シャトゥーン ヒグマの森 (宝島SUGOI文庫) (宝島社文庫 C ま 1-1)

著者 :
  • 宝島社
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感想 : 120
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  • Amazon.co.jp ・本 (379ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784796669030

作品紹介・あらすじ

マイナス40度も珍しくない極寒の北海道・天塩研究林。そんな土地に立つ小屋に集まった、学者や仲間たち。そこへ雪の中を徘徊する体重350キロ、飢えて凶暴化した手負いの巨大ヒグマ、"シャトゥーン"ギンコが襲いかかる!次第に破壊される小屋。電話も通じない孤立無援の状況下から抜け出すことは出来るのか!?第5回『このミステリーがすごい!』大賞優秀賞受賞作の文庫化。

感想・レビュー・書評

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  • 増田俊也『シャトゥーン ヒグマの森』宝島社文庫。

    10年以上前に読んでいるが、古本屋で発見し、再読。増田俊也のデビュー作。穴持たずの巨大ヒグマの恐怖を描いた冒険小説である。再読しても、なお面白い。

    極寒の北海道・天塩研究林で体重350キロの手負いのヒグマが次々と人間を襲う。『シャトゥーン(穴持たず)』と呼ばれる冬眠に失敗した飢えて凶暴化したヒグマ。ヒグマの正体はかつて主人公の土佐薫と昭が保護したTF4、ギンコだった……逃げても、逃げても、執拗に襲い掛かってくるヒグマの恐怖。

    恐らく自分がクマ物にハマったのは、小さい頃に映画館でB級映画の『グリズリー』を観たのがきっかけだと思う。以来、クマ物小説やノンフィクションはかなり読んできた。古くは苫前三毛別事件を題材にした戸川幸夫の『羆風』に始まり、吉村昭の『羆嵐』『羆』、同じく苫前三毛別事件の詳細を描いた木村盛武のノンフィクション『慟哭の谷 北海道三毛別・史上最悪のヒグマ襲撃事件』、吉村龍一『光る牙』、樋口明雄の『約束の地』、北林一光『ファントム・ピークス』、熊谷達也の『ウエンカムイの爪』『邂逅の森』、白土勉の『火の獣』、佐藤友哉の『デンデラ』、久保俊治の『羆撃ち』と多数読んだ。

    クマに関する話の中では、何と言っても本作にも登場する苫前三毛別事件が一番怖い。

    本体価格562円(古本100円)
    ★★★★★

  • ー 北海道をアイヌモシリっていうのは知ってるでしょう。これは人間の住む大地という意味よ。かつて北海道というこの広大な土地は、すべてアイヌ民族五十万人とカムイたちのものだった。

    それを、開拓の名を借りた私たちの祖先・和人が侵略し、土地も文化も、そしてカムイたち動物も奪ってしまった。北海道開拓の歴史は、そのままアイヌ文化と動物たちの減亡の歴史なのよ。でも、和人も結局すべてを奪うことはできなかった。それはこの地に巨大なヒグマがいたから。そのヒグマに対する恐怖が、今でも北海道の深い森をぎりぎりの線で守ってる。 ー

    このミス大賞、だけど、巨大ヒグマとのガチンコサバイバル。ギンコが人間を食べているシーンがかなりグロいけど、人間が生き延びる為にネズミを食べるシーンもグロく、“食べる”というのはそういうことなんだな、と思い知らされる。

    まさに、壮絶、な作品。

    生きたまま食べられていくシーンが多く、人間ってなかなか簡単に死なないんだな、と思ってしまう。

  •  渓流釣りや狩猟をそのうちしてみたいと思っていたのだが熊が怖すぎて無理になる。本州にいるのはツキノワグマでヒグマではないのだが、それでも熊というだけで超怖い。ヒグマのついていろいろ詳しくなった。

     とても面白くて最後までぐいぐい読んだのだが、最後の方はちょっと大味だった。娘が何度も口にくわえられて連れて行かれそうになるのにあんまり怪我をしていなかった。子供が悲惨な目に会うのは読んでいてつらいのだが、それまで無慈悲な鬼神ぶりを発揮していたのに、トーンが変わっていた。庁舎にたどり着いた時になんで娘を一緒に建物に入れないのだ?と疑問がわいた。

  • 恐かった・・・。次々に人が死んでいく。フィクションだと分かっていても、本の中の話だと分かっていても、熊の息遣い・視線がすぐ後ろに感じられるような、自然の中に放り出されたような緊張感があります。
    吉村昭「熊嵐」もそうでしたが、人間相手よりも、自然や動物を相手にすることのほうが絶望的という感じがします。。。
    実際、登別の熊牧場に行ったとき、ヒグマを前にして「あ、おれ死ぬ」って思ってしまいました。それくらい、説明の余地が無いくらい、生物としての強者弱者を感じた。
    この感じを本にするのは、ホラーとして確かにあり。ただのスプラッターものじゃなく、その場にいるかのような臨場感・自然さを感じ取れたこの本は恐くて面白かったです。

  • こぉわぁぁぁぁ〜!!
    ギンコ、こぉわぁぁぁぁ!!
    ヒグマ三作品目にして、最強に怖かった。
    本を読んでるだけなのに、軽くパニックになった。
    私が道民だったら、もう全てを投げ出し引っ越ししちゃいそうな勢い。
    まさに、解説の作家さんが書いてる状態。
    『九州はツキノワグマすら絶滅』っていうのを、ネットで何度も確認しながら読んだ。
    マンションの上階だけど、ベランダの窓の外にヒグマが居そうで、夜相当怖くて眠れない眠れない。
    何がって、あり得る恐怖だから。
    実際、ちょっとネットで調べたら、事実として同様の事柄が沢山出てくるから。
    三毛別然り、福岡大ワンゲル部然り。
    ロシアの母親に電話しながら然り、数年前の秋田のクマ牧場然り…。
    自然では当たり前かもしれない、生きながら時間をかけて食べられる恐怖。
    その呻き声を聞き続ける恐怖。
    助かっても、手術痕とかと違って生々しく残るであろう傷跡と、心的外傷後ストレス障害。
    あぁ、もう、本当怖い。

    物語の途中で出てくる、シャトゥーンの性質の一つ一つが、恐ろしい方向に回収されて行って、物語を読みながら耐えられなくなりそうになった。

    西が高橋と追わなければ、手負いにならなければ、車は無傷で食べ物も着いたかもしれないけど、床下に遺体が埋まってたら、もしかしたら遅かれ早かれ狙われたかもしれないし。
    あぁ、もうほんと、こぉわぁぁぁぁ!!

  •  神の使いとも称されるヒグマ。実は最強の肉食獣…

     道民なら、三毛別事件や福岡大遭難事件、三毛別事件を題材にした、吉村昭の小説「羆嵐」などでその恐ろしさは多少認知していると思います。

    しかし、改めてその知能、運動能力、爪と牙の殺傷力の高さに圧倒されます。

     手負い、子連れ、穴持たず、しかも人の肉の旨さを知ってしまった巨大ヒグマに、「食糧なし」「銃なし」「電話なし」で対峙しなければならなくなったら?しかも助けが来るのは6日後。

     ヒグマに追走されながらの雪山行など手に汗握る場面の連続です。

     この小説のポイントは、ヒグマが人を食べる描写に尽きます。それがこの本の恐怖の根源でもあるのですが。

    ヒグマ、人を食べる時は爪で服を剥いでから食べるそうです。
     
     帯に「映画化!」とありましたが、そんなシーンも含めて本当に映像化できるのか…

     小説として、

     ここまで書いたのなら☆は5つつけないとしょうがない、という読後感の本です。

    13.04.25 二度読みしてしまいした。

  • 雪の北陸旅行に行く車中で、気分を盛り上げようと読みました。
    恐い。新幹線の中で挙動不審になった。
    冬の北海道で、冬眠に失敗した母子羆の食糧確保と食糧にみなされた人間たちの戦い…というか、ヒロイン以外が相手だと圧倒的なワンサイドゲームです。
    パニックものに分類していいかなと思うくらいの羆無双ですが、折々になぜヒグマが冬眠に失敗したのか、なぜこの地にきたのか、なぜ人間を襲い始めたのか…という原因と結果も伏線として作っているので、ミステリーといえばミステリー。

    本文は本当に恐くて、生きたまま人が食べられている感覚を、その食べられている人主観で描いたりとか、グロいけれど筆が力強く、ぐいぐいと引きずり込まれます。
    過去の有名な熊害や熊の習性などにも詳しくて、読むと益々山には行かない!という気分にもなります。

    評価を抑えたのは、ヒロイン補正が強すぎたせいかなあ。前座的に食べられていった人たちがちょっと気の毒です。
    ヒロインが超人な理由も、彼女と同等の知識をもつ人たちが終盤まで生き延びていることも、ちゃんと説明されているので、ご都合主義ってほど違和感はないけど…でもあれだけのスーパーギンコ相手に一人で立ち向かってるのは、少しだけ引っかかった。

    あと、元凶である教授が「自分の死体を熊に食わせてくれ」っていうのがもう、ありえないくらい腹が立った。人間の味を知った熊は殺すしかない、というのを知ってるくせにその発言はないと思う。
    結果的に熊害が起きて人が近寄らなくなることを喜ぶのと、殺される運命の熊を仕立て上げてまで森を守るというのは根本的に違う。
    弟も「恩師の体を熊に食わせるのは忍びない」みたいな理由で食わせなかったけど、それは違うよ。そう言った弟にもがっかりしました。

    同じヒグマ本で「羆嵐」を前に読みましたが、あちらに比べるとこちらの方が、時代が現代である分読みやすさというかキャラクターが好戦的で、私利私欲も入り混じってて軽妙に読めます。
    「羆嵐」は寒さと恐怖と絶望が染み入ってくる感じで、痛ましいが読み進まずにいられない。
    フィクションと事実を題材にした物語の差をまざまざと感じられて、どちらも好きです。

  • 装丁からなんかキワモノ臭がしたんだけど、ガチで怖い。ヒグマ怖い。グロいの駄目な人は、読まない方が良いと思います。ヒグマ小説で、若干フクロウ小説でもある。

  • 北海道の奥地でヒグマに襲われる話。

    そんな危険な動物が出る所でなんで対抗できる武器を一つも持ってないんだって突っ込みは置いといて・・・(一応、普段は出ないって設定っぽいし)

    襲われるときの描写が生々しすぎる。

    襲われたーでも間一髪助かったー恐かったー全員無事ー


    とかいう話では全然無い。
    容赦なくヒグマに喰われます。

    幸せな新婚生活も、長閑な田舎での研究も、母子の営みも、全て喰らい尽くすようなクマの獰猛さが半端ない。

    ちょっとした暴露とかストーリーもあるけど、それよりクマに襲われるシーンがすごすぎる。
    そしてそれが何度も何度もやってくる。

    クマに外で会ったことは一度も無いけど、その恐ろしさがしかと感じられた。

    なんとかだクマーとか冗談じゃない。
    逃げ切れる自信も闘える自信もない。出会わないのが一番。

  • 【OSO18がもし人の味を知ってしまっていたら】

    読むスピードが遅い私だが、この一冊は2日で読了。
    とにかくヒグマの恐ろしさ、尋常ではない身体能力、そして過剰なまでの執念深さを描いている。

    OSO18の討伐までの経緯などを
    まとめ動画などで見聞きしていただけに、
    本作は過剰な描写などとは思えなかった。

    結果として、登場人物7人中5人がヒグマに文字通りズタズタにされ食い殺される。
    その描写に余念がない。

    映像化なんて絶対にムリだろ。
    書きたい物を書くんだ、この題材でやると決めたなら徹底的にヒグマの恐ろしさ、狡猾さを、執念深さを、北海道の自然の厳しさを描き切るんだ。
    この初志貫徹具合がひしひし伝わってきた。

    このミステリーがすごい大賞は、
    とにかく当たり外れが酷すぎると個人的感想なのだが、本作はしっかり大当たり。

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著者プロフィール

1965年生まれ。小説家。北海道大学中退後、新聞記者になり、 第5回『このミステリーがすごい!』大賞優秀賞を受賞して2007 年『シャトゥーン ヒグマの森』(宝島社)でデビュー。2012年、『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』(新潮社)で第43回 大宅壮一ノンフィクション賞と第11回新潮ドキュメント賞をダブル 受賞。他の著書に『七帝柔道記』(KADOKAWA)、『木村政彦 外伝』(イースト・プレス)、『北海タイムス物語』(新潮社) などがある。

「2022年 『猿と人間』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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