若い読者のための第三のチンパンジー: 人間という動物の進化と未来

制作 : レベッカ・ステフォフ 
  • 草思社
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  • Amazon.co.jp ・本 (350ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794221759

作品紹介・あらすじ

チンパンジー(コモンチンパンジー)、ボノボ(ピグミーチンパンジー)と人間の遺伝子はじつに「98.4%」が同じ。人間は「第三のチンパンジー」。たっ「1.6%」の差異が、なぜここまで大きな違いを産み出したか? 分子生理学、進化生物学、生物地理学等の幅広い知見と視点から、壮大なスケールで「人間とは何か」を問い続けるダイアモンド教授の記念すべき第一作が、より最新の情報をふまえ、読みやすくなって登場!

感想・レビュー・書評

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  • 書店で平積みにされていたのと、タイトルになんとなく興味をそそられ購入した。興味はそそられたものの、このタイトルにはいくつかのクエスチョンがあった。そもそも「第三のチンパンジー」とはなんぞや?とか、どうして「若い読者のための」と前置きがあるのか?とか。とても好奇心がそそられるタイトルだ。

    そして、その読者の好奇心に膨大な研究の裏付けをもって答えてくれるだけでなく、読者に啓発すら与えてくれる良書であったと思う。

    そもそも、著者はこの研究に何十年もの歳月を費やし、ほぼ生涯をかけて本書を著しているようにも思える。そのような労苦の結晶を、数百円のお小遣いと数日間の読書で学ぶことができるなんて、読者というのは本当にありがたいと思う。

    著者の肩書には、カリフォルニア大ロス校教授のほかに、進化生物学者、生理学者、生物地理学者とある。「人間という動物の進化と未来」という副題があるとおり、本書は進化生物学を基軸として著されたものと思うが、巻末で翻訳者(秋元勝氏)が語っているように、鳥類学や人類生態学、古環境学、古病理学、言語学などの関係から有機的に分析がされていて、しかも素人にも分かりやすく説明してくれているように思う。

    本書は、著者の「人間はどこまでチンパンジーか?人類進化の栄光と翳り」の出版(1993年)以降の研究成果がアップデートされたものであり、しかも写真などを大幅に増やし、最新の研究成果に基づいて、より読者の理解を促進しようとした工夫がされているように思う。

    その読者の理解の促進という意図が、この「若い読者のための」という言葉に表れていると思う。

    哺乳類の中に、霊長類という分類があり、霊長類の分類の中には、サル、類人猿、ヒトという分類がある、、、ということすら正確に意識したことがなかった。

    ゴリラ、チンパンジー、オランウータン、テナガザルが、「サル」とは異なる「類人猿」という分類となるという、おそらく進化生物学の中では基本中の基本すらはっきりと知らなかった。そもそも霊長類の中では、ヒトとそれ以外という理解でいたというのが正直のところだ。

    しかし、チンパンジー(コモンチンパンジー、ボノボチンパンジー)とヒトの遺伝子を比較してみると98.4%が同じで、違いはたったの1.6%であり、分類的にはむしろヒトとチンパンジーを別の分類とするには違和感があるという問題提起からスタートする。つまりは、ヒトは第三のチンパンジーだということだ。

    では、たった1.6%の差異がどうして、どうしてこのような大きな違いを生み出したのか?そのことを順をおってジャレド・ダイヤモンド教授が語ってくれるのだ。

    昔、世界史の教科書の冒頭のほうで学んだ、「言葉を使う」「直立歩行」「道具を使う」「火を使う」、そのようなことを単発で説明しているのではない。むしろ、こういう低レベルの教育しか行われていなかったことを嘆く声すらある。

    地質などを調べていつの時代にどのようなことが起こったのかを分析していく過程、環境から生物が進化していく様子、生物が絶滅する理由、などなど教授の話すどの切り口もどの分析過程もとても興味深く読める。

    例えば人類が「農業」というものを見つけたことは、人類の光であるとしか思っていなかった。本書では、光の部分と陰の部分について語られている。

    ヒトを生物の一つとして客観的に見たとき、そして大きなスケールで生物の進化や人類が行ってきたことを振り返ってみ見たとき、現在の人類の存在が、絶滅と背中合わせであることに気付かされる。

    ヒトが道具を使えるようになったということにも光と影がある。その影が膨張しつつあり一触触発の状況下にあることが、大きなスケールで過去の歴史を振り返った時、客観的に理解できる。

    ヒトの最も特徴的な差異であるジェノサイドを引き起こす特性について詳しく述べられている。このことも、大きなスケールで、過去に繰り返された数々のジェノサイドを知ることにより、現在の我々もそのスケールの中に存在するのだという危機意識みたいなものを感じざるを得ない。

    本書が「若い読者のための」とタイトルされている重要な理由が書かれていると思う。その理解によって、人類は背中合わせの危機から脱出する力ももっているという啓発が込められている。

  • 以前読んだ「サピエンス全史」と被る部分があり、理解がしやすかった。そういえば一年位前に、この著者の「人間の性はなぜ奇妙に進化したのか」を読んで、1/3もいかずに同じことの繰り返しで飽きて読むのを諦めたが、この本は、飽きることなく読み進めることができた。
    人間とはどういう生き物か?というテーマに、進化や生物地理学といった切り口で、わかりやすく説いてくれる。
    その内容はショッキングではあるが、納得性が高く、とてもスジが通っているように思える。
    南北アメリカのマンモスなどの大形哺乳類は、ネイティブアメリカンの祖先が、陸地だったベーリング海を渡ってから、1,000年でほぼ全ての種が全滅した。
    イースター島はモアイを運ぶために森林伐採をして、森が枯渇し、人が飢え、そして誰もいなくなった。
    などなど、人間は、現代人だけでなく、素朴で自然に寄り添って生きてきたと思われていた未開人も、意図してかしないかは別として、実は多くの生物、植物を絶滅に追いやってきたという事実が何個も提示される。
    また、人間は遺伝子の中に、大量虐殺、つまりジェノサイドを行うようインプットされている生物であるという事実は、あらためて示されると衝撃的ではある。
    集団で生きる人間は、「我ら」と「彼ら」という対比を生み出し、「彼ら」を「我ら」より生き物として劣る存在として、または異なる人種や宗教、信条を持つ「彼ら」に対して大量虐殺を行ってきた。
    その事実を提示されて、未来に向けてどうすべきかについて、若者向けに書いたとあるだけに、とても楽観的で前向きだ。
    しかし、進化の過程として見れば、我ら人類は確実に絶滅に向かって、自ら突っ走っている、地球が産み落とした鬼子なのだという、よく考えてみれば当たり前の結論が残ると思う。

  • ジャレド•ダイアモンドの本であることは間違いないのだけど、別の人『レベッカ•ステフォフさん)の編著なので、既刊本の総集編的な部分が結構ある。が、面白く読めた。モト本の「人間はどこまでチンパンジーか?」が未読だったからだろう。
    以下の箇所が一番印象に残った。

    P223
    言語が少なければ世界中の人びとが意思を交わしやすくなるので、消滅はむしろいいことなのではないのかとも考えられる。そうかもしれないが、ほかの面ではまったく望ましくはないのだ。言語はそれぞれ構造や語彙が異なっている。感情や因果関係や個人的な責任をどう表現するかという点でも異なる。人間の思考をどう形づくるのかという点でも言語によって異なる。だから、この言語こそ最善だというひとつの言語は存在しない。そのかわり、目的が異なればもっとそれにふさわしい言語が存在している。言語が死に絶えてしまうとは、かつてその言語を話していた人たちが抱いていた独自の世界観を知る手段さえ失ってしまうことになるのだ。

  • 人間とは何か?と言う問いを哲学ではなく地球という生態学の中で深く掘り起こしたもの.「若い読者のための」とタイトルのトップについているが,まさしくこれからの地球人にこそ考えて欲しいことだと言うジャレドの想いが伝わる.
    「一筋縄では解決しようのない,生態系の問題解決に失敗」した先人たちにどう学ぶのか,隣人たちとどう共生して行くのか,未来はそこにかかっている.たくさんの人に読んで欲しい本だ.

  • 1991年(邦訳は1993年)に出版された『人間はどこまでチンパンジーか?』 という著作の内容を現在の知見に沿ってアップデートするとともに、若者にターゲットを絞って書き換えたものだという。元の本を読んでいないので、どこを変えたのかわからないが(※)、その後に出版され、著者ジャレッド・ダイアモンドの名声を高めた『銃・病原菌・鉄』『文明崩壊』『昨日までの世界』の各書で扱われた主要なテーマがこの本の中ですでに扱われている。その内容は逆にそれらの本から本書の再出版にあたっての編集においてフィードバックされたものである可能性はあるのだが。

    具体的には、『銃・病原菌・鉄』で主に論じられた、特定の地域で文明が発祥し広がった理由は、その地域に住む人の遺伝的特性ではなく、地理的特性や動植物の違いによるという説について第12章「思いがけずに征服者になった人たち」にそのエッセンスが簡単にまとめて書かれている。『昨日までの世界』の内容は、第11章「最後のファーストコンタクト」に書かれた内容と一部が重なっているし、『文明崩壊』で書かれた印象的なイースター島の悲劇が環境破壊の末の滅亡の記録として第14章「黄金時代の幻想」に書かれている。

    ちなみに、第三のチンパンジーとは、コモンチンパンジーとボノボに次ぐ第三のチンパンジーであるという意味だ。遺伝子レベルの差異でいうと彼らと現生人類とはわずか1.6%しか違っていない。著者は、彼らと我々現生人類との間で違いの主因となっているのは「言葉」であるとしている。思いのほか売れているユヴァル・ノア・ハラリの『サピエンス全史』においても、決定的な違いは言語能力、つまり抽象的なことを伝えることを可能とする能力、であるとされており、その他多くの識者がその認識を共有するところである。そして、それが生物学的には脳の思考能力というよりも、声道に起きたいくつかの変異が原因であるかもしれないとしているのも定説になりつつある。
    『サピエンス全史』やダニエル・E・リーバーマンの『人体600万年史』など最近読んだ他の著者の本とを合わせて読むと、人類史における言語の影響だけでなく、農業や疫病、都市化、芸術、環境に与えた人間の影響、などについて一般的な評価が定まってきているように思える。それらの科学的議論一般の理解において、先鞭を付けたという観点でもジャレッド・ダイアモンドが果たした役割は大きいといえるだろう。

    本書は、「若い読者のための」と銘打ってあるからだろうか、最後において人類にかかる二つの暗雲として、人類が持つジェノサイドの歴史と地球規模の環境破壊について解説している。少し説教臭いのだが、将来のために考えてほしいというメッセージなのだと思う。

    同じ著者の『銃・病原菌・鉄』『文明崩壊』『昨日までの世界』を読むのであれば、そちらの方がきちんとまとまっているので、この本を読む必要はないだろう。逆にいうと、論理が甘かったり、事例が少なかったりしているが、ジャレッド・ダイヤモンドの思想について手軽に知るには若い読者によらずよい本かと。


    ※ 『人間はどこまでチンパンジーか?』はAmazonで見ると590ページ。本書は350ページと書かれているので、結構手を入れてわかりやすく短く編集しているのかもしれない。近年の研究の結果として、修正・削除をしたいところもきっとあったのかと。もちろん間違えたまま版を重ねるよりもずっとよいのだけれど。

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    『文明崩壊 滅亡と存続の命運を分けるもの(上・下)』のレビュー
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4794214642
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4794214650
    『昨日までの世界―文明の源流と人類の未来(上・下)』のレビュー
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4532168600
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4532168619
    『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福(上・下)』のレビュー
    https://booklog.jp/edit/1/430922671X
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4309226728
    『人体600万年史:科学が明かす進化・健康・疾病(上・下)』のレビュー
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4152095652
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4152095660

  • DNA解析の進展により、人類に最も近い生物種はチンパンジーであり、その差異はわずか1.6%であることがわかっている。進化の過程で何が起きたか、要因になったできごととは何か、ヒトの生物学的特質と知能化などの各論で、多面的な分析を駆使しつつ、生物としての優劣ではない視点を導入した展開は斬新。幅広い学問領域の融合と開拓が示唆されている。

  • 植物は、自家受粉種の方が栽培化に時間がかからず、野生種と交配しにくいため選別した純系を保ちやすい。

    アメリカ南西部のプエブロと呼ばれる多層階の住居は、アナサジの人々によって900年頃に建設が始まった。当時はマツやネズの森に囲まれ、建設資材や薪として使われた。伐採が進むと荒涼とした環境に変わり、表土の浸食によって用水路が削られ、灌漑ができなくなったため、12世紀に放棄された。

    ヨルダンのペトラは、交易の中心として数百年にわたって栄えたが、かつて森林の中にあり、ヤギも飼育されていた。

    最初に北米に進出したクローヴィス人の矢じりは、1万1000年前頃に小さく精巧につくられたフォルサムの矢じりに変わった。この矢じりはバイソンの骨とともに見つかるが、マンモスと同時に発掘されたことはないことから、その頃には大型の哺乳類が絶滅したと考えられる。

  • 人の性行動と人種の起源、人はなぜ歳をとってしんでいくのかの章が面白かった

  • ジャレド・ダイアモンドの本は前から読みたかったが、この本が初めて。

    「人間はどういう生き物なのか?」という問いに対して、科学的に深い考察がされていて、人間という種に対する理解が深まった。

    タイトルだけ見ると「いかに人間とチンパンジーが似ているか」という意味にもとれるが、98%以上遺伝子を共有しているチンパンジーと人間の違いにもフォーカスされていて面白い。

    文章は専門用語もあって読みづらい部分があり、興味が無い人が読むと結構辛いかもしれない...。

    個人的にとても興味深く読み進めたが、僕も読むのに結構時間がかかった。

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著者プロフィール

1937年生まれ。カリフォルニア大学ロサンゼルス校。専門は進化生物学、生理学、生物地理学。1961年にケンブリッジ大学でPh.D.取得。著書に『銃・病原菌・鉄:一万三〇〇〇年にわたる人類史の謎』でピュリッツァー賞。『文明崩壊:滅亡と存続の命運をわけるもの』(以上、草思社)など著書多数。

「2018年 『歴史は実験できるのか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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