文庫 少年の日の思い出 (草思社文庫)

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制作 : Hermann Hesse  岡田 朝雄 
  • 草思社 (2016年2月2日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (218ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794221834

文庫 少年の日の思い出 (草思社文庫)の感想・レビュー・書評

  • 「少年の日の思い出」と聞けば、微かにストーリーの断片を思い出す人が多いのではないか。
    細かいエピソードでなくとも、友人から大切なクジャクヤママユを盗んでしまうときの暗い高揚感。そして、二度と戻らない失態を犯してしまった絶望感。
    そんな、「ぼく」の感情の原型とも言える諸々に、共感し、忘れられない作品として自分の中にそっと保存しているように思う。

    この一冊を手にとったのは、そのときの思いが、表紙や、一枚捲ったそこにある鮮やかな蝶と蛾から起こされたからである。

    教科書に掲載されている「少年の日の思い出」と、翻訳が違うとエーミールの道化ぶりが増しているように感じる。

    『するとエーミールは、たけり狂ってぼくをどなりつけるかわりに、ヒューと歯笛を吹いて、ぼくをしばらくのあいだじっと見つめ、それからこう言った。「そう、そう、きみって、そういう人なの?」』

    ただ、クジャクヤママユを潰した犯人と対峙したときのエーミールの気持ちも、分からないではないな、と思う。

    他に「ラテン語学校生」「大旋風」「美しきかな青春」が収録されている。
    これらは「少年の日の思い出」に比べ大人になっていて、宝物は女性や自分のキャリアに移り変わろうとしている。
    しかし、どの作品もすごい、と思うのは語りの美しさ。会話がなくても、細部まで世界を表現できるのは、ヘッセ自身が歩んだ時間だからか。
    けれど、在りし日を、こんなにつぶさに構築できることに感動する。

    「その後まもなく、一人前の男になるために、人生を、この数日はじめてその影が私をかすめた人生を乗り切るために、私はこの町を去った。」

    青春時代から離れた今の暗さが、ところどころに見える表現も、好きだ。
    最後に好きな情景を引用。

    「一番上の煙突からは、コーヒーをわかすかすかな青い煙が、あたたかい空中に立ちのぼり、小さな町の上を流れていた。」

  • 学生時代、教科書の隅に「ヘルマン・ヘッセ『車輪の下』」とある字面を目にしたことがあったので、ヘッセの名前だけは知っていました。それを近所の塾の恩師(哲学家で面白い)に鴎外さんが好きだと笑って語ると、この短編集とかどうだ?と渡された本のなかにこれがありました。一番最初です。あまりに現実味があるようなお話で、ドキドキしながら読みました。ヘッセの幼い日の実体験だったりして?なんて。読み始めて直ぐ、〝彼が見せてほしいと言ったので、私は収集のはいっている軽い厚紙の箱を取りにいった。最初の箱をあけて見て初めて、もうすっかり暗くなっているのに気づき、私はランプを取ってマッチをすった。すると、たちまち外の景色は闇に沈んでしまい、窓いっぱいに不透明な青い夜色に閉ざされてしまった。〟この部分の表現が好きだなおもいました。〝外の景色は闇に沈んでしまい〟というところ。〝窓いっぱいに不透明な青い~〟というところも好きです。内容としては、自分も似たようなことを客人と同じように幼稚園の頃行ったことがあるので、なんともいえない苦い気持ちになりました。あー、こういうテーマの短編集か。と、少し苦笑い。続きも読みますけどね。幼い日の〝一度起きたことは、もう償いの出来ないこと〟ということを思い返し、酷くへこみました。うまいですね、ヘッセの書き方がとても。主人公が「私」だと思って居たら、「ぼく」だったんだんですから。で、聞いてくれるかね、ではじまり終わった台詞で物語は終わる。切なく苦い後味を残して。上手いです。非常に。こういう書き方をしてみたいなと思いました。『車輪の下』も読んでみたいと思います。★5つで。

  • この本を最初に呼んだのは小学3,4年生の頃の国語の授業で、とても印象に残っている思いで深い本なので今回紹介しようと思いました。なぜ印象に残ったのかというと、小学校低学年で習う文章は基本的に明るく終われる話が多かったのですが、この本は何とも言えないもどかしい終わり方をしたからだと思います。少年が欲望に耐え切れず蛾の標本盗んでしまう、さらに盗みを犯してしまうほど魅入られていた標本を壊してしまう。そのことを謝罪しても許されるわけでもなく、激怒されるわけでもなく、少年が蝶や蛾を好きであった気持ちそのものを否定されてしまうかのような物言いを受けるという、なんともいえない終わり方でした。当時の感想では、謝っても許してもらえない少年が可哀そうと思っていた記憶がありますが、その後何回か読み直すにつれ、いろいろ違った感想を抱くようにもなりました。当時この文章を読んだことがある記憶がうっすらでもある人や、そうでない人にも是非おススメしたい一冊です。

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文庫 少年の日の思い出 (草思社文庫)の作品紹介

『車輪の下』と同時代の初期短編集。青春の心の動きを類い稀な描写で描いた独自の世界。表題作は蝶の標本を巡る話で昆虫好きの訳者がこれまでの誤訳を詳細に正す。

文庫 少年の日の思い出 (草思社文庫)はこんな本です

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