス・ドイツと言えばヨーロッパ侵攻やホロコーストで悪名高いですが、ヒトラーが国をあげてガン撲滅のための研究・政策を推進していたことは知られていません。
    煙草と肺がんの関係を世界で最初に指摘したのもナチス時代の医学でしたし、アスベスト・食品着色料・放射能が発癌性を有するという発見もあります。
    しかしながら、本書のテーマはナチズムの功罪ではありません。ユダヤ人虐殺や人体実験などの狂気を引き起こしたものと同じイデオロギーが国民の健康を増進するとことに繋がるという、コインの裏表の様な関係にあると言うことです。

    <健康栄養学部 2年 K>

    企画コーナー「私の本棚」(2Fカウンター前)にて展示中です。どうぞご覧下さい。
    展示期間中の貸出利用は本学在学生および教職員に限られます。【展示期間:2013/4/16-5/31まで】

    湘南OPAC : http://sopac.lib.bunkyo.ac.jp/mylimedio/search/book.do?target=local&bibid=1385108

  • 当たり前だが、あまり愉快な本ではない。。。
    ナチスがニンゲンというものをどのように考えていたのか、どこに行こうといてしたのかを、医学研究の面から紐解く、という話。
    ドイツ人を健康で強い民族にするため、ありとあらゆる研究が行われたし、様々な法律も作られた。
    例えば、女性、とくに乳幼児のいる女性が、当時としてはかなり手厚い、というか、ある意味今の日本よりもと言わざるを得ない程、保護されていた。
    職場の安全についても、かなり手を尽くされていたようだし、ガン研究はいま考えてもかなり進んでいた。
    でもそれは、優しさとか道徳的な観点だとかではない。。。当然ながら。
    いいニンゲンだけを増やす。そして、ダメなニンゲンは排除してよしと、本気で考え、本気で実行したのだ。
    ニンゲンとは、誠に恐ろしい生き物だ。

  • ニコチン、アスベスト、食品添加物… それらが発ガン要因となる事をあの時代のドイツ人が知っていたという事にまず驚いたわけだが、それは決して今日の日本で表向き謳われているような健康寿命を延ばして幸せな長寿社会を目指す為ではなく目的は飽くまでも健康な労働力の確保であるので、障害者や遺伝病者の排除のみに止まらず労働力にならなくなった高齢者は速やかに死ぬのが望ましいというニュアンスも含まれており、いかにもナチスドイツらしい露骨で徹底した合理主義が伺える。
    それにしても遺伝性の疾患を持っている者を本人にそれと気付かせない様に断種する目的でX線照射が使われていたというのには驚きである。

  • あの時代とこの時代の奇妙な類似性。

  • <内容>
     健康なるジャーマンだけの国をめざす第3帝国が、人体に影響を及ぼす着色料やタバコなどを排除していこうとする。そのために医者らも尽力した。
     しかし、その悪いものを排除していこうという考えは、ユダヤ人や障害者―彼らが劣勢の遺伝子を持ったと考える人間―排除にもつながるものがあるのだった。労働者の保護は当然のようにユダヤ人らには適応されない。みな、働けなくなったら殺される。ドイツ人は生産性の高い機械であることを期待された…
     ナチスの医者と言うと、彼らが行った悪名高い人体実験などをすぐに思い出す人が多いだろう。だがしかし、彼らがガンへ戦いを挑み、高度な研究を行い、ガンの原因を排除しようとした―のも、事実である。
     単にナチスを全体主義と言い、それらを悪とまとめるのはたやすい。しかし、ナチスの人体実験、ガン対策…二つは決して矛盾することではない。必ず関連があるはずなのだ。そこを考えずして、もしくは一部を見ずしては、「ナチス」を正しくとらえることはできないのである。

    <感想>
     っていう話でした!訳もすごくよかったんだと思いますが、医療系専門用語が出てくるのに読みやすいという、すごい本です。
     それそれは、悪だ!ってとらえちゃうと、なんでああなったのか?だとか、重要な点が見えなくなっちゃうっていう…のが、すごいなあ。すごいしか言ってないなあ…

     あの、上手く伝えきれてないんで、ぜひぜひ、読んでくださいまし。

  • 色んな意味で驚きます。
    ほんと、驚きました。
    煙草とガンの研究とか、あんな頃からやっていた国でもあった事が。

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