いつまでもショパン (『このミス』大賞シリーズ)

著者 :
  • 宝島社
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  • Amazon.co.jp ・本 (325ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784800205513

作品紹介・あらすじ

ポーランドで行なわれるショパン・コンクールの会場で、殺人事件が発生した。遺体は、手の指10本が全て切り取られるという奇怪なものだった。コンクールに出場するため会場に居合わせたピアニスト・岬洋介は、取り調べを受けながらも鋭い洞察力で殺害現場を密かに検証していた。さらには世界的テロリスト・通称"ピアニスト"がワルシャワに潜伏しているという情報を得る。そんな折、会場周辺でテロが多発し…。

感想・レビュー・書評

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  • この作品にショパンコンクールのファイナリストとして登場する
    全盲の日本人ピアニストのモデルとなった辻井信行さんを
    在学されていた音楽高校の文化祭でお見かけしたことがあります。
    ステージではなく、狭い教室で。

    あるクラスが催した音楽喫茶でのことでした。
    教室いっぱいに並べられた机と椅子。
    教室備えつけのピアノは、もちろんグランドピアノなんかじゃなくて
    かなり年季の入ったアップライト。
    そしてそのピアノでショパンのエチュードを奏でていたのは
    辻井さんではなくて1学年下の女の子でした。
    そう、辻井さんは下級生の演奏を聴きに来ていたのです。

    辻井さんの演奏は、それまでもTVや演奏会で何度か聴いて感銘を受けていましたが
    この時ほど感動したことはありません。
    だって、全身で音楽を感じていたのです。 草花がおひさまの光を浴びるように。

    フレーズの切れ目で、演奏者と一緒に深く息を吸い込む。
    ハーモニーの余韻を残したいところで、思わずそこにはないペダルを踏む。
    高音へと駆け上がるパッセージと一緒に身体が椅子からふっと浮き上がる。
    音楽を聴くよろこびを凝縮したかのような、あの数分が忘れられません。

    この本の主人公ヤンががんじがらめになっていた「ポーランドのショパン」に代表されるように
    クラシック音楽を演奏するにあたって、音楽史や作品の背景を学ぶことは必須で
    「正統な」音楽を継承することこそが使命と信じて、今この時も
    必死に指を動かしたり、厳しく指導したりしている音楽家がたくさんいることでしょう。

    でも、難しい音楽理論で武装しなくても
    人と人とのつながりの中で育まれた感情から生まれた音色に
    一度でも心を動かされたことがあるひとなら
    この物語の終盤、岬先生によって奏でられるノクターンを
    おとぎ話と切り捨てることはできないと思うのです。

    『さよならドビュッシー』・『おやすみラフマニノフ』で
    岬先生に救われた人たちが立ち直った姿を見せてくれるのだけでもうれしいのに
    今度は、言葉を交わしたこともない見知らぬ誰かを、音楽の力で救ってしまう岬先生。
    やっぱり素敵です!

    • まろんさん
      あやこさん☆

      あのシーン、もう、号泣でした!
      「ええっ、まさかのここで発作が?!あんまりだー!」と
      作者の中山さんに抗議文でも送りつけたく...
      あやこさん☆

      あのシーン、もう、号泣でした!
      「ええっ、まさかのここで発作が?!あんまりだー!」と
      作者の中山さんに抗議文でも送りつけたくなる勢いの中で
      静かに静かに始まる、ノクターンのメロディ。
      たった数日を一緒に過ごした少女の鎮魂のために、思いを込めて奏でられた一曲が
      殺気だった人々の心を静め、いくつもの命を救う。

      この本を含め、4冊のドビュッシーシリーズの中で岬先生を追いかけて来たファンにとっては
      おとぎ話でもなんでもなくて、うんうん、納得!
      っていうか、こうでなくちゃ♪ というラストシーンでしたね(*'-')フフ♪
      2013/06/25
    • koshoujiさん
      こんにちは。
      両肩とも五十肩になってしまい、PCのキーを打つのさえ億劫で途方に暮れている私です……。
      この作品も素敵でしたが、それ以上に...
      こんにちは。
      両肩とも五十肩になってしまい、PCのキーを打つのさえ億劫で途方に暮れている私です……。
      この作品も素敵でしたが、それ以上にこのまろんさんのレビューが素敵ですね。
      2013/06/25
    • まろんさん
      kochoujiさん☆

      ええっ!両肩ともって、大変ですね。。。
      父が教員時代、五十肩で苦しんで
      チョークを持つ右手を、左手で支えて板書して...
      kochoujiさん☆

      ええっ!両肩ともって、大変ですね。。。
      父が教員時代、五十肩で苦しんで
      チョークを持つ右手を、左手で支えて板書してるんだ、
      とこぼしていたのを思い出します。
      片方だけでも大変なのに、両方だなんて。。。
      どうぞお大事になさってくださいね。

      それ以上に、だなんてもったいないお言葉をありがとうございます。
      中山さんの文章って、他の作品でkoshoujiさんが書いていらっしゃるように
      固い熟語が多くて、う~んと思うことも多いのですが
      音楽の描写となると、俄然生き生きと輝きますよね!
      岬先生は私の憧れの人で
      あんなふうにはぜったいに弾けないけれど
      生徒の心をふくらませるような、あんな素敵なレッスンができたらいいなと思いながら
      日々、生徒を迎えています。
      2013/06/25
  • 岬洋介シリーズ...今回は、ショパン。
    いつも演奏中の描写には惹き込まれます。

    岬先生がノクターンを演奏したシーンは、泣けました。やっぱり音楽って人を動かすんだなぁ。

    お前は護られている...でテロリストである[ピアニスト]がわかってしまいましたが、それでも話の先が気になって一気読みでした。

  • 岬洋介シリーズ第3弾。今作の主人公はポーランド人のピアニスト、ヤン・ステファンス。ポーランドで開催されるショパンコンクールにコンテステントとして、ヤンとともに岬洋介も出場します。コンクールの最中、会場で警察官が殺害される事件及びテロ事件が発生し、その解決に岬洋介が活躍します。
    ショパンコンクールという特別な場でのコンテスタントそれぞれの緊張感とその演奏の様子が文章で感じられるって、すごいことだと思いました!ヤンが他のコンテスタントの演奏や会話を通してますます成長し、頼もしく感じました。今後のシリーズにヤンのことがちらっと出てきたら嬉しいな~と期待します。そして今作も岬洋介さん、いいですね~ますます好きになりました(^^)

  • ショパンコンクール会場で殺人事件が!
    テロ事件も続き不穏な空気の中コンクールは継続され...

    相変わらずの演奏描写に引き込まれ、途中からショパン聴きながら読んでました笑

    ちょいちょい知ってる人たちも出てきたりします。
    いろんな要素があって面白かったです。

  • 岬洋介シリーズ第3作目

    5年に一度開催される「ショパンコンクール」の一次予選出場者の中に、岬洋介の姿が有った。

    他に、入賞候補者として、日本から参加の盲目の榊場隆平、アメリカから参加の軍人家族の次男エドワード・オルソン、そして、ポーランドの、四代続いた音楽家に生まれた、ヤン・ステファンがいた。
    ヤンの父親、ヴイトルドは、息子のヤンが、ショパンコンクールで優勝する事に取り憑かれていた。
    ヤンは、家名復興の道具でしかなかった。

    そんな中、コンクールの最中に、殺人事件が勃発した。被害者は、10本指の第二関節から、切り落とされていた。
    同時に、市内での無差別テロが、複数回発生。犯人は別名《ピアニスト》と呼ばれていた。

    国家警察当局は、更なる事件の続発を予想して、コンクールの中止を求めるが、
    審査委員長のカミンスキの熱い委員会声明は、多くの国民に支持され、世論に押される形で、コンクールは、続行を認められた。

    テロによる恐怖と闘いながら、コンテストは、一次、二次、ファイナルと進んでいく。

    《ピアニスト》の意外な正体も、岬洋介により、明かされる。

    親から「ポーランドのショパン」を継承しポーランドの音楽界を牽引する者は、ステファンス一族以外にあってはならんのだ!と言われ続け、それに反発していた、ヤンが、コンテスタンツの演奏を見て聴いて、段々と、殻を破って、成長していく様が描かれている。

    岬洋介が、ファイナルの舞台上で、突発性難聴の発作を起こし、演奏を続けられなくなった後、ノクターン第二番変ホ長調を弾いた時、何故、瀕死の状態で課題曲でもない曲を弾いたのか、理由がわかった時は、泣かされた。

    その血の出るような悔恨の籠った演奏が、戦場に流れた時、いつのまにか、銃声と砲弾の音が聞こえなくなっていた。

    ヤンの父親ヴィトルドが、かつてヤンに、「お前がピアノを弾いて戦争が終わるのか。お前には、悲しむよりも祈るよりも前にすることがある」と言ったことがあったが、岬洋介の弾くピアノには、そんな力があるのかも。

    前作、全々作の登場人物が、ちょろっと出てくるのも、おきまり。

    読後、離れがたい作品。

  • 音楽を言語化するというのはかなり至難の業だと思うのだが、中山七里氏はそれを見事にやってのけたことに驚嘆した。

    これまで読んだ彼の作品は、どうにも所々の表現や台詞、言い回しが大時代すぎて、物語に入り込めずに断念したのだが、この作品は違った。

    ショパンコンクールに出場するそれぞれの弾き手のキャラクターもしっかり書き分けられているし、主人公である地元ポーランド人のヤンの心情描写も見事だ。

    冒頭に書いたように、何よりピアノの旋律の表現をこれほど的確な言葉を使いながら心に伝わるものにする日本語表現には恐れ入ったと言わざるを得ない。

    ミステリーとしては、さほど念入りな伏線を張った作品という気がしないが、この音楽表現だけでも一読に値する。
    うーん。他の作品(スタートとかヒートアップとか)では、どうしてあれほど陳腐な表現にうんざりしてしまうのだろう、不思議だ。
    音楽関係作品以外の彼の日本語には違和感を覚えるので、とりあえず岬洋介シリーズの
    「さよならドビュッシー」「おやすみラフマニノフ」はチャレンジしてみよう。

  • 国外のショパン国際ピアノコンクールが舞台。
    ヤン視点で、物語は進んでいき、人としての成長や感情の動きがあって、よかった。
    岬はやっぱりいい。推理を語らないけど、ピアノを通して、伝えていくのが素敵。
    テロの怖さと、音楽の力を伝えてくれている。
    前作の2人も少しその後がみえてよかった。

  • 今までのシリーズの中で、スケールが大きく舞台も海外になって、起こる事件もどんどん大きくなっていて、飲み込まれるように読んだ。
    今までの身近な事件というより、国際平和にも繋がる話だから、いきなりスケールが大きくなって少しついていくのが難しい気もした…。

    それでも、お馴染みの岬さんはコンクールにおいても人との勝敗にこだわらず、相手を評価するだけじゃなくて、背中を押すようなことができるのって、人として格好良いなと思った。

  •  今回の舞台は、ポーランド。あの伝統のショパンコンクールです。

     ショパンの、エチュード、ノクターン、ソナタ、協奏曲、これを奏でる描写を丁寧に丁寧に書き上げていく中山さんの筆力が素晴らしい。
     私は、ネットでショパンを検索しまくって、曲を聴きまくりながら読みました。ものすごい臨場感。私もコンクールの観客になった気分だった。


     そして、今回は、第1作と第2作の主役二人も登場。ルシアが再登場してるのは嬉しかった。彼女がまた、ドビュッシー弾くところが見たいです。


     最後に岬先生が決勝で弾いたのが、曲目にはなかったショパンのノクターン第2番変ホ長調。これは、私も弾いたことがあります、岬先生!!
     突発性難聴の発作が起きる中、演奏をやめずに曲を変え、テロで犠牲になった少女のためにノクターンを奏でる岬先生。
     なんて素敵なんだ。


     音楽の持つ力、文章の持つ力。
     この作品は、2つの素晴らしい力を同時に味わうことのできる、本当に素晴らしい作品だ。


     いつも冷静でクール、だけど熱い情熱を持つ岬先生に、ブラヴォー!!!

  • クラシック音楽シリーズは個人的好み。何せショパンコンクールが舞台で、コンテスタントの演奏シーンがふんだんにあり、映像ではなく、文章で示すとなると、相当に手強い。かなりの音楽通にはどうかわからぬが、私程度の音楽好き読者には十分楽しめる。

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著者プロフィール

1961年岐阜県生まれ。『さよならドビュッシー』で第8回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2010年にデビュー。2011年刊行の『贖罪の奏鳴曲(ルビ:ソナタ)』が各誌紙で話題になる。本作は『贖罪の奏鳴曲(ソナタ)』『追憶の夜想曲(ノクターン)』『恩讐の鎮魂曲(レクイエム)』『悪徳の輪舞曲(ロンド)』から続く「御子柴弁護士」シリーズの第5作目。本シリーズは「悪魔の弁護人・御子柴礼司~贖罪の奏鳴曲~(ソナタ)」としてドラマ化。他著に『銀齢探偵社 静おばあちゃんと要介護探偵2』『能面検事の奮迅』『鑑定人 氏家京太郎』『人面島』『棘の家』『ヒポクラテスの悔恨』『嗤う淑女二人』『作家刑事毒島の嘲笑』『護られなかった者たちへ』など多数ある。


「2023年 『復讐の協奏曲』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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