花々 (宝島社文庫 『日本ラブストーリー』大賞シリーズ)

著者 :
  • 宝島社
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  • Amazon.co.jp ・本 (218ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784796696135

作品紹介・あらすじ

2012年度「第25回山本周五郎賞」受賞作家、原田マハのヒット作『カフーを待ちわびて』の舞台裏でくり広げられていた、もうひとつの感動ドラマ。島を愛する旅人・純子と、故郷の沖縄を捨て東京で生きる成子。ひょんなことから出会ったまるで正反対の二人は、ある共通の目的のために奄美群島の神秘の島々を旅することに。しかし二人が見つけたものは、当初探していたもの以上の大きなもの……それは二人の知られざる「宿命」だった。

感想・レビュー・書評

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  • 「カフーを待ちわびて」のサイドストーリ。
    「カフーを待ちわびて」は4年ぐらい前に読んでいますが、内容は忘却の彼方に(笑)
    自分のレビューを読み返して、なんとなく思い出しました。

    本作では二人の女性の視点から物語が語られていきます。
    島を愛する旅人の順子。
    島を出て、東京のキャリアウーマンとして生きる成子。
    そして、成子の友人?ライバルとなる男が立ち上げた島のリゾート開発計画。この計画が「カフーを待ちわびて」でも出てくるし、その計画反対の人たちが「カフー」の時の明青や幸の話だったのね。

    そして、順子と成子のそれぞれの生き方が交錯します。
    後半、ぐっときてしまった。

    さがり花、千と一枚のハンカチ。そして花だよりでツーンと来てしまいます。

    胸にしみいる物語でした。
    「カフーを待ちわびて」を読んですぐ読むことをお勧めします。

  • あなたは、沖縄に行ったことがあるでしょうか?

    沖縄を好きだという方が私の身近にもたくさんいます。そういう私はまだ一度しか行けていませんが、再訪したい都道府県のトップに君臨するのが沖縄です。単なる観光という言葉だけでは言い表せないもの、単なる観光という言葉だけにとどまらないもの、そんな何かが私たちを惹きつけているように感じる地、それが沖縄。『都会で働く三十歳前後の女性が、生活や人生やなんだかんだに飽き飽きして、沖縄へやってくる』、そして『存外の居心地のよさにそのまま居着いてしまう』、そういった人たちを指す『沖縄病』という言葉があるように、沖縄には、私たちを惹きつけてやまない何かがあるのだと思います。

    「太陽の棘」、「風のマジム」、そして「カフーを待ちわびて」と、そんな沖縄を繰り返し描く原田マハさん。その中でもデビュー作である「カフーを」は私の中に強く印象に残る作品です。『伏線の巧妙さ、風景を感情に結びつけて描く絶妙さ、そして人の優しさをふっと感じさせてくれるあたたかい物語』さてさて氏「カフーを待ちわびて」レビューより抜粋…と、その魅力あふれる原田さんが描く沖縄。

    そんな「カフーを」と同じ世界観に再び出会える物語がここにあります。「花々」と名付けられたこの作品。「カフーを」のサイドストーリーです。

    『小高い丘の上に建つ、小さなアパートの裏庭に、ホウセンカや花々が乱れ咲いている』、そんな光景を見るのは主人公の純子。『沖縄・与那喜島の村営住宅のアパート』に真冬の二月から暮らし始めた純子。そして七月となり『裏庭いっぱいに、いまを盛りと咲き誇った』ホウセンカ。『目覚めると、純子は窓をいっぱいに開けて風を通す』という朝。『小高い丘の上からは、水平線と、純子の勤め先がある南浜が見渡せる』という景色を見る純子は、初めてこの景色を見た時『安住、という二文字が、なんの脈絡もなく、唐突に純子の頭の中に浮かんだ』ことを思い出します。『故郷の町を飛び出して、しばらくは旅を続けていく覚悟だったのに、どういうこと?』と自問した純子。『ふるさとのまち、岡山にいたころは、なんて何もなくて空虚なところなんだろう』と飽き飽きしていた純子。しかし『ここに比べればはるかに埋め尽くされていた』という岡山。『家やビルや店、人々、わずらわしい人間関係、きれぎれになった家族。破裂しそうにいっぱいだった』というあの頃。『ダイビングショップでアルバイトを始めて半年』、オーナーの田中庄司に『純ちゃんは沖縄病だからな。いつ出ていくかわからない』と言われて抗議したのを思い出す純子。『楽しい職場だった。だからこそ、そんな冗談を言ってほしくはなかった』という純子。そんな今の純子に『純ちゃんさあ、いつまでここにいるつもり?』と同じアルバイトの奈津子が話しかけました。『いつまでって…もうしばらくは、いるつもりだけど』、『この店がある限りは』と何気なく返すと『じゃあ、再来月くらい、ってことか』と奈津子は、意外なことを言います。『庄司さん、決めたみたいよ。この島、出るって』と言う奈津子に驚く純子。『だって、南浜にリゾートできるじゃん。「ハイリゾート与那喜」。結局、立ち退かなくっちゃならないらしいよ、ここも』と言う奈津子に『庄司のダイビングショップがある南浜に、巨大リゾート開発の話が持ち上がっていた』ことを思い出す純子。『立ち退きに同意していないのは、庄司を含めてわずか五世帯』という状況。『拓海君、「石垣島にお店作るってパパが言ってた」って。嬉しそうだったよ』と続ける奈津子に庄司の息子が『本土人だから、島から出ていけ』と『いじめのターゲットになっていた』ことを思い出します。『いいとこだったんだけどなあ。こんな島、ほかにはなかった』と『テーブルに頬杖をついて、暗い海を眺め』る純子。そんな純子のそれからが描かれていきます。

    原田マハさんのデビュー作「カフーを待ちわびて」の舞台で繰り広げられる”もうひとつの感動ドラマ”という位置付けのこの作品。「カフーを」と同じ沖縄の離島が舞台となります。時間軸もほぼ同じですが「カフーを」の主人公たちが直接登場するわけではありません。明青が主人公を務めた「カフーを」直後の様子が風の便りのようにまずは描かれていきます。そして、「カフーを」を読んだ方には、ハッとするようなプレゼントが最後の最後に用意されています。「カフーを」でもはっきりしなかった明青らの決定的なその後が記されるそのシーン。最小限の記述ではありますが、「カフーを」を読んだ人間にはこれで明青たちのその後が十分感じられるもの。そういう意味でも、この作品を読む前に「カフーを」は絶対に読了しているべきであり、この作品単独で読むと、面白さが半減してしまいます。逆に「カフーを」を読了した方は読まないと損をする、この作品の位置付けはそこにあるように思いました。

    五つの章から構成されるこの作品。奇数章が岡山出身の元看護師の純子。偶数章が日本有数の都市開発企業に勤務する成子視点で物語は展開していきます。

    『家やビルや店、人々、わずらわしい人間関係、きれぎれになった家族。破裂しそうにいっぱいだった』という岡山が『いやで、逃げ出してきた』純子。『都会で働く三十歳前後の女性が、生活や人生やなんだかんだに飽き飽きして、沖縄へやって』きて、『存外の居心地のよさにそのまま居着いてしまう』、そんな人たちを指す『沖縄病』。 そんな風に言われて『あまり気分がよくなかった』という純子ですが、一方で『沖縄病の典型』という自覚がある純子。そんな純子が得た平穏な暮らしがまず描かれていくこの作品では、章ごとに『ホウセンカ』、『ディゴの花』、そして『さがり花』というようにその章で描かれる沖縄の自然に咲く花々が象徴的に登場します。「カフーを」では『ガジマル』と『ディゴの巨木』が象徴的に描かれていました。そう、男性主人公・明青の「カフーを」が”木”を描いたのに対して、女性主人公・純子と成子の「花々」が”花”を描くという好対称な描き方。それぞれの作品のカラーを上手く出しながら、美しい沖縄の自然の風景が上手く描写されているように感じました。

    そして、もうひとりの主人公が『日本有数の都市開発企業』に勤務する成子です。純子が沖縄の離島に逃げてきたのに対して、成子はそんな島を出て、東京でキャリアウーマンとして活躍しています。『出世して、もっと大きなプロジェクトの、もっと重要なポストに就くこと…女性初の役員になること』を目指し『全身全霊、仕事にすべてを捧げて』生きてきた成子。そんな成子は仕事の一貫として故郷へと帰ってきます。そして、純子との出会いを経て…と展開していくこの作品ですが、〈鳳仙花〉で純子が衝撃を受けることになった『島民八百人の島に、二百人の従業員を擁する大リゾートを造営する計画』の存在がキーになっていきます。これは「カフーを」で描かれた状況を違う角度で見るもの。『施設ができれば、人口も増え、雇用も促進され、観光客の増加で消費も経済も活性化される』とはこういったリゾート開発においては必ずといっていいほどに登場する説明です。しかし一方で良いことばかりであれば反対する人が出るはずはなく『引き換えに失うものもある』と考えるのが、ダイビングショップのオーナーの田中でした。『南浜の環境が破壊される』と考え『根っからのダイバーである庄司は、自分が心底気に入ったこの南浜を開発から守ろう』と反対運動に立ち上がります。しかし、それを見やる地元民の側からは『本土人だから、島から出ていけ』と『露骨な棘』のある『誹謗の言葉』が向くという状況。しかし、この作品ではあくまでそういった事情は物語の背景に垣間見えるものであって本筋として展開する物語とは異なります。あくまで、光が当たるのは純子と成子という二人の女性の人生の転機を切り取ったものです。しかし、一読者としては何か寂しいものを感じたのも事実です。『自分たちはどんなにこの島になじんだと思っていても、やはり外部から来た他人であることに変わりはない』という現実。これは、沖縄に限らずこの国のあちこちで起こっていることでもあります。現地に生まれ暮らす人は何もない現状に変化を求める一方で、『あらゆるものがあった』都会から移り住む人は現状のまま変化がないことを望むという相反する感情の交錯。そこに、離島出身でありながら『都市開発企業』に勤務する成子の思いが交錯するというこの作品。「カフーを」でもそうでしたが、私たちが愛でる沖縄の美しい自然の裏に横たわる厳しい現実を垣間見ることになる、そんな作品でもありました。

    沖縄の離島にそれぞれの思いを持つ二人の女性の人生の転機を切り取ったこの作品。沖縄ならではの美しい自然と、そこに咲く美しい花々が物語の中に上手く描かれていくこの作品。そして、そんな美しい自然を私たちが楽しむためのリゾート開発を前に交錯する立場の異なる人々の思いが描かれるこの作品。「カフーを」とはまた異なる読後感を味わうことになるこの作品。「カフーを」を読んだ人には必読の作品だと思いました。

  • 『カフーを待ちわびて』のスピンオフ。内容は『さいはての彼女』のような、女性たちが再生していく話。明青と幸のその後が、ほんのちょびっと記載されています。

  • 「カフーを待ちわびて」のサイドストーリーで、様々な境遇で強く生きる女性たちの視点で描かれています。出てくる女性たちは皆んな、応援したくなる素敵な人たちです。「カフーを待ちわびて」の気になるラストもスッキリしました。携帯メールが主流の今ですが、手紙を書きたくなりました。

  • 【カフーを待ちわびて】の映画版を観た後に、スマホでキャストの確認をしていたら本作品が続編である事を知る!

    【カフーを待ちわびて】のアキオや幸の物語の脇を流れる本作品は、故郷を捨てた自称旅人の【純子】と、不動産大手のキャリアウーマン【成子】の物語が交互に語られる連作短編!

    ボリュームは218ページで字が大きめなので二時間足らずで読み終わるものの、心が満たされます。

    沖縄の島の風景と登場人物達の暖かさに癒されてほしいと思います。


    色んなことに疲れている人達に読んで欲しいと思うのですが是非、本書の前に【カフーを待ちわびて】をお読みください!


    本書を読み終えると、待ちわびたカフーが訪れます。

  • それぞれ良いが、“千と一枚のハンカチ”が特に秀逸。知花子のストーリーにのめり込む...。前作を読んでいなくても楽しめるが、読んでいた方がより楽しめる。
    相手を思う気持ちと自身の大事にしてきたものを紡ぎたい思い...。すっと胸に染み入る。

  • 「カフーを待ちわびて」の続編というかスピンオフ作品。主人公は、与那喜島のダイビングショップでアルバイトしてた純子と、明青の初恋の女性(小中の同級生)でバツイチのキャリアウーマン成子。離島を巡りながら自分の居場所を探す二人。ちょっと切なくてハッピーエンドなお話!

  • カフーを待ちわびて のスピンオフです。続けて読むことをお勧めします。
    成子は酷い。許しがたい。めちゃめちゃ自分勝手で、自分だけがかわいい女。仕事はできても、人の心が分からない女。いちばん大事な人に何てことするんだ。何で上から目線なんだ?憲明に謝れ。ちゃんと謝れ。

  •  『カフーを待ちわびて』のスピンオフ作品。この作品単独でも楽しめるとも思うけれど、あの鮮烈なデビュー作とペアで読んで頂くと、物語の時代や地平が陸続きで繋がるので、ダブルどころかそれ以上に楽しむことができると思う。単純な1+1ではなくて4倍にも16倍にもなるかもしれない立体感覚である。
     ちなみに陸続きというのは言葉の綾で、孤島の物語がメインの舞台となるところは元作品と同じ。但し、この本の登場人物は旅人ばかりなので、一つ所にとどまらない。ゆえに複数の孤島が別の舞台として登場する。本土の街だって舞台の一つとなる。モデルとなる島や場所はあっても、すべて架空の設定となっているので、ドラマ『Drコトー診療所』と同じイメージでトライして頂くとよいだろう。
     本作は、都会から島に住み着きダイビングショップで働く純子、島の生まれだけど東京に出てビジネスウーマンとして活躍してきた成子、という二人の交互の視点で綴られる一冊である。いわゆる連作短編集でもあり、全体で一作の中編小説とも読める。長編小説と言いたいが、ページが少なく、活字も大きい。中編の部類を長編一冊の値段で無理やり商品化したよ、というちゃっかりした印象。
     おまけに表紙イラストが少女コミックみたいなので、公共の場所ではブックカバー無しでは読みにくい。個人的には、一気に自宅で読み終えることに成功し、ほっとした次第。ちなみにぼくはブックカバーを使わない人なので。
     外観はともかく、内容は、『カフー、、、』を読んだ人ならば同じレベルで楽しめると思う。スピンオフ作品であるだけに、共通する登場人物たちの他の側面や違った物語を辿ることができるし、島の歴史や島民たちの印象を、さらに違った角度から俯瞰的に見ることもできる。明青や幸や愛犬カフーも、端役ながら登場させるサービス精神くらいは、この作者なので当然しっかり持っているので、ご安心あれ。
     さて、二人のヒロインの視点で交互に語られてゆく本作だが、他にも奈津子という気になる個性が、何度か彼女らの物語と交錯する。三人の女性が皆それぞれのオリジナルな人生と物語と生き様を抱えているのはもちろんのこと、彼女たちの運命がちょっとした交錯したり、邂逅し合ったりする構図が、不思議とじんと来たりする名シーンづくりの上手さは、この作者の持ち味で、作者の持つ女性ならではのデリカシーがいい具合に作品作りのスパイスとなっていると感じさせてくれる。
     まさか自分でもこの齢になって、言わば女性小説?を読むことになるとは思わなかったが、原田マハ作品には、国境も性別も年齢もあまり関係ないのだ、と最近では割り切れるようになってきた。人生を語るのに立ち止まる地点がどこだと定められているわけではないではないか。悲しみや歓びは、いつだって不意をついてやってくるものなのだ。
     この作家の作品では、様々な個性たちのそれぞれの人生の瞬間や、違った心の流れが、不思議なハサミで切り取られて構成されているように思う。それは、ぼくらが美しい海や空に眼を向ける一瞬のように、はっと気づかされる類いのものであったり、何かを想い出すとき、これまでずっと忘れていた大切なものごとに改めて気づかされるような、きっと人生のしおりみたいな瞬間だからだ。
     これからも折につけ、この作家の本を開こう。そのときには安心して心を預けよう。読み終わる都度、いつもぼくはそう思っている。

  • この本、10年ぐらい前に図書館で借りて読んでました。
    ハードカバーで、装丁がとても綺麗だった記憶です。
    文庫本は絵(漫画)が表紙なんですね。

    20代で読んでいた時と、
    もうすぐ40を迎える私が読むと、
    感想は違うのかなあと思いながら読んでました。

    当時は出会いと別れが~良い!みたいな感想でした。苦笑
    若いというか瑞々しく読んでます、たぶん。苦笑

    今は、きれいごとだけでは物事は進まないし、
    どんなに頑張っても、人は言葉で傷つくし、
    それが決定打になることがあって。
    近いからこそ乱暴に扱ってしまうこともあって、
    大切にできなくて余裕もなくなる。
    鬱々とした傷を癒し、隠すためにも、
    人は距離を取るんだろうなあと。

    島で生まれ育ってない自分はよそ者。
    自分が根ざす場所を探して、
    どう生きていくべきかを迷って探して。

    家族って、最低でも最高でも家族ですよね。
    それを改めて感じました。
    沖縄行ってみたいなあと思います。

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著者プロフィール

1962年東京都生まれ。関西学院大学文学部、早稲田大学第二文学部卒業。森美術館設立準備室勤務、MoMAへの派遣を経て独立。フリーのキュレーター、カルチャーライターとして活躍する。2005年『カフーを待ちわびて』で、「日本ラブストーリー大賞」を受賞し、小説家デビュー。12年『楽園のカンヴァス』で、「山本周五郎賞」を受賞。17年『リーチ先生』で、「新田次郎文学賞」を受賞する。その他著書に、『本日は、お日柄もよく』『キネマの神様』『常設展示室』『リボルバー』『黒い絵』等がある。

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