中国残留孤児 70年の孤独

著者 :
  • 集英社インターナショナル
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感想 : 5
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784797673043

作品紹介・あらすじ

「私は、誰ですか?」──戦後70年、今やすっかり忘れ去られている中国残留孤児。彼らの苦悩は2世、3世の時代になった今も続く。ノンフィクション作家・平井美帆が「戦争」が生んだ傷跡の今を抉る。

感想・レビュー・書評

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  • アイデンティティクライシス。

    自分が何者か分からなくなる。在日コリアンの話で聞いた事がある言葉だったが、成人近くになるまで中国人として育てられ、日本語など覚えていたかも定かでない中で、日本人だと告げられる。中国では日本人として虐められ、日本では中国人として蔑まれる。人の繋がりも属す国家も揺らぎ、本当の親兄弟も分からず、しかも分かった所で、では何故見捨てたのかと疑心暗鬼。最悪な孤独だ。

    山崎豊子の『大地の子』を読んだ時に、残留孤児の悲惨なドラマに触れた。女性差別も相俟って、強制的な結婚、身勝手な奉仕強要に身体を痛める。本著でも似たような生い立ちを窺わせる女性も登場するが、中には、子供のいない中国人の両親に優しく育てられたというケースも。そうだろう、身勝手に日本人の娘を手に入れた中国人が、その子に態々、日本人である事を伝える道理が無い。子なしの親が我が子とする。つまり、帰国した残留孤児の発言は、比較的〝良い中国“に偏る。勿論、中には故郷を見ずして亡くなった奴隷扱いの悲惨なケースもあっただろうと想像される。

    我が子一人だけ、何故外地に残したか。比較的、女性が多い。著者は、この点に疑問を感じ、更に、自らソ連兵に身を捧げ陵辱される事で家族を守った女性についても触れる。戦争引き上げ時の凄惨なシーンだ。こうした体験を経て歴史の延長にいる我々は、果たして、お互いに許し合えるのだろうか。考えさせられる本だ。

  • 山崎豊子先生の「大地の子」を読んでから中国残留孤児について深く知りたいと思って手に取った一冊。

    中国残留孤児に縁のない著者が本書を執筆するきっかけになったのは、金沢東京間で起きた夜行バスの交通事故。
    運転手は残留孤児2世の男性で、激務により睡眠不足が続いていたのに業務を引き受け、事故を起こしてしまう。7名死亡、10名以上の重症者を出した本事件はあまりに凄惨で、また若い犠牲者が多かったことから、より被疑者への非難は強かった。
    残留孤児2世という特殊な属性をもつ被疑者、その育った環境、労働環境に関心を持った著者は残留孤児のコミュニティに参加して徐々に信頼関係を築いていく。

    国家による満州移住計画、敗戦による混乱、ソ連兵の略奪、毛沢東による大躍進政策に文化大革命など、「大地の子」で描かれていた世界、そのままの経験をもつ人物がたくさん登場する。

    日本国、また日本国民は、なぜこれほどまでに残留孤児に対して冷たいのかと思っていたが、本書を読んで納得した。
    そもそもの発端である移住は、自分達で決めてしたこと、また、移住者というのは戦前の日本で貧困を極めていた人々(事業に失敗したり、借金を重ねていた人)が中心だっため、自己責任であるという論調だったのだ。
    自分達の意思で満州に渡り、その後敗戦の混乱はあったとは言え、自分達の意思で中国に残ったのだから、その責任を国家に追求するのは間違えているというのである。この点、敗戦時に13歳以上だった者への自己責任論はより厳しい。

    本書でも、大地の子の養父母のような中国人達が多数登場する。日本軍に恨みはあっても幼い子供達に罪はないと我が子同然に育て上げた中国の養父母たちは、国や民族を超えた人間らしさ、温かさを感じる。私たち日本人は、国家としての中国と国民としての中国人を分けて考える必要があると感じる。

    しかし、本書に登場する人たちは孤児の中でも恵まれた方。敗戦の混乱の中で命を落とした者、命は助かっても養父母に虐待された者、読み書きができずに、日本に帰国できることさえ知らずに中国で生涯を終えた者、本書に出てこない悲惨な生涯を送った孤児達はたくさん存在しているのだと思うと胸が痛む。

  • 東2法経図・6F開架:369.3A/H64c//K

  • 中国残留孤児に関する本を読むと、どうしてもテレビドラマ『大地の子』を想いだしてしまいました。戦争によってかけがえのない親を兄弟姉妹を祖国を失い、そして過ぎ去った時間は二度と戻ってこない。

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