ディナモ―ナチスに消されたフットボーラー

  • 晶文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794966360

作品紹介・あらすじ

1942年、ドイツ占領下のウクライナ。パン工場で強制労働をさせられていた名門クラブ、ディナモ・キエフの選手とドイツ軍兵士のメンバーとのサッカー対戦が行われた。アーリア人の肉体的、精神的、優位性を信じる、ドイツにとっては、負けるはずのないチーム。ディナモの選手にとっては、勝ったら、命の保障はない。運命の日、ディナモは5‐1と大勝。三日後の再戦でも、5‐3の勝利。その後、選手たちは強制収容所へ。戦後、生きて帰ってきたものは少ない。ソ連のプロパガンダによって、全員が射殺されたと長らく信じられていた伝説の試合の真実を、丹念に検証した、歴史スポーツ・ノンフィクション。

感想・レビュー・書評

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  • ドイツ軍占領下のキエフにおいて、ドイツ空軍チームとウクライナチームによっておこなわれたサッカー対抗試合、所謂「死の試合」について詳細に描かれている。ナチスドイツの占領下で、パン工場で働かされていたウクライナの選手達が再度チームを結成し、ドイツ空軍のサッカーチームとの試合に臨む。サッカー試合の描写、人物の描き方がハラハラ、ドキドキするほど上手く、クライマックスでは、固唾を飲みながら読みすすむことになる。

    虐げられたスラブ魂に民衆共々火がつく小さなスタジアム。試合に勝ったら命の保証はないと脅されて、迎える2度のドイツ軍との試合。小説のような展開に顛末や如何にと読み進めてしまう。
    ウクライナ史、当時のフットボール史(サッカー史)にも詳しく、陰惨な話が中心となるが、冒頭と中間部の豊穣な食卓シーンに生唾を飲んでしまったりもし、ウクライナへの更なる興味を誘発する。

    この「死の試合」の詳細については諸説あるようだが、ウクライナ受難の歴史のエポックメイキングな出来事であり、丹念に描かれた読み物としても優れている。ウクライナの歴史、民族性を知るためにもお薦めの一冊である。


    <ウクライナ関係書籍紹介>
    https://jtaniguchi.com/books-recommended-ukraine/

    <その他の書籍紹介>
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  • 世界大戦最中のディナモ・キエフとそこで戦ったフットボーラーたちの物語。どんな運命が待ち受けようとも、フットボールの意志を貫いた彼らの残酷な物語。

  • 大戦中にウクライナのサッカーチーム、ディナモキエフの選手たちが、空気を読まずドイツ軍サッカーチームとの試合に圧勝し、その後収容所で無惨に命を落とす大変つらいノンフィクションの邦訳書。
    ディナモキエフ(及びスタート)の選手たちがいかに空気をよまなかったかについては、丹念に解説されているため予備知識無しで読み進めることができた。要約すると
    1)ソ連とドイツの間に地理的に位置するウクライナは常に谷間のラーメン屋である。
    2)悲劇がおきたのは第二次世界大戦中、ヒトラー率いるドイツ軍が突然にウクライナ及びソ連に進行したことから始まる。
    3)突如ドイツの管理下におかれたウクライナの人々は厳しい生活を余儀なくされ、尊厳を傷つけられる日々であった。
    4)サッカー選手たちもやっとパン工場で働かせてもらえるというありさま
    5)そんななかドイツ軍サッカーチームとの試合が組まれ、選手はスポーツマンシップにのっとり堂々と勝利してしまう。

    本書はたんなるエンターテイメントにおわらず、その後の選手たちがどのような悲惨な最期をむかえたかを取材などによってあきらかにしているのが素晴らしい。また戦後にソ連関係者が本件を喧伝して「死の試合」と称したことは多分にプロパガンダの意味がつよいなどと、伝説に一歩距離をおいており、筆者のまじめさがうかがえる。
    スターリンとヒトラーの究極の選択を迫られたり、その後チェルノブイリの最大の犠牲者になったり、ウクライナという国は本当に様々な悲劇を背負っている。本書のディナモキエフの物語はその悲劇のごくごく一部分に過ぎないのだろうと想像すると、大変不謹慎ながらも、島国に生まれてよかったと思ってしまう。
    読書のきっかけはFoot Brainという番組で「日本サッカーを強くする本棚」の1冊として推されていたこと。

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