ヒトラーとは何か: 新訳

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  • Amazon.co.jp ・本 (319ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794219480

作品紹介・あらすじ

画家になりそこなった我の強いオーストリア人青年は、いかにして人類史上類を見ない独裁者になったのか?ナチスの興亡を同時代人として体験したジャーナリストが、ヒトラーの野望の軌跡を臨場感あふれる筆致で描いた傑作評伝。独自のヒトラー解釈で話題を呼んだハイネ賞受賞の名著が、新訳でさらに読みやすく。

感想・レビュー・書評

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  • 35年くらい前のベストセラー。新訳になってたので読みやすい。

    ヒトラーがやらかした戦争や虐殺は、当然授業で教えられるし、「やべえ人」ってことは誰でも知っているはず。
    けれど、そこで湧き出る2つの疑問。
    ・そんなやべえ人が、国家のてっぺん取れるとかありえなくね?
    ・やべえやべえ言ってるけど、いいこともしたから15年も政権持てたんじゃないの?
    この答えが知りたかったので、購入してみた。

    要点はざっくり以下の通りだと思う。

    ・ヒトラーは世に出た当初から今際の際まで、一貫した理論(ドイツ民族の世界征服、ユダヤ民族の絶滅)の下に行動していた。
    ・ヒトラーは右翼よりも左翼に近い。共産主義との違いは、国有化の対象が「生産手段」ではなく、「人間」だったこと。
    ・政権を掌握できたのは、倒れるべき運命にあったワイマール共和国にとどめを刺しただけ。
    ・政権掌握後の実績は、経済復興・軍事改革。前者はたまたまだが、後者はヒトラーの才能・見識による。
    ・国家掌握は戦争を行うため。戦争を行うのは世界征服のため。覇権拡大ではないため、終わりがない。
    ・東部戦線の挫折により戦争勝利の見込みがなくなってからは、ユダヤ民族、そしてドイツ民族を抹殺しようとした。
    ・ヒトラーがいなければ、現在の世界はない。

    読み終えて、論をこんなにすぱすぱ進めていいのか、という思いはある。
    が、一面ではあれ善悪両面を認識・理解できたことは収穫だと思うし、そういう本は未だに大して出回っていない。

    「ヒトラーが計算しても、2×2=4なのである」という言葉は、意外に重い。
    「お前に言われんでもわかっとる!」と、一蹴することができるだろうか。

  • 何年も読み切れなかった本書だが、コロナ禍におけるリーダーシップ論として「ヒトラー」論を読んでみると、大国ドイツですら「狂気の途」を歩むリスクがある。
    すべて「トップリーダーの選出」が組織の命運を決める、非常時・危機においてこそ、その意味は大きい。
    ドイツ民族がヒトラーを支持したのは、「経済対策の成功」。
    公共投資の拡大により失業を一掃したこと。
    日本のアベノミクスも同じ ただし幸い狂気はなかった

    ヒトラーに世界観・国家VISIONと戦略、組織統制の力はなかったのか ? 著者ハフナー氏は体系的な想いの存在を受け入れるが、その内容は狂気として退ける。ヒトラーの野心は二つ。
    ①ドイツ民族による世界征服
     ドイツによる全欧州統合の機運はあった 後のEU
     ヒトラーに構想はなかった あったのは己の野心=破壊と征服
    ②ユダヤ民族の抹殺
     ユダヤ人はドイツびいき 科学・文化・経済でリードした
    1941年ロシア侵攻、対米宣戦布告により自ら破綻を招いた
     対独戦争を望んでいたのはルーズベルト
     ドイツ(8千万人)はロシア(2億人)の「インド化」を望んだ 
    以降は残る②に注力し、敗戦までの時間との闘いに専念した
    1945年、最後にはドイツ民族の滅亡を想い、実現を図った
    ドイツは永久にヒトラーの十字架を背負い続ける
    それ故に偉大な政治家を排出することができる
     メルケル首相

  • 人から借りて読んだ。

    ヒトラーをメインに扱った本としては初めて読んだ。

    あんまりわかってないかもだが、戦争の駆け引きなどもっとうまくやってそうなところやけっぱちでやってる感があった。
    火の中に飛び込んでくとゆうか。
    ゼロか百かみたいな感じもした。

  • かなり扱っている深刻極まる内容にしては文体が軽い。今日の研究水準では納得できなかったりそこを飛ばすなよ、という箇所も多い。アウグスト・クビツェクなどヒトラーの友人を無視して「彼には誰もいなかった」など古い記述も散見される。褒められるのは最後の方の、ヒトラーのドイツ人に向けた憎悪への集中考察で「弱い事を証明したドイツ人など滅ぶが良い」とアルデンヌ攻勢やその後の最後の最後まで戦いネロ指令で国土を焦土化する計画を命令した事を一貫して主張している事か。

  • 未読。ヒトラーを様々な観点から知ることができる。本書では、仮定の話(ヒトラーがもし◯◯だったら)に対する主張が目立つが、何を根拠としてるのか具体性に欠けており、疑問を抱くことが多かった。私の知識不足かもしれないが、ヒトラーに関する他の本に切り替える。

  • ヒトラーの思想、特に第二次世界大戦に至った経緯やユダヤ人排斥の根底にあった考えが鋭く分かりやすく分析されていて面白かった。
    ヒトラーは絶対悪だと盲目的に見なすのではなく、その考え行動を正しく認識することが大切だと感じた。

  • アドルフ・ヒトラー。画家になりそこなった我の強いオーストリア人青年は、いかにして誰もが知る独裁者となったのか? ナチスの興亡を体験したジャーナリストが、ヒトラー野望の軌跡を臨場感あふれる筆致で描く。

    第1章 遍歴
    第2章 実績
    第3章 成功
    第4章 誤謬
    第5章 失敗
    第6章 犯罪
    第7章 背信

  • ドイツに旅行に行くので、ドイツ人の歴史からは外せないと思い読んでみる。

    ここに書かれていること全てを事実として捉えてしまうのは危ないけれど、考察されている内容は妥当だと思うし、これがベストセラーになったとのことだから、ドイツ人の中にもこの本の内容で概ね理解してるんじゃないかなあと。

    そして単純に読み物としてすごく面白くて、次が気になってぐいぐい読んだ。

  • ナチス政権下を生きたドイツ人ジャーナリストによるヒトラー評伝。
    原著は1978年の出版だが、全く色あせない。
    本書の強みは、
    ジャーナリストならではの明快かつ大胆な論調と興味をそそる文章、
    そして何と言っても著者自身がヒトラー治世を生で経験していることだろう。

    「ヒトラーをファシストと呼ぶのは誤り」
    「ヒトラーは戦中に政治家であることをやめた」
    「ヒトラーは軍事の素人ではなかった」
    「ヒトラーは晩年には、ヨーロッパ征服を成し遂げられなかったドイツ民族を、自らの手で滅ぼそうとした」
    ・・・などなど、なかなかに刺激的な主張が繰り広げられるが、それぞれの主張にしっかりと著者なりの根拠を持ち、論理を練り上げているために、納得度は非常に高い。
    また、例えばヒトラーの「世界観」に関する解説(第4章)は、ただ分かりやすいだけでなく、今となっては歴史学者でも同様の内容を説いている箇所も多いことからも、著者のヒトラーを分析する目はかなり鋭かったと言える。

    一方で、ヒトラーのことを「ドイツの伝統とはなんの縁もない」突然変異的人物と断定している点については、「自分はナチスの所業とは無関係」と思いたいドイツ人の心性がモロに出てしまっているのかな、という危うさもある。
    この点は、同時代の歴史学者・村瀬興雄氏の『ナチズム』(中公新書)が全く逆の主張(ナチズムはドイツ保守主義の伝統上にある)をしているので、読み比べるのも興味深い。

    本書は歴史学者では許されないような大胆な推測も入り交じりはするが、全体に筋は通っているし、あくまでジャーナリストの一見解であるとの前提を忘れずに読むのであれば、大変示唆に富んだ見方を我が物にできる好著。
    ヒトラーに興味があるなら一読して損はないと思う。

  • ヒットラーに対する評価・批判、様々な本を読んだりドキュメンタリー番組を見たりしてきたが、まとまった評伝として読んでいなかった。

    印象に残るところも多かった。

    戦争が国家の仕組みに組み込まれている以上、これを廃止する唯一の方法は、国家を超越した世界国家しかないだろう。そして世界国家を作るには、世界征服戦争をやって収める以外に方法はない。これは世界の歴史を見れば明らかである。

    ヒットラーの犯罪リスト、1社会的弱者の根絶 2
    ジプシー根絶 3ポーランド指導層、教養層の根絶 4ロシアでの捕虜虐殺と大量殺戮 5ユダヤ人大量虐殺

    ヒットラーの大量虐殺は生き残った人々に国家建設を可能にした。ヒットラーがいなければ、イスラエルは生まれなかった。

    集団催眠の能力があった。大衆を等質の塊に変えてしまうことができた。

  • 第一人者による評伝。まずこれを読んで他のヒトラー本に向かうべし。

  • みんなの党の山内康一代議士の、昨年の一冊。 30歳にして無職のジプシーだったヒトラーが、なぜ台頭したのか。
    当時敗戦国だったドイツの経済を良くして、軍を強くして、卓越した演説能力で国民を催眠術にかけ、わずか6年の間に独裁者にのし上がり、次の6年で最悪の結末を迎えるわけですが、山内氏によると、『今の日本を見るためにも必読の書』だそうです。 

  • 旧訳は未読。
    ヒトラーの遍歴から始まり、彼の世界観や価値観をひも解いていく本です。

    ヒトラーの略歴はともかく、彼のしてきたことを詳しく知っているわけではないので、興味深い点も多いけれど、知識不足から読み取り切れなかった部分も多いと思う。
    また、本書ではたびたびこれまでの本では書かれていなかったと思われる解釈(?)が書いてあるようなのですが、
    ヒトラーに関する論文を読んだことがないので、この本の持つ本当の価値を分かりきれていないのだろうと思う。

  • ヒトラーには友人はいなかった。本来の友達づきあいは拒み続けた。
    ユダヤとの戦いは生存圏をめぐる戦いではなかった。文字通り生きるか死にかの戦い、殲滅戦であり、ユダヤ人は全世界の敵だった。
    ユダヤとインターナショナルという言葉は同義語だった。ヒトラーに言わせればインターナショナルなものはすべてユダヤ的ということになる。
    ヒトラーにとって非常事態が正常な状態だった。すなわち平和は非常事態だった。

  • 待望の新訳登場。その結果、日本語で読むヒトラーの本として、これが「一冊目」に該当することとなりました。すぐれた立脚点として、これからもその価値を減ずることのない名著です。

  •  ヒトラーとは何だったのか。大戦当時からのドイツを代表するジャーナリストが彼の行動からその政治信条を読み解いていく。

     これは衝撃的な本である。
     ヒトラーは早い段階で、ヨーロッパを軍事的に制圧すること、ユダヤ人を根絶やしにすることの二つを決めた。これはヒトラーが国家(民族)は拡大のみを目指すのが当然であるという思考からだと言う。ユダヤ人は国家という形でなく統一を目指す全国家の敵だと彼は考えた。
     さらにそれらの目標を自分一代で成し遂げることまで決めてしまった。後継者も国家体制づくりも彼には関係ない。自国の敗北が決まった時は、いかに負けるかではなく、なるべく敗北を遅らせて、ユダヤ人と不甲斐ないドイツ国民を道連れにすることさえした。
     ヒトラーは一貫してこういった政治信条のみを持っていた。ドイツでの権力掌握からフランス制圧まではたまたま相手が自滅する状況であっただけで、一切の建設的な思考はなかった。
     もちろんハフナーの言うことが全て正しいとは限らないだろう。ただ、この本の持つ圧倒的な説得力が、なるほど!と強く唸らせる。

     私達はたまたま政策がうまくいっただけでその政治家を評価してしまったりしていないだろうか。政治家は信条でも評価しなければならない。
     ヒトラーや第二次世界大戦からまだまだ学ぶことは多い。

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著者プロフィール

セバスチャン・ハフナー(Sebastian Haffner)
1907年生まれ。ドイツの著述家、ジャーナリスト。ナチス政権下の1938年にイギリスに亡命し、「オブザーヴァー」紙で活躍。第2次大戦後、ドイツに戻り、政治コラムニストとして「ヴェルト」紙、「シュテルン」誌などを拠点に活動。著書に『ヒトラーとは何か』(草思社)、『ドイツ帝国の興亡』『裏切られたドイツ革命』(ともに平凡社)、『ナチスとのわが闘争』(東洋書林)などがある。1999年没。

「2020年 『文庫 ドイツ現代史の正しい見方』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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