ソーシャル物理学:「良いアイデアはいかに広がるか」の新しい科学

制作 : 矢野 和男 
  • 草思社
3.80
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  • Amazon.co.jp ・本 (344ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794221551

作品紹介・あらすじ

人々の生活を、スマホやウエアラブルセンサを使って記録、それを解析し、集団の生産性や創造的成果、意思決定などを大きく改善・向上させる新手法「社会物理学」。その応用範囲は都市の犯罪率の低減、エネルギー利用の効率化、感染症蔓延の阻止、災害復旧、市民の健康向上にまで広がる。ビジネスから都市計画、社会制度設計にまで影響を及ぼす、新しい科学の誕生。

感想・レビュー・書評

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  • コンピュータやネットワークの発達による「つながりすぎた世界」において、「他人との交流」が組織や社会の発展をもたらすメカニズムを科学的に説明した「社会物理学」の解説書。

    様々な技術やデバイスを用いて個人の行動データを幅広く収集・分析した結果、個人が集団の外で新たなアイディアを得る「探究」と、集団内でそのアイディアを浸透させる「エンゲージメント」を通じて「集団的知性」が発達し、生産性等の向上に繋がることが説明でき、この考え方を応用すれば、企業や都市といった単位でイノベーションが可能となるが、そのためには著者が「データのニューディール」と呼ぶ、個人のプライバシーや所有権を確保しながら個人情報を活用する新たな仕組みが必要になるという。

    本書を読むと、「飲みにケーション」とか「タバコ部屋での雑談」にも、実は科学的な効用があるように思えてくる。人は誰しも無意識に他人の影響を受けて生きており、相互に影響を与え合う関係こそが、組織や社会を強くする。「アイディアの流れ」「信頼」「多様性」「レジリエンス」といった定性的な世界を、ビッグデータの技術を駆使して定量的に説明する社会物理学が、学問的な面白さと実用性を兼ね備えた興味深い分野であることが理解できる。

  • タイトルからソーシャルグラフ方面を連想してましたが、本文では社会物理学という言葉で統一されていて、人間の動きをバッチ型のウェアラブルセンサーやスマートフォンで捕らえて分析してその相関関係を探り、未来に向けてどのように活用していくかといったことが書かれており、解説を書いている矢野和男氏の著書「データの見えざる手」と基本的には同じ路線です。こちらは都市や社会といったスケールの大きな点にその構想を広げているところがとても面白く、IOTやAIが都市や社会とどのように関わっていけば良いのかを考える良いヒントになりました。ちなみに、とても自然でこなれた翻訳がとても読みやすかったです。

  • ビッグデータと社会物理学の今。
    データ駆動社会のわかりやすい実験例。
    レッドバルーンの話は有名だが元ネタが読めた。
    エンゲージメントと探求を組織の習慣から可視化することができる時代。
    その実験例だけでなくさまざまな本や事例で語られているとおりで
    カリスマ的仲介者となるルーターたハブ的人材が社会的圧力によって輝きを増すことがよくわかる。
    可視化すれば弱い習慣(アイデアの流れの対流)を見つけることが簡単で
    生産性も変化することの説明にもなり興奮した。


    結局、組織内ウロウロおじさんが実はコミュニティ形成に一番大事というのがよくわかる。
    今はそれを意図的に仕掛けることが可能なのが大きな変化と言える。

  • 学びの多い本だった。ソーシャルインセンティブを活用することで、個人への経済インセンティブよりも人の行動を変容できるというのは、言われてみればそうだが目からうろこ感があった。また、集団としての知性は、メンバーひとりひとりの能力よりも、集団内の交流の多さ・多様性で決まるという話も驚き。

  • 社会物理学の紹介本であり、アカデミックなデータ分析。矢野和男氏の「データの見えざる手」と高い世界観。
    最近だとバラバシ・アルバートがやっていた研究も近しい。

    著者は、社会に起こる様々な現象をソーシャルネットワークと進化のダイナミクスにより紐解く。
    ・ソーシャルネットワークの中をアイデアがどのように流れていくのか
    ・社会規範がどのように生まれるのか
    ・複雑性はどのようなプロセスから生まれるのか


    ■多くの人が抱く誤解
    「最良のアイデアを持っているのは最も賢い人だ」と思うかもしれないが、実際はそう単純ではない。最良のアイデアを持っているのは、他人のアイデアを最もよく取り入れることのできる人なのである。


    ■社会物理学とは何か。
    社会物理学とは、情報やアイデアの流れと人々の行動の間にある、たしかな数理的関係性を記述する定量的な社会学である。アイデアが社会的学習を通じて人々の間をどのように伝わっていくのか、またその伝播が最終的に企業・都市・社会の規範や生産性、創造的成果をどうやって決定付けるのか、を解釈できるようにする。


    ■ハーディング現象
    トレーダーたちのSNSを解析したところ、ある事実が発覚した。それは、ソーシャルネットワーク内において社会的影響力は非常に強いということ。メッセージに反応して互いの行動に過剰反応して、結果的に株の売買で全員が同じ戦略をとりやすくなる。
    →社会物理学的な解決策は、新しい戦略の普及が遅くなるようソーシャルネットワークを変化させること

    ■ 重要な2つの概念
    ・アイデアの流れ、いかにアイデアがソーシャルネットワークを伝わるか。アイデアの流れの過程は「探求」と「エンゲージメント」に分けられる。
    ・社会的学習、新しいアイデアが習慣となる過程で生じるもので、学習が社会的圧力によって加速したり形作られたりすること

    ■ 社会物理学では、人間の内側にある認知の過程までは追わない。本質的に確率的であり、人間の思考がいかに形成されるかを検討外とすることで生まれる不確実性を持つ。

  • ジャケ買い、ならぬタイトル買いで。ただ、「ソーシャルな物理学」だと思いきや「ソーシャルを物理学」する本でした。すぐ誤解に気づきましたが、止められない止まらない状態で最後まで。10年以上前に読んだ『「みんなの意見」は意外に正しい』が、ここまで来たか、と思いました。それは「集合知」というテーマから「集合知イノベーション」というテーマへのアップグレードです。それを支えるのがテクノロジーの進化で、非常に実務的な本であると感じました。「アイデアの流れ」「エンゲージメント」という土台の考え方から「アイデアマシン」としての組織について、それが「データ駆動型都市」を生み出し「データ駆動型社会」に至るという章立ても論文のようにシンプルです。コネクトカー、コンパクトシティ、医療データなどなど今、企業は街作りについての社会実験に多大な投資を始めていますが、そのムーブメントのベクトルの理論的支柱が本書であるような気がします。間違えて買って、よかったぁ…

  • ソーシャルネットワーク下での人の行動を,数学的モデルで説明したら,うまくいった.
    経済的インセンティブとは異なるソーシャルネットワークインセンティブを与えることで集団へのチューニングも可能で特定の行動などを促すこともできるようになりました.という本.
    また,「つながりすぎた社会」とも言える現代の特徴や危険性も.

    ・人の行動は集団から受ける影響の避けられない.
    →情報被曝量マックスの現代では,接する情報源を積極的に取捨選択する能力が求められるだろう.SNSで誰をフォローするかとか

    ・ベル・スター研究.「スター」(花形)の研究者がやっていたことは「他の研究者にもビジョンや行動計画などを自覚させること」→組織で他者を動かそうと試みる時に使えそう.
    ・レッドバルーンコンテスト

    ・集団的知性の高さは,よく言われるかつ想像しやすい「団結力,モチベーション,満足度」ではなく「会話の参加者が平等に参加しているかどうか」→これもすぐに使えそう.


    一般的なビジネス本と同じノリだとなかなか頭に入って来ず,理解しながら読み進めないと身につかない.じっくり読みなおさねば

    https://www.sense-network.co.uk/

  • これからのリーダーが読むべき優れた組織論。「仕事において生産性を上げ、成功するためにはどうすれば良いのかという重要な情報は、コーヒーコーナーや休憩室で見つかる可能性が高い」

  • 「アイデア」を「ミーム」と読み換えると理解が広がるか。ミーム工学。

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著者プロフィール

アレックス・ペントランド( Alex Pentland)
マサチューセッツ工科大学(MIT)教授。MITメディアラボ創設から関わり、現在はMITコネクションサイエンス・ラボとヒューマンダイナミクス・ラボの所長を務める。ビッグデータ研究の世界的第一人者で、フォーブス誌が選ぶ「世界で最も有力な7人のデータサイエンティスト」にも選ばれた。また、10社以上のビッグデータ関連の会社を創立した起業家でもある。世界経済フォーラムでは、ビッグデータと個人データ保護に関するイニシアチブをとった。邦訳されている著書に『正直シグナル—非言語コミュニティの科学』(みすず書房)がある。

「2018年 『文庫 ソーシャル物理学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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