137 物理学者パウリの錬金術・数秘術・ユング心理学をめぐる生涯

  • 草思社
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感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (480ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794217936

作品紹介・あらすじ

なぜ、137という数なのか?ユングとの秘密の共同研究で探究した、物理学の「数」をめぐる謎-。二〇世紀物理学と神秘主義の意外な`近さ'を明らかにする科学史ノンフィクション。

感想・レビュー・書評

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  • ★2(付箋数5、444ページ、割合0.011)
    137の「数の意味」と言うとカバラの数秘術みたいに感じる。解答も勿論ないというか問いが間違っていると思う。なので、それを探したパウリのアプローチにも自然とついていけなくなるのだが、もう一人の主役がユングなのだ。
    二人の大学者がそれぞれに心理と量子という新しい領域に踏み込みながら、お互いに感情面で交錯していた様子はとても、歴史の綾を思わせる。

    ユングの著作を読んでいないので、ユングのカウンセリング方法のイメージを知れたのも良かった。錬金術の図の使い方はさながら、ロールシャッハか箱庭なのです。

    ユングはパウリの考えを受けて喜んで、「元型が表しているのは心的事象の確率なのです」と述べた。つまりユング心理学は、民俗学とか社会学と個人の間に生じるものへのアプローチなのだ。
    フロイトに比べてユングは非科学的だとする人は多いけれど、果たしてそうだろうか。ニールス・ボーアはパウリと議論するときに「この理論はとんでもなさが足りない」と批判したそうだ。僕から見ると、フロイトは鋭いけれど包括的でなくて「とんでもなさが足りない」ような気もする。ユングがオカルト的なのも、否定できないけれど。

  • 微細構造定数「137」は「神秘数」とも呼ばれ、宇宙とあらゆる物質の根底をなす数の1つである。「神秘」という言葉が出てきたが、この言葉こそは、学問上交錯しないはずの物理学と心理学を結びつけるカギだ。
     本書は、ヴォルフガング・パウリ(物理学者)とカール・ユング(心理学者)の邂逅が、互いにどのような化学反応をもたらしたかを明らかにした一冊。2人は「科学は神秘主義のなかから姿を現し、けっして完全には分離していない」と信じ、相手の学問分野を深化させることに情熱を注いだ。その過程を、パウリの残した夥しい量の書簡をもとに書き上げた本書からは、パウリの人としての全体像が、彼の声とともに浮かんでくる。
     量子力学における粒子のふるまいは、人の心のふるまいに似ていると思う。どちらも偶発的、等価的であるが、統計的確率に吸収される。物理学と心理学の距離は、そう遠くない。

  • 本書の題名に使われている「137」の逆数、1/137は微細構造定数と言われているものであり(正確にはその近似値)、物理定数の一つです。

    本書は、その微細構造定数の謎に取り憑かれた一人の天才物理学者・ヴォルフガング・パウリの生涯と分析心理学の基礎を築いた心理学者・カール・グスタフ・ユングとの交流を描いた本です。

    天才だが人との関わり方に問題があったパウリ。
    彼がいずれ自分の一生の業績となる排他原理を完成させる前、救いようのない精神状態に陥り、父親の薦めに従いユングの診察を受けたことから2人の交流が始まります。

    フロイトと袂を分かち、独自の心理学を構築し始めたユング。

    彼にとって著名な物理学者が自分の患者になった事は自尊心をくすぐられることだったらしく、当初(匿名ではあったが)講演でパウリの事を題材にするなど、まるでパウリを自分に与えられたトロフィーの様に扱っていたのが、パウリの高度な専門知識故に段々と2人は共同研究者となり、後には逆にパウリがユングを置き去りにして行くかの様な有様になった経緯や

    乱れた生活を送り、自分の全てであった物理学の研究にも行き詰まってユングと出会ったパウリ。

    ユングとのやりとりを通して自分の夢分析を行い、それが排他原理など物理学の歴史の中でも特筆すべき業績を生み出す切っ掛けとなっていく経緯などが解説されていました。


    本書の中で解説されていたユングは、精神医学にオカルトを持ち込んだ心理学者であり、その彼と天才物理学者・パウリが交流を重ね、その交流がパウリの業績にも結びついたと言う記述。

    それ以外にも、冒頭のユングの主張を著者の主張と錯覚してしまいそうになる文章。

    これらが組み合わさり、「もしかしてオカルト本か?」と思いながら読み進めて行った本書ですが、あくまでも一人の天才物理学者が(少なくとも一見)オカルト的と思われる夢分析の影響を受けながら、研究に打ち込み、本書の題名にも使われている微細構造定数の謎に強く引き寄せられながら最期を迎えるまでを描いた伝記本です。

    ユダヤ系だったパウリが第2次世界大戦の渦に巻き込まれていく様子や、彼の辛辣な評価を恐れる他の科学者たちの様子(彼はアインシュタインにも容赦がなかった)、ユングとの"共同研究"、その研究が妻の理解を得られていなかった様子などパウリとその周囲の描写も中々興味深く読めました。


    (本書に書かれている)パウリは、決して合理的な考えを捨て去ってナンセンスな考え方に染まった訳ではありません。

    ただ、彼は宇宙を観察して物理法則を考えだしていく人間の精神その物の存在を取り込んだ包括的な理論の構築を目指し、傷つき、心を病みながらも研究を重ねて行った。


    決して人好きのするタイプではなかったパウリのただ懸命に真理を求めて行った人生。

    本書は、危うさと純粋さを兼ね備えた人物の一生を知る、この目的に最も適した良著の一つではないでしょうか。

  •   物理学でも心理学でもない。物理学者パウリと心理学者ユング周辺の人間関係を描いた伝記だ、というのが個人的な分類。
      量子力学を大きく発展させた天才物理学者パウリ。高校時代にアインシュタインの相対性理論に関して論文を投稿した彼が、ボーア、ハイゼンベルクと出会い、異常ゼーマン効果の解決で挫折し、排他原理や第4の量子数発見などの業績を収めていく話。
      彼は「ジキルとハイド」のような、昼は研究、夜は歓楽街で淫蕩にふける、2重人格のような生活を送っていたという。
      心理学上、心は意識と無意識に階層分けされ、機能としては理性、感情、感覚、直観といった4つのベクトルがある。パウリは極端に理性偏重の意識だったから、感情、感覚、直観などの機能が未成熟となり、それらは無意識に追いやられて混沌としたままだった。だから夜に乱れた生活を送るように。
      やがて、心理療法を受けるパウリはユングと出会った。

      個人的には、過去の科学者達が、最終的には神学や錬金術等、当時の常識だった、「曖昧な(という表現で良いのか疑問だけど)」学問に取り組んだということに興味がある。科学、特に(分子生物学などの)還元主義的な科学は、ブルドーザーみたいだと思う。平地を開墾するにはブルドーザーは良いけど、崖みたいなところには向かない。遺伝子だけで人の心理とかを議論するのは限界があると思う。科学が進歩して文明が発展すれば、科学で解決できないことが積み残されて、非科学的な方向に揺り戻され、その間に科学が進歩してまた文明を発展させるような。

      量子力学とか心理学とかに関して専門的なことは書かれていないけど、CP対称性の話、ちらっとでてくるので、他の本でその崩れとかの話につなげていけば面白い、と思った。

  •  パウリとユングの名前は知っていたのだが、不勉強にしてこの二人
    に接点がある─それどころかパウリはユングの患者であったことすら
    知らなかった。

     二人の関係を中心にしたパウリの評伝とでも言える本で、決して
    「137の謎」を解き明かした本では無いことに留意。

  • 図書館で借りた。

  • 137。それはパウリの生涯の終りに待っていたとっておきのプレゼントだったのかもしれない。この本のタイトルにもなっている137は微細構造定数の逆数なのだが、この部分については最後のところで少し述べているにすぎない。この本においてページの多くを割いているのは、ユングとのやり取りであったり、精神の葛藤についての考察だといえる。また3から4への言及も本書では多く語られているが、ここにおいてはいったい何が言いたいのか(おそらく数秘術だとは思われるが)わからず、でも、その占める部分や考えがパウリにとっては大事なことであったことだけはしっかり伝わってきた。物理学者がただそれだけのことで悩まず他の領域にまで踏み込んだり、他の分野の人と触れ合うことを通して見えてくる人間的営みが、私の知的好奇心を刺激したことを最後に感想として残しておきたい。

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著者プロフィール

ロンドン・ユニバーシティ・カレッジ科学史・科学哲学教授。邦訳されている『ブラックホールを見つけた男』(草思社)、『アインシュタインとピカソ』(TBSブリタニカ)のほか、『アルバート・アインシュタインの特殊相対性理論』『不確定性の64年』『天才のひらめき』など著書多数。

「2015年 『文庫 ブラックホールを見つけた男 上』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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