知事と権力―神奈川から拓く自治体政権の可能性

著者 :
  • 東信堂
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  • Amazon.co.jp ・本 (544ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784798914619

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  • 東2法経図・開架 318.2A/I85c//K 

  • 著者は参与として、松沢県政の参与を務めた人物である。
    ただし、本書は著者が危惧するほどバイアスは感じられず、比較的公正な時点で記述されている。
    前半では、松沢県政について論じ、後半に自治体政権論を論じている。
    松沢はいわゆる無党派知事で与党を持たなかった。
    そのため、就任当初は政策の推進に苦慮した様子が描かれている。
    こうした中で、マニフェストを中心に据え、禁煙条例や多選禁止条例などを成立させていった。
    特に200万票を獲得した2期目は益々その威力を発揮した。
    同じ無党派知事の三重県の北川知事や鳥取県の片山知事などがもマニフェストを掲げており、明確な与党を持たない無党派知事が政策を推進するためには、マニフェストが一定の効果を発揮したことが認められる。
    民主党の失策によりマニフェストは国民の評価を失ったが、首長、特に与党を持たない無党派首長が政策を推進するためには有効な方法であると論じている。
    松沢は県政の改革において一定の成果を残したが。リーダーシップは上滑りし、構造的マネージメントの弱さがあり政策、施策レベルのマネージメントが欠けていたと指摘している。
    特に職員組織は若干の意識の変化は見られたものの、基本的に変化は見られなかった。
    知事が実践した現地現場主義も職員には浸透しなかったと指摘している。
    後半の自治体政権論では前半の議論を踏まえて、いくつかの問題の定義を行なっている。
    まず、公務員組織については、保守本流の人事制度で管理畑優先で成果主義への拒否反応を示し手続第一主義、内部評価重視、事務処理型発想、組織調和、集団主義などを指摘して、凡庸さの単純再生産が行われているという辛辣な言葉で批判している。
    また議会関係については、曽我、待鳥が「日本の地方政治」で指摘した、首長と議会の選挙制度の違いがあることにより、それぞれが代表する世論(首長は包括的な利益を代表し、議会は個別的な利益を代表している)に捩れが生じることを批判的に捉え、選挙制度の改善を主張している。
    また、天川モデルを想起させる知事などの政策や特徴に関するマトリックス分析は参考になる。
    これによれば松沢知事はトップダウンの反対多数で対立、大将型と分類されている。

    本書は今後の自治体への提言を含めた、地方自治体における優れた参与観察である。



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著者プロフィール

中央大学教授

「2011年 『自治体政策法務』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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