想定外 なぜ物事は思わぬところでうまくいくのか

  • ディスカヴァー・トゥエンティワン
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784799312803

作品紹介・あらすじ

この世界の現実が間違っているのではない以上、われわれの抱く合理性に対する考え方が間違っているのかもしれない。どうやって意思決定をするのか、どうやって問題を解決するのか。この課題を考え直してみる必要があるだろう。英国最高のエコノミストが語る意思決定のパラドックス。

感想・レビュー・書評

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  •  元は、イギリスのエコノミスト、ジョン・ケイ氏のコラム。ちょっとシニカルに突き放した感じがイギリス人らしいかな、とも。結構なボリュームでしたが、論旨の背景を読み解くのも楽しく、じっくりと読み浸ってしまいました。実は、読書会で知り合った方の旦那様が翻訳をされた一冊で、書評まで依頼されてしまいました、、大変恐縮ですが感謝!<(_ _)>

     さて、訳者・青木さんが後書で記載されている「イマージョン」との読み方が印象的で、ご自身も世界に「浸る」からこそ、その結果紡ぎだされてくる言葉たちにもリアリティを感じることができるのでしょうか。「ビジネスでの経験を基礎に、原文の内容を理解し、それを日本語に書き直す」と仰っている理由が、なんとなく伝わってきたような。

     ジョン氏が題材にしている実例も豊富かつ身近なのですが、ここに本田技研で世界を股にかけて活躍されている青木さんご自身のバックボーンも投影されているように思いました。これは、並行して読んでいた『ずるい!?』でも感じたのですが、歴史や文化的背景などをベースとしたその国々の「エトス」にまでせまるかのような読み方を、刺激されたような気がします。

     「成功者の話など、あと知恵だ」「現場は試行錯誤の連続である」「情報はゆがめられるのが常」と言うジョン氏の「答えが突然姿を現すという恩恵に浴せるのは、長い間、回り道をたどりながら考え続けた人間だけ」とは、ビジネスだけではなく「思考」の本質を突いていると感じました。これは「セレンディピティ」とも言われる情報収集の手段ともリンクし、潜在的に必要としている情報をいかに効率的に収集していけるのか、またどうやって提供していけるのか、といった視座が必要だともあらためて。

     そして「大衆は「情報に限りがある」と言うキツネより、内容は空虚でも、「私の予想は必ず当たる」と叫ぶハリネズミを好む」と、政治でいうポピュリズムの本質を突いた言葉、日本でいえばまさしく、この失われた3年間(2009-2012年)を読み解くのにわかりやすい例えだと思いました、ん、本当の意味での「情報リテラシー教育」の基盤整備が急務だなぁ、とも。

     また「社会組織は環境適合のくり返しにより発生する」とは、『「常識」としての保守主義』でも述べられていましたが、事前に決められた指標に固執するのではなく、「変転する現実」に適応していくこと、なのでしょう、そういった意味では「回り道は、検証と発見のプロセス」はスルッと入ってきました。

     事前に仮説を立てるのは大事ですが、常に変わってゆく現実と向き合いながら、その仮説を変えていく視座を忘れてはいけないのだと、感じます。この辺り、昨今の一元的な風潮を正しいとしているヒトビトに問いかけてみたい。多様性こそ人の本質であり、進歩していくための糧ではないのでしょうか、と。

     そういった意味で「不確実な環境下では、常に一定なものなど結局は想像の産物」ともシニカルですが、本質をとらえているかなと、まがりなりにも歴史を学んだ身としては強く共感できました。

     その時、その時代、その組織において、「法の支配」は大前提であっても、「法」の内容が実情とズレるのであれば、「法(ルール)」を変えるのもまた大前提ということでしょうか、そこを混同してしまうと、本質を見失ってしまうのではないかとの、警鐘でもあるのかなと思います。

     ん、経済を切り口とした論旨の展開となっていますが、人の営みについてあらためて考えさせられた一冊になりました。また「法治」というプリンシプル(原理、原則)を大事にした上で、主導権をとってルールを変えていきましょう、とは、同じくいただいた『ずるい!?』でも述べられていて、なるほど、と。

     そして「どちらも答えを知りたくない疑問については考えず、そのまま突っ走ってしまった」とは、カエサルの「人は見たいものしか見ない」と通じ、いろいろと自身でも注意していかないといけないな、と、なんて。

  • フランクリンの言い訳とか、色々あったけど、結果に至るまでのプロセスは必ずしも合理的ではないし、一見合理的ではなさそうに見える過程であってもより良い結果に辿り着くことがあると。むしろ非合理的なプロセス、つまり回り道こそが、想定外のよき結果を生むことがあると。
    この本を一言で言い表すなら、終わり良ければすべて良しというところか。

  • 経営論のエッセイ集、直接的なアプローチと間接的なアプローチ

  • 色々と社会の「法則」について書かれているのが結構参考になった。
    「フランクリンの言い訳(すでに結論が決まっていることに対して、ストーリーやデータを合わせていくこと)」は、まさにありふれていると思う。

  • ビジネスであれプライベートであれ、目的や目標の設定、実行計画の構築といった直接的な意思決定アプローチが必須とされる風潮に、と著者は「そうじゃないよ」と一石を投じる。意思決定に科学があるのであれば人の出す結論はすべて同じであり問題は解決されるはずだが、現実はそうではない。回り道的な意思決定のアプローチの優位性を著者は説く。具体的に言えば 1.様々な角度から何度も考える 2.身のすくむような困難に直面したらとにかく何かに手を付けてみる。 3.複数のモデルで判断する。判断力はそれらの訓練・経験によってのみ向上する。考えているだけでは物事は何も解決しない、と自分は理解した。耳が痛い。

  • 目的に直接的に向かうのではなく、無意識のうちに取り組みやがて達成してしまうというプロセスである回り道が重要
    利益獲得の道はまさに回り道であり、意義があると考えた目的を追求した結果
    複雑な問題を回り道的なやりかたで解決するには、未来に横たわる目的の解釈、達成途上に置く目標の実現、基礎となる行動の実践の三つをうまく繋げる必要がある
    ベストな結果とは、同じことの繰り返しや環境への適応でしかない

  • ディシジョンメイキングに関するモデルは最大化モデルと満足化モデルにおおきくわけられますが、本書はこれらをそれぞれ直接の考え方と回り道的考え方として解説しています。そして、複雑で環境変化が激しく、不確実性の高い問題がほとんどである以上、回り道的考え方による意思決定をせざるを得にないと説明しています。稚拙ですが、ハイブリッドな考え方でいけば最良かと結論づけました。

  • 「回り道をしても案外上手く行く」ということが書かれています。
    何事も効率的に最短でやれるに越したことはないのですが、
    その様な進め方をすると何かと綻びが出てきます。
    自分がイメージしたのは急速に経済を発展させた日本が現状
    精神的な面で様々な綻びが出ていることです(最近のニュースを見ていると特に感じます)。
    もちろん人生は有限のため、時間の概念を無視して考えることは難しいですが、一度立ち止まって自分やってきたことの方向性を見つめ直す必要はあると思わせてくれた一冊です。

  • 分析的・論理的に過ぎる「科学的」アプローチに疑問を呈する、というか反発する、嫌悪をあらわにする、経営コンサルの懊悩、告解を聞いているようで、大変ですねえ、という気持ち。

  • 内容は想定内。
    あまり露骨なのはよくないうということだと思う。

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著者プロフィール

ジョン・ケイ(John Kay)
イギリスを代表する経済学者のひとりであり、現在はオックスフォード大学セント・ジョンズ・カレッジ・フェロー。フィナンシャルタイムズ紙に長年コラムを執筆し、イギリス政府の依頼により証券市場改革案(ケイ・レビュー)をまとめたことでも知られる。財政政策研究所ディレクター等歴任。著書に『金融に未来はあるか』(ダイヤモンド社、2017年)、『世界最強のエコノミストが教える お金を増やす一番知的なやり方』(ダイヤモンド社、2018年)など。

「2023年 『強欲資本主義は死んだ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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