街場の憂国論 (犀の教室)

著者 :
  • 晶文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (356ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794968111

作品紹介・あらすじ

「先生、いったい日本はどうなってしまうんでしょう?」
行き過ぎた市場原理主義、国民を過酷な競争に駆り立てるグローバル化の波、排外的なナショナリストたちの跋扈、改憲派の危険な動き……未曾有の国難に対し、わたしたちはどう処すべきなのか? こうした日本が直面する危機に、誰も言えなかった天下の暴論でお答えします。脱グローバリズム、贈与経済への回帰、連帯の作法から「廃県置藩」論まで、日本の未来を憂うウチダ先生が説く、国を揺るがす危機への備え方。

感想・レビュー・書評

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  • 「とりあえず、みなさんと一緒に、手に小さな石を一つずつもって、手近の「蟻の穴」を塞ぐところから初めてゆこうと思います。
    ご健闘を祈ります。」

    あとがきの最後、私の手にも「蟻の穴」を塞ぐことの出来る小さな石が一つくらいならあるだろうか?と自問した。
    この本に書かれている文章は恐怖心を煽るようなものではく、時にくすりと笑ってしまうほどに冷静で丁寧で、そして優しい。
    心配事はたくさんある。
    内田さんが指摘する歪みが私の中にもあると感じるし、自分のことも周りのことも全く見えてない。
    というよりも見ようとしていないんだな。

    「あきらめ」に浸ってしまっている気がする。
    危機的状況になった時に私に生き残ろうとする気力が果たしてあるのだろうか?と真剣に問いかけてしまう。
    答えは見つからない。
    でも、私も「アンサング・ヒーロー」になれたらいいな、とは思った。
    「蟻の穴」を一つでも塞ぐことが出来れば嬉しいな。
    そんな目標が出来ました。

    • kaze229さん
      ほんと おっしゃるとおり そのとおり
      ♪一人の小さな手
       なにもできないどー
      ピート・シーガーさんのあの歌が
      聞こえてくるようで...
      ほんと おっしゃるとおり そのとおり
      ♪一人の小さな手
       なにもできないどー
      ピート・シーガーさんのあの歌が
      聞こえてくるようです

      2014/04/15
    • takanatsuさん
      kaze229さん、コメントありがとうございます。
      「♪一人の小さな手
       なにもできないどー」
      あぁ…本当ですね。
      自分の無力さを痛...
      kaze229さん、コメントありがとうございます。
      「♪一人の小さな手
       なにもできないどー」
      あぁ…本当ですね。
      自分の無力さを痛感する毎日です。
      でも、本当にちょっとした行い(小さな蟻の穴を塞ぐこと)が大切なんだよ。と書かれていて、本当に勇気づけられました。
      2014/04/16
  • 吉田兼好さんって人は
    きっと こんな風に 世の中を
    見たり 聞いたり 感じたり 考えたり
    していたのだろうなぁ
    と (内田樹さんの本を読むたびに、前々から思っていたいたことですが)
    今回 更に 強く思いました。

    ここに取り上げられた「お題」は
    どれもこれも「今」のことであり
    「これまで」のことが「今」に
    つながり、「今」のことが「これから」
    をつくっていくのだなぁ
    を 無理なく語られているのもさすがだなぁ
    と 思いました。

    すてきな「考える」時間を共有できました。

  • 攻撃的な論旨を平易なロジックとキャッチーな喩えで投げかけてくるウチダ節はますます脂がのってます。
    今回のファーストヒットは「政策決定プロセスがスピーディーで一枚岩であることは、それが正しい解を導くことと論理的につながりがない」ということを『朝三暮四』で説明しているあたり。「この政権転覆させちゃる」と勇躍投票所に向かったかつての自分は、「サル飼いのおっさんの提案に即答するサル」であったということに気づかされ、忸怩たる思いとともに膝を打ったのでありました。
    以降も目から鱗なお話のつるべ打ち。リテラシー論はしょんぼりしながら読みました(笑)。

  • 「国民国家は国民全員が愉快に暮らしていくことを継続していくことのみを目的とする」という一行の信念の元、あらゆる論旨が展開される。全くブレがない。ゆえにTTPには反対、護憲という立場を貫く。この一点において蒙が啓く。賛同するかしないかは別で、真摯に伝えることを心得る筆者の文章は他の評論家には出来ない芸当だ。

  • 久々発見、内田さんの本。
    ちょっと大きめの本屋さんでじっくり本棚漁る時間は至高ですが、収穫があるとなおよしですね。

    「憂国論」というタイトルそのままに、現代日本の様々な問題を独特の視点から掘り下げて意見を述べている本です。
    特に強い口調で何度も述べられているのが以下の3点。

    ・国家のことを考える際にグローバリストの言うことを信じてはならない
    ・市場開放・自由主義を行政に適用するべきではない
    ・国の役目は、国民全員をいかに食わしていくか、である(下村 治著『日本は悪くない 悪いのはアメリカだ』参考)

    ざっくりといえば、フランスの特徴的な思想のひとつである「自然権」の影響を大きく受けた(と私は感じる)考え方+福祉国家(国民国家)思想がその根幹にあります。
    他にも日米関係の特殊性や贈与経済への転換への展望などが書かれています。

    著者自身も述べていますが、書籍に書かれた内容は決して一般的な意見ではないでしょう。
    しかし逆に言えば、タイムリーで今風でないのに、こうして人が「なるほど」と思える文章を書くことができるということは、読者の視野を広げ、新しい考え方や行動のきっかけとなる可能性を秘めているのではないでしょうか。
    個人的には、行政への自由主義的思想の介入度合がここ数年顕著である点は同感ですが、グローバル企業の意見に傾聴するか否かについては自分の知識が浅いゆえに一概に信じられないとも言えません。
    また、天からの授かり物である先天的な資源(etc. 身体的特徴、才能)は他の誰かと分けあい、共有すべき、との意見について、後天的な資源(etc. 知識、能力)はどう考えていらっしゃるのか気になりました。

    「この本で述べられていることはすばらしい!著者の言うとおりだ!」
    というレビューばかりの本よりも、
    「著者はこんな風に言っているけど他にはどんな意見があるんだろう or わたしは〇〇についてはこうだと思うなぁ」
    といった「その先」につながる感想が持てる本が見つかるとうれしいですね。
    こういった、手にとってよかったなぁ、と思える本に出会えるのはしあわせなことです。

  • 著者内田樹氏の日本憂国論。
    2013年現在日本で起こっている様々な社会問題に対して著者独自の視点から考察が加えられている。
    「他人のあまり言わないこと」を書き綴ったと著者が豪語するように、大手メディアから発信される情報とは大きく異なる知見に出会浮ことが出来た。

  • 面白い。著者のブログから『政治ネタ』を拾って
    本にした内容なのですが。
    行き過ぎた市場主義。グローバル化。贈与経済。廃県置藩
    橋下・維新の会批判。教育行政批判等々。
    いいようによっては屁理屈とそん色がないほどの論理と
    本質によるキレッキレの批判論評。憂国からくる提案もそれも秀逸。
    アンサングヒーローを目指し。『自己利益よりも公共的な利益を優先させることの必要性を理解できる程度に知的であること』を目指したいと思う内容です。私よりも若い人たちに読んでほしい内容です。秀逸です。

  • 本書で著者が何度も言及している、政治の責務は「国民全員を食わせること」であるという国民経済という考え方はシンプルでわかりやすい。これは今の政治に置き去りにされている考え方だ。

    (以下引用)
    議会制民主主義というのは、さまざまな政党政治勢力がそれぞれ異なる主義主張を訴え合い、それをすりあわせて「落としどころ」に収めるという調整システムのことである。「落としどころ」というのは、言い換えると、全員が同じように不満であるソリューション(結論)のことである。誰も満足しない解を得るためにながながと議論する政体、それが民主制である、(P.48)

    行政官に対しては「税金を無駄使いしている」という批判はありうるが、「稼ぎが悪い」という批判はありえない。(中略)管理部門は価値あるものを創りだすプロセスを支援するのが仕事であって、自分たちではなにも価値あるものを創りださない。行政とはそのような管理部門である。そして、そういうものでよろしいいのである。(P.73)

    ひとわたり欲しいものは手に入ったら、購買力が落ち、経済成長は鈍化する。欲望が身体を基準にしている限り、欲しい物には限界があるからである。1日に三食以上食べるのはむずかしい(してもいいが体を壊す)。洋服だって一着しか着られない。(中略)かように身体が欲望の基本であるときには、「身体という限界」がある。ある程度以上の商品を「享受する」ことを身体が許してくれない。そのとき経済成長が鈍化する。(P.111)

    今の日本における若年層の雇用環境の悪化は「多くの人に就業機会を与えるために、生産性は低いが人手を多く要する産業分野が国民経済的には存在しなければならない」という常識が統治者からも、経営者からも失われたからではないのか。(P.122)

    外交についての経験則のひとつは「ステークホルダーの数が多ければ多いほど、問題解決も破局もいずれも実現する確立が減る」ということである。(P.165)

    ロビンソン・クルーソー的単独者は、無人島でそれほど厳密な手続きで、それほど精密な実験を行っても、科学的心理に到達することはできない。それは彼が実験によって到達した命題が科学的に間違っているからではない。命題の当否を吟味するための「集合的な知」の場が存在しないからである。科学者たちが集まって、ある命題の真偽について議論するための「公共的な場」が存在しないからである。「反証不能」とはそのことである。命題そのものがどれほど正しくても、他の専門家達による「反証機会」が奪われている限り、それは「科学的」とは言われない。(P.238)

    「オレがここで死んでも困るのはオレだけだ」と思う人間と、「彼らのためにも、オレはこんなとこで死ぬわけにはいかない」と思う人間では、ぎりぎり局面での踏ん張り方がまるで違う。それは社会的能力の開発においても変わりません。自分のために、自分ひとりの立身出世や快楽のために生きている人間は自分の社会的能力の開発をすぐに止めてしまう。「まぁ、こんなもんでいいよ」と思ったら、そこで止まる。でも他の人生を背負っている人間はそうもゆくまい。(P.331)

  • 内田さんのブログやその他書き物の中から「政治ネタ」だけを選んで編んだアンソロジー。面白かったー。
    前に内田さんは「自分の書いたものはネットで無料で読めるのに、どうしてお金を出してそのネットに書いたものが載っている本を買ってくれる人がいるのか」ということを書いていた(と思う)けれど、「本」という再編集された形で関連性を意識しながら読むとまた新たな発見があるからだと改めて思いました。

    「憂国論」というだけあって、未来に夢も希望も無い話が多い。だけれども「最悪」を想定して、そこからどう現状や未来を変えていくのかという視点はとても大切だと思うので、そういう意味で「他の人が書かないような変なこと」が満載のこの本は一読の価値があるのではなかろうかと思いました。

    政治も教育も何もかもが「長期的な視点」を見失って、とりあえず「目先のこと」、「短期的な結果」を追い求めるようになっている傾向はとても興味深い。実際仕事しててそう思うし。以下特に印象の残ったところ。

    「本来企業が経営努力によって引き受けるべきコストを国民国家に押しつけて、利益だけを確保しようとするのがグローバル企業の基本的な戦略」(p25)

    「学校教育の目的は金が稼げる知識や技能を習得させることじゃない」(p305)

  •  内田センセイの、例によってあちこちのブログやネットや雑誌などに寄稿された文章から編まれた憂国論。政治、経済、教育、マスメディアなどあらゆるところでコンフリクトを起こしているように見える我が国を、どのように論じることができるのか。いったいその処方箋は存在するのか。

     

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著者プロフィール

1950年東京生まれ。東京大学文学部仏文科卒業。神戸女学院大学を2011年3月に退官、同大学名誉教授。専門はフランス現代思想、武道論、教育論、映画論など。著書に、『街場の教育論』『増補版 街場の中国論』『街場の文体論』『街場の戦争論』『日本習合論』(以上、ミシマ社)、『私家版・ユダヤ文化論』『日本辺境論』など多数。現在、神戸市で武道と哲学のための学塾「凱風館」を主宰している。

「2023年 『日本宗教のクセ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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