カフーを待ちわびて

著者 :
  • 宝島社
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  • Amazon.co.jp ・本 (283ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784796652124

感想・レビュー・書評

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  • 原田マハさんのラブストーリー大賞受賞作品。
    沖縄の離島で展開される人間模様。
    明青と幸のもどかしい距離。
    二人の距離を時にワクワク、時にヤキモキ見つめました。
    沖縄の素敵な自然や人々が物語の世界へ連れていってくれます。
    沖縄の空気に包まれました。
    最後の幸の手紙が心を捉えて離しません。今だ余韻が残っています。
    とても読みやすくてあっという間に読了。
    すごくいい時間を過ごせて⭐5でした。
    幸と明青のその後が気になってしょうがない…。

    このところ専門書でがっつり勉強に次ぐ勉強でしたので、すごく温かな気持ちになれました。
    やはり読書っていいなと素直に思いました。

  • 【恋愛で第一に大事なことは何かと聞かれたら、私は、好機をとらえることと答えるだろう。第二も同じ、第三もやはりそれだ。】

    フランスの哲学者・モンテーニュの言葉ですが、恋愛ならずとも世の中あらゆることにおいてタイミングを逃さないということは何よりも大切だと思います。これを聞いて、あなたも自分の恋愛経験を振り返る時、辛い思い、苦しい思い、そして狂おしい思いの先に喜びが待っていた時に、思い返せばそれがひとつのタイミングだったことに気づくのではないでしょうか。そして、そんな恋愛は突然にやってくるものです。でも突然にやってきても、その時の自分の気持ちが恋愛感情なのかどうかに気づくまでの時間は、人によって、またそれまでの恋愛経験によっても変わってくるものです。そして、その時の自分の正直な気持ちに気づいた時、その戸惑いの中で、次にどのような行動をとるのか、とらないのか。『どうすることもできない』、と感じた時に『じっと待つだけ』なのか、それとも好機を信じて最初の一歩を自分から踏み出していくのか。言葉で簡単に説明できないその難しさこそが恋愛なのかもしれません。そう、この作品は、沖縄の美しい離島の自然を背景にそんな恋愛に焦点を当てていく、原田マハさんのデビュー作です。

    『いつもの昼のまどろみ』、『「中休み」と言って、明青の店は二時から四時までを開店休業にしている』という『友寄商店』。その店は『戦前から続く「よろずや」で食料品、学習帳におもちゃまでなんでも扱っている』、そんな店をひとりで切り盛りする主人公・友寄明青。『朝七時、起床。カフーと南浜まで朝の散歩。九時半、店をあける。六時には閉店。夕方の散歩。暗くなるまでカフーと遊ぶ。八時、裏のおばあのところで夕めしを食べる』という決まった毎日を送る明青。そんな明青には毎日過ごす大切な時間があります。朝夕の散歩の相手である犬のカフーとの時間。『いつもの日、いつもの夕方、いつもの散歩の時間』を共にするカフー。『二年前に明青のところへもらわれて』来たカフーは毎日、店の閉店後にやってくる明青を『定位置で待ってくれ』ています。『誰かが待っていてくれる。そんなことには、縁遠かった人生だ』という明青。そんな明青は毎日『裏に住む巫女のおばあのところ』に夕食を食べに行きます。ある日『ウシラシ、あったかね』と語るおばあ。『ウシラシとは、神様から送られてくるサイン』。『島にいる唯一の巫女である』おばあの語る『ウシラシ』は『神がかっ』ていました。『出稼ぎで漁に行っていた父の事故死。弟の死産のあと、ふいにいなくなってしまった母』ことごとく言い当ててきたおばあ。犬のカフーが生まれた時にも告げた『ウシラシ』、それは『いい報せさ。果報(カフー)さ!』というもの。ここから取ったカフーの名前。そんな『ウシラシ』をまた告げられた明青は、家の郵便受けに『青白い封筒』を見つけ封を開けました。『拝啓 初めてお便りを差し上げます。遠久島の飛泡神社で、あなたの絵馬を拝見しました。…あの絵馬に書いてあったあなたの言葉が本当ならば、私をあなたのお嫁さんにしてくださいますか… 幸』、『手紙を読んでしばらく腕組みをしたまま動かなかった』明青。『どこの誰が、神社に置いてきた絵馬を見て応えてくるのかね。いや、自分は確かに書いたよ。「嫁に来ないか」ってね』、とその時の記憶を辿ります。『確かに書いたよ、与那喜島・友寄明青って。でもさあ…ちょっと待ってよぉ』…とおばあの『ウシラシ』が何かを暗示する物語が動きだしました。

    この作品は第1回日本ラブストーリー大賞受賞作ということからも、まさにど真ん中の恋愛物語を描いた作品だと思います。一方で、全体として女性視点で描かれることの多い原田さんの作品の中では、珍しく全編にわたって男性視点でストーリーが展開するのがとても新鮮です。そしてその舞台に選ばれたのが沖縄の離島。そんな舞台となる離島の風景に原田さんは沖縄らしい二本の木を象徴的に描いていきます。一つは、『ガジマルの大木』です。『明青の家の前から南浜へと続く道』に立つ『ガジマル』。『空めがけて勢いよく枝を伸ばし、ゆたかな葉を浜風にざわざわと揺らす』というその大木、その場所にある風景は、『その晴れ晴れとした風景の中へ思い切り走って行けば、どんな辛いこともその瞬間は忘れることができる』という場所、そして『まるで光に包まれている、不思議な物体との遭遇のようだった』という運命の出会いに象徴される、明青のもとに訪れる何かを待つ場所。あくまで明青は立ち止まっていて向こうから何かがやってくるのを待つ場所でした。その一方でもう一つは、小学校の校庭の片隅に立つ『ディゴの巨木』です。『どっしりとした太い木。生い茂る深緑の葉は、さえぎるもののない校庭を渡る風を受けてさわさわと鳴った』というその巨木。その場所は小学校時代の苦い思い出から一歩踏み出した場所であり、結末に向かう明青が次に進むための一歩を踏み出そうと決意する場所、前に進む明青を象徴する場所でした。このようにこの二本の大木、巨木が明青の人生の中で、象徴的な役割をそれぞれ果たしながら物語が進んでいくのがとても印象的でした。

    明青は、小さい頃から『どうすることもできない』時に、『じっと待つだけ』という姿勢で臨んできました。『耐えて、待てば、それは通り過ぎて行く』、それは『不幸な出来事のほうが多かったから、そんなふうに覚えてしまったのだろう』という明青。『いやなことは、みっつ数えるうちに通り過ぎる。不幸な出来事は、もっと長い時間がかかるかもしれないけれど、そのうちに消えて行くのだ』という、ただただ待ちの姿勢で人生に臨んできた明青。その待ちの姿勢で潜り抜けた事も確かにあり、それもある意味では人生のひとつの歩き方なのかもしれません。でも【恋愛で第一に大事なことは何かと聞かれたら、私は、好機をとらえること】というモンテーニュの言葉があるように、タイミングはただ待っているだけでは必ずしも訪れません。『幸せは、いくら待ってても、やって来ない。自分から出かけて行かなくちゃ、みつけられない』。自分から動いて、前へ、前へと進む。そして、好機を自ら見つけ、手にしていく。もちろん、恋愛ということで言えば、だからと言って必ずしも叶うものでもないでしょう。でも、そんな前向きな人生に向かって生きている人はやはり輝き、好機を手に入れる可能性を高めていけるのではないかと思います。だからこそ、結末に明青が見せる『晴れ晴れとした笑顔』は美しい。そして、そんな明青をきっとカフーはいつまでも待っている。

    沖縄の離島の美しい自然を見事に文字に写し取った原田さんのデビュー作。今の原田さんにも通じる伏線の巧妙さ、風景を感情に結びつけて描く絶妙さ、そして人の優しさをふっと感じさせてくれるあたたかい物語。丁寧に描かれるゆったりとした時間の抗しがたい魅力に、ああ、沖縄に行きたい!そんな思いが頭をよぎる、そんな素敵な作品でした。

  • 昔、シムシティってゲームがありましたよね(今もあるか)

    あれはもうめちゃくちゃおもしろくてハマりまくりました
    もうずっとそれこそ頭おかしくなるくらいやってたんですが
    あれってなんかやたら警察署ばっかりになりませんでした?
    そうしないと犯罪発生率があがっちゃって誰も引っ越してきてくれなくなるんですよね
    そもそものグランドデザインが悪いんですかね
    (グランドデザインてなんかかっこいい!)

    で現実の街を見てみると今度は警察署少なすぎるように感じちゃったりして
    実際に警察は人手が足りなくて大変そうですもんね
    それに比べてひまわりめろん市長の街はそこら中警察官だらけw

    警察官の人たちが見たらきっとこう言うでしょう

    いいな〜『架空の街はいて』なんちて

    さて『カフーを待ちわびて』です



    前から読みたかった原田マハさんのデビュー作をやっとです

    うーん面白かったんですがちょっと粗いかな〜なんて思っちゃいました
    偉そうですね、お前はなにかの審査員か!というね

    んでも読んで良かった

  • 『 嫁に来ないか。幸せにします
    与那喜島 友寄明青 』

    『 迷いながらもひとすじの希望を持って
    あの絵馬に書いてあったあなたの言葉が本当ならば
    私をあなたのお嫁さんにしてくださいますか
    近々お訪ねしようと決心しています 幸 』

    1枚の絵馬に寄って出会った明青と幸

    海へ続く白い道 、ひとつ目の角に立つガジマルの大木
    海の向こうに広がる水平線
    赤いハイビスカスの花束
    海辺で戯れる黒いラブラドールと白いワンピースの女性
    小学校の校庭に枝葉を伸ばして立つデイゴ

    どのページにも紙面いっぱいに沖縄の島の風景が繰り広げられ、
    まるで映像を見ているようだった

    タイトルの「カフーを待ちわびて 」の 『カフー』とは、果報・幸せという意味だった

    ( いやなことは、胸ん中で、みっつ数えるんだよ。そうするうちに通り過ぎる )
    どうすることもできず、耐えて、通り過ぎて行くのをひたすら待つ・・・そんな風に生きてきた明青が、
    自ら、幸せを掴むため、幸を探しに行く

    南国のさわやかな風が優しく吹いているようなステキな話だった






  • 『カフーを待ちわびて』読了。
    沖縄を舞台にした恋愛物語でした。
    胸水が溜まっているんじゃないかってくらい胸が苦しくなった。この二人が幸せになってほしいってすごく思ったな…一気に読んでしまった。
    最後の結末でまさかの二人の関係性が明らかになるんだけど…、家族思いなところが素敵だった。
    10年前から気になっていた本で、原田マハさんのデビュー作なんだけど…やっと読めた…!(遅)
    読後感が『楽園のカンヴァス』にすごく似てる気がする…とにかく胸が苦しい。
    愛に溢れていてね、すごく優しかった。
    もーやばいですぅ…うまく呼吸が出来ないしこのままだと心不全起こしてしまいそう…

    2020.7.15 (1回目)

  •  いやー、傑作だった。
     「嫁にこないか、幸せにします」とか書かれた絵馬を頼りにやってくる女と、その女を疑いながらも惰性的に受け入れる男。そんな2人の奇妙な生活に、南国のゆったりとした時間の流れと裏のおばあが、いい感じに混ざり合う。
     
     明青が、幸からもらった最初の手紙を読んで、いたずらだと思いながらもいつ来るか、いつ来るかとそわそわして待っているところや、幸を迎え入れたものの、幸の素性をまったく知らないため、いつふっといなくなるかと、明青が気をもむところ、とっても共感できた。
     ずっと一人で生きてきた明青が、幸との生活に馴染んで、「また一人になったらどうしよう。でもそうなったときに傷つかずにいるために、過度の期待はせずにいよう」と必死に自分をごまかす。けれど、幸への思いは、コップが水でいっぱいになるかのごとく、あふれてこぼれる。
     その思いを伝えられない明青のもどかしさといったら・・・!! 

     個人的には、この作品の終わり方も好き。男女がくっついてめでたしめでたしー、ではない終わり方。物語の続きを、読者それぞれが作っていけるこの終わり方が、とっても好き。

  • 最後の幸からの手紙を読んで、胸がぎゅっと締め付けれるようだった。

    大好きな原田マハさんのデビュー作。
    夏に読むのにはぴったりじゃないでしょうか。

    波の音と磯の匂いに包まれている気分になった。
    沖縄の穏やかな時間の流れが恋しくなる。

    嫌なことがあったら私も胸の中でみっつ数えよう。

    どうか幸せになっておくれよ。

  • 何にも考えなしに、この本を図書館から借りて読んだけど、
    原田マハさんのデビュー作だったのねー!?
    まぁー、沖縄の風景がキレイな作品でした!!
    (沖縄行ったことないから、私のイメージの沖縄だけどね…)

    沖縄、与那喜(よなき)島に住んでる明青(あきお)の所に
    突然来た、幸(さち)という女性。
    彼女は、明青が島民と旅行に行った先の神社で
    明青の書いた絵馬を見て、明青を訪ねてきた。
    「嫁に来ないか。幸せにします」と書かれた絵馬。
    そんな行動力のある幸だけど、暗い影も潜んでる様子。
    明青と幸のラブストーリー。
    時々おばあって感じー笑

    私、ずっとこの本のタイトルを勘違いしてたー!?
    「カヌーを待ちわびて」だと思ってたー(-_-;)
    「カヌー」じゃなくて、「カフー」だったー!!!!!!
    「カフー」って与那喜島の方言で「いい報せ。幸せ。」
    って意味だった。
    「カヌーはいつ出てくるのかな?」って思ってたけど
    そもそも違うしーー(゜ロ゜;ノ)ノ
    まぁー、夏に読むとピッタリな話だったかなー!!

  • 面白くて続きが気になってあっという間に読んだ。原田マハさんの本、好きだなと改めて思う。

    奥手な明青にモヤモヤしながらも、最後にホッとした。この話の続きがすごく気になった。

    明青と幸の恋の話。

  • 優しいお話しだった。原田さんの本はそんなに沢山読んでないけど、どれも優しい。

    明青は本当にお人よし過ぎる。
    友達関係を壊したくないからって、もっと俊一と渡に怒っていいと思う。

    誰も本心をぶつけ合わないから、空回りになっちゃってるじゃん。

    でも突然現れたんだし、どうしても探り探りにはなっちゃうけどね。

    どんどん原田さんの本を読んでいきたい。

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著者プロフィール

1962年東京都生まれ。関西学院大学文学部、早稲田大学第二文学部卒業。森美術館設立準備室勤務、MoMAへの派遣を経て独立。フリーのキュレーター、カルチャーライターとして活躍する。2005年『カフーを待ちわびて』で、「日本ラブストーリー大賞」を受賞し、小説家デビュー。12年『楽園のカンヴァス』で、「山本周五郎賞」を受賞。17年『リーチ先生』で、「新田次郎文学賞」を受賞する。その他著書に、『本日は、お日柄もよく』『キネマの神様』『常設展示室』『リボルバー』『黒い絵』等がある。

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