「三十歳までなんか生きるな」と思っていた

著者 :
  • 草思社
3.42
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本棚登録 : 230
感想 : 30
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  • Amazon.co.jp ・本 (216ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794216427

感想・レビュー・書評

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  • 刺激的なタイトルなので、軽く読み切れる単純なエッセイかと思いきや、全く違う類のものでした。
    この作家の文章に触れるのは初めてですが、最初の正直な感想は、「屁理屈をこねる人だなあ」というもの。
    屁理屈というか、理屈をこねくりまわしているように思えたのです。
    ただ、読み進んでいくうちに、一本芯が通った、深い考えを持つ人だと徐々にわかってきました。

    それにしても、読みづらい本です。
    日記ならともかく、これは人に読ませることを前提として書かれたものなのだろうか?と思いましたが、巻末リストを見て納得がいきました。
    Web草思に掲載されたものだったのです。

    各章を書き上げるごとに、Web雑誌に掲載していた内容とならば、理解できます。
    おそらく、エッセイ的に著者の意識の流れるままに書き連ねていった形式なのでしょうけれど、一つ一つが、けっこう哲学的な域に至るまで深く踏み込んだもので、簡単には読み進めることができないものでした。

    どの章も、個人個人がきちんと考えていかなくてはならないような問題が提示されています。
    ガラパゴス諸島のロンリー・ジョージの話など、もはや個人の考え一つではどうにもならないような大きな地球規模の不幸も。

    ただ、いくつかの問題事項を挙げ、どんどん突き詰めていって、その問題の深刻さを訴えながらも、それに対する打開策や解決策を一切提示することなく、文章が終わってしまうので、方向性が定まらないままに終わる文ばかりで、読んでいる側は導き手を失って、とまどいます。

    全てがそういった流れで書かれているため、たくさんの問題が挙げられていながらも、どれ一つとしてスッキリするようなまとまりかたで締められていません。
    それが作者の狙いでしょうけれど、読んでいる側としては、謎かけだけされてヒントも答えもなく放り出されたような状態なので、居心地の悪さが残ります。
    また、一つの文章だけならいざしらず、全編を通して同じような問題提起のみのスタイルなのも、一度に通して読む身にはこたえる堅さでした。

    ラストで解決が見いだせないという手法に、森博嗣の作品を思い出しましたが、森作品はあえて解決しないミステリー、この作品は解決できない現実問題を採り上げているもの、と、違いはあります。
    著者自身も混乱してしまうようで「なにが言いたいのか自分でもわからない」と書いている箇所があり、(それを言ったらおしまいでしょう)とか、(ならばなぜ書こうとするのか、その理由を示してほしい)と思いました。

    常に考え続けることをよしとする自己意見にのっとって、ジョイスの意識の流れのように、とめどなく思考を流していき、連想に連想を重ねて発展させていく様をうねるような文章にしていますが、あまりアクが強いのもついていきにくいものです。
    ここで挙げられた作者の問題意識を、何か別の形で本にするなり、あるいはもっと簡潔にまとめるなりしてほしいと思いました。

    内容は深く考えさせるものですが、伝達手法があまり自分の好みではありませんでした。
    著者のほかの作品もこういったスタイルなのか、気にはなりますが、ちょっと尻込みしそうです。
    一息に読もうとはせず、少しずつ、著者と一緒に考えながら、牛歩の歩みで読んでいくべき本なのだろうと思いました。

  • 最近は時間にゆとりがあることもあって落語関係の仕事について諸々まじめに考えてしまっていたが、翻って、いまの仕事の本道は「カネを稼ぐための作業」であるということを忘れてはならず、一歩引いたところで真面目にやらなければならないな、と思った、ほんとうに大切なことはもっと別のところにあるのだが、仕事の社会性、社会に関わっているという甘えた実感がたまにその本道を忘れさせてしまう。単純肉体労働ならそういうことも薄いのかもしれないが、いまの仕事は精神に関わる部分が大きいのでより気をつけなければならない。
    必要以上に仕事に入れ込むのは、仕事のためにも危険なことだ。こうやって意識していても社会性に飲まれることはままある、意識していることを意識するためにもこの本は定期的に読むべきだと思った、今回も1年ぶりに読んではっとさせられたり、した。。

  • 1回では読みきれない(咀嚼しきれない)な。
    また、読みかえそう。

    自分を、枠の外に置かないように(神様にしない)しなくては。

    「メタスタシス」聴いてみたいな。

  • タイトルがガツンと来た
    うちも人生は30歳までで十分だと思ってた
    が、気が付いたら30過ぎてた
    外見は年を取っても中身の成長は見られないが・・・

  • 小説家のスタンダード、ど真ん中。この男が書く人生論。
    自分が死んだ後に世界はある?俺はやっぱり自分が死んだ後に世界があるかどうかなんて、関係ないと思うし。自分が生まれる前に世界があったことは認めてるんだろ?いまこうして外で会ってるけど、この時間に自分の家が消えてなくなってるとは思ってないだろ?自分の死と世界の終わりをイコールでつい結んでしまう原因は、死というものの大きさや怖さなのではないか。俗に頭の中が真っ白になると言われているような、判断停止に陥らせるインパクトが死にはあり、、、

  • 2015/2/6購入

  • 20190909に再読。哲学エッセイ、ということになるのだろうが、その解釈で本当にいいの?という部分もある。それから「プータロー」を礼賛するような文章があるが、これは完全に下に見てるというか、橋の下から乞食を見下ろしてる感がものすごい。

  • タイトルを「なんとなく三十歳までは生きるかなぁと思ってた」という主旨だと勘違いして、ゆるいエッセイだと思って読み始めたら、世間の常識を唯々諾々と受け入れるのは愚かな人間のすることだ!的な熱い話で驚きました。

    高校生の子が教師に向かって「三十二歳なんて不潔!」言い放ったというエピソードが印象的。確かにあの頃は大人なんて汚いと思っていたよなぁ。
    あの頃の自分が今の自分を見たら嫌がるかもしれないと思いつつ、でもこういう生き方だってまぁ悪くないよと教えてあげたいと思ってしまう私は、保坂さんのいうところの愚かな人間なのかもしれません。

    自分は社会にある程度迎合してしまったと恥ずかしがっている保坂さんですが、それでも十分に尖った内容なので、剥き出しの感受性を持って必死に生きていたあの頃の思考を思い出したい方におすすめします。

  • 「若き日の自分と対話しつづけることこそ、社会のどうでもいい価値観から自由でいるための唯一の方法だ。自分の人生をつかむための粘り強い思考の方法。」

  • 保坂和志は、とにもかくにも『季節の記憶』に感動して(そう、こういうのもありなんだ!という感動だったように思う)、
    ただここまで読んだ作品ではそれに匹敵するのはないな。

    今回のこれは、わりと「あぁ、保坂和志もきっといまはいいオヤジか・・・」と思ってしまうような箇所もあった。

    ただそう、私はこの人の文体というか姿勢というか、が好きでもあって。
    彼はこの本のまえがきを「この本は自問自答を繰り返し続けているような本です」と始めている。
    各章ごとに結論めいたことを書くのだけど、あくまでこれは暫定だ、ということの宣言をする。
    (その宣言は繰り返される)

    でも、では章末の文章が「~ではないだろうか。」とか「自分には~というように思われるのである。」なんていうような、安っぽい新聞の三文エッセイみたいな終り方にはしない。
    ちゃんと、「~になる。」とか「~しかありえないのだから。」「~ということだ。」なんて断言調で終わらせる。
    ただ、そこはかとない違和感が残る。
    無理やりそこで打ちとめた、というような。

    オヤジになりつつも誠実ってこういうことだよなぁ、とか上からおもったりする。

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著者プロフィール

1956年、山梨県に生まれる。小説家。早稲田大学政経学部卒業。1990年『プレーンソング』でデビュー。1993年『草の上の朝食』で野間文芸新人賞、1995年『この人の閾(いき)』で芥川賞、1997年『季節の記憶』で平林たい子文学賞、谷崎潤一郎賞、2018年『ハレルヤ』所収の「こことよそ」で川端康成文学賞を受賞。主な著書に、『生きる歓び』『カンバセイション・ピース』『書きあぐねている人のための小説入門』『小説の自由』『小説の誕生』ほか。

「2022年 『DEATHか裸(ら)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

保坂和志の作品

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