文庫 オウムからの帰還 (草思社文庫 た 2-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794218810

作品紹介・あらすじ

1995年、出家信者として山梨県上九一色村の教団施設にいた著者は、教団の「科学技術省」に所属していた。
だがあまりに不穏で不合理な状況が続き教団に不信感を抱く。
上層部からは何の説明もないなか、意を決して教団から単身脱出――。
彼はそこで何を体験したのか。身近に見た教祖麻原彰晃の姿とは。恐るべき犯罪に手を染めた教団幹部たちの素の姿とは……。
内部にいたものだから知りえた教団の驚くべき実態を、可能なかぎり客観的な筆致で描写する。
地下鉄サリン事件の翌年に刊行された鮮烈な手記。

感想・レビュー・書評

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  • 大学時代にオウムの出家信者となり、その後脱会した筆者が、当時を振り返り、入信のきっかけや修行生活、数々の事件が引き起こされた当時の教団内部の様子などを克明に綴っている。

    筆者もそうだが、筆者が接した信者や教団幹部も、普通の人が多い印象だった。
    井上死刑囚なども、筆者が今振り返っても人格者として描写されているくらいだから、筆者は今でも、なぜ彼のような好青年が、という思いが強いのではないか。
    よく言われることではあるのだろうけど、普通の若者より死や自己の生きる意味といったものを追求する、いわゆる真面目な性向の持ち主だったというくらいだろうか。
    かといって、彼らでなければいけなかった理由は特に見当たらない。

    教団内部での修行内容や、ワークという日常作業にも触れられているが、かなり想像の斜め上を行っていた。
    (普通に死人が出ていたなど)
    というか、世に言うカルト教団の内部ってのは結構こんな感じなんだろうか。
    普通は筆者のように脱出を考えると思うのだけど、教祖やその教え等に、抗えぬ魅力があったということなのだろうか。

    内部の管理体制も、極めて幼稚で杜撰をきわめており、洗脳もあったとはいえ、彼らのような優秀で熱意もある人達がなぜ、という印象はぬぐえなかった。

  • 1995年3月20日。オウム真理教による地下鉄サリン事件が
    発生した。それ以前から疑惑の集団だったオウム真理教だが、
    この事件がきっかけとなり各地の教団施設に強制捜査が入る
    ことになった。

    事件から約1カ月後。久米宏が司会を務めるオウム特番に
    出演した「元信者」が著者である。この番組の終盤で飛び
    込んで来たのが、村井秀夫刺殺事件だ。

    村井秀夫は著者がオウムから脱出する直前まで、著者の
    ワークを指導していた。

    人を殺すことで人を救済するとしたオウム真理教。その内部で
    はどんなことが行われていたのか。信者として何を感じていた
    のかを綴ったのが本書である。

    一連の事件を振り返るテレビ番組でも取り上げられるように、
    元々はヨガ・サークルだったオウム真理教。著者は在家信者
    として入信した後、一旦、オウムを辞め、2年の時を経て今度は
    出家信者としてオウムの施設で過ごすようになる。

    著者が離れていた2年の間に教団は先鋭化していた。終末思想
    を説き、死と隣り合わせの過酷なイニシエーションが行われる
    ようになっていた。

    オウム真理教の幹部連中と同じように、著者も高学歴である。
    先述した村井秀夫や早川紀代秀、井上嘉浩、豊田亨等の
    麻原側近と親しく、教祖である麻原本人からも言葉を掛けられる
    立場にいながら、側近に取り立てられることはなかった。

    それは再度入信した教団に対し、内部にいながらも「何かおかしい」
    と疑問を抱いていたからかもしれない。

    しかし、「おかしい」と思いながらも「立ち止まって考えることを
    しなかった」。そう、裁判に付された幹部たちも立ち止まって考え、
    オウムを離れていたら違ったところで自分の知識を活かせたの
    かもしれない。

    「文庫版へのあとがき」で、豊田亨の裁判の際に弁護側証人と
    して出廷した著者が裁判長からかけられた言葉が記されている。

    「高橋さん、なぜあなたはサリンを撒かなかったのですか?なぜ、
    あなたにはそのような指示がこなかったのですか?彼は撒き、
    あなたは撒かなかった……その違いはどこにあるのでしょう?」

    そう、もしかしたら法廷に立っていたのは彼だったのかもしれない。
    被告と証人を分けたのは、ほんのわずかな違いだったのかも
    しれない。

  • オウムの内部実態について、最高幹部ではなくヒラの出家信者からの視点で書かれたもの。やたらと自己弁護がうるさいが、内部の日常が細かく記されていて興味深かった。
    読んで感じたのは、教団自体も当時から言われていたように幼稚であったが、その幼稚さはやはり教団を構成する信者たちの幼稚さの集合でしかないということだ。筆者もその一部ではあるが、信徒のうちではまだましだったために、疑問を抱き続けられたということなのだろう。
    いずれにしても、この文章のどこにも反省・謝罪がなく、責任逃れに終始している様は、まさに幼児性の現れであろう。

  • オウム真理教の元信者による手記。
    森達也の書いているオウム関連の本を読んでいる影響かもしれないけど、やっぱりこの本を読んでみても、オウムの信者は”普通の人”である部分が大きい。
    ただ、自分や世の中に対する疑問(もちろん誰しもが抱えているもの)に対する答えを、オウムという宗教団体に求めてしまったという点が、彼らと私たちの人生を大きく隔てるものなんだと思う。

    私自身、地下鉄サリン事件が起こった年にはまだ小学生で、しかも東京とは遠く離れた場所に住んでいたというのもあり、「三億円事件」と同じくらいに”センセーショナルな事件”というような認識が強い。
    オウムの裁判がすべて終わったと報じられたいまだからこそ、読むべき価値のある本だと思った。

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著者プロフィール

高橋 英利(たかはし・ひでとし)
1967年、東京都立川市生まれ。信州大学理学部地質学科、同大学院で測地天文学を専攻。
野辺山天文台、水沢天文台での研究を中断して、94年5月にオウム真理教に出家。
教団の科学技術省で故・村井秀夫の直属の部下となる。
出家直後より教団に疑念をもっていたが、強制捜査を機に自ら上九一色村のサティアンを脱出、教団を脱会した。
教団の非合法活動にはいっさい関わっていない。

「2012年 『文庫 オウムからの帰還』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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