時間ループ物語論

著者 :
  • 洋泉社
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感想 : 23
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  • Amazon.co.jp ・本 (287ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784800300188

作品紹介・あらすじ

『涼宮ハルヒの憂鬱』から『ファウスト』、浦島太郎伝説、夏目漱石『それから』まで。絶望の国を生き抜くための白熱講義全12講。

感想・レビュー・書評

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  • 面白い作品をただ語り合う、だけではなく、学問に昇華しなくてはいけない「先生」というのは大変だなと思う。時間ループものは大好きなので、一覧にまとめたサイトは収穫。

  • こんなにあるぞ、時間ループSF

    ほら、「時間ループもの」ってよくありますよね? 登場人物が同じ時間を何度も何度も繰り返してしまうって話。
     よくありますよね、と言いましたが、実は日本でこんなに増えたのは、ここ20年ぐらいのこと。それまでも活字SFの世界ではちょくちょく使われていたアイデアではあるんですが。
     ちなみに僕が知る限り最も古い時間ループものは、リチャード・R・スミス「倦怠の檻」。書かれたのは1958年。火星人の宝石を奪った男が、無限に繰り返される10分間に閉じこめられる。何かしようとあがくものの、たった10分ではほとんど何もできない。その宝石は人間を時間の檻に閉じこめ、記憶の重みによってしだいに押し潰されてゆく拷問道具だった……という話。
     ただ、この「倦怠の檻」、日本では1958年にアンソロジーに一度収録されたきり、ほぼ忘れられた話なんですよね。時間ループというアイデアが再発見されたのは、やはりケン・グリムウッドの『リプレイ』(新潮文庫)が1990年に訳されたことが大きいと思います。1988年に死んだ男が、目が覚めると1963年に戻っていて、それからも死ぬたびに人生をやり直すという話。絶望しかなかった「倦怠の檻」に比べると、試行錯誤を繰り返すことで状況が良くなってゆくという希望がある展開でした。
     日本でもその影響を受け、主人公が人生をやり直すという話がずいぶん書かれました。最近ではアニメにもなった長月達平『Re:ゼロから始める異世界生活』(MF文庫J)なんてのがありますね。
     さて、時間ループものには他にどんな作品があるんでしょうか? それを知ることができるのが浅羽通明『時間ループ物語論 成長しない時代を生きる』(洋泉社)という本。
     これには感心させられました。浅羽さん、よくこんだけ読んだなと。
     いきなり恒川光太郎「秋の牢獄」というマイナーな作品の紹介からはじまり、先に紹介した「倦怠の檻」や『リプレイ』はもちろん、『ターン』『リセット』『七回死んだ男』『All You Need Is Kill』「しばし天の祝福より遠ざかり」「逃がしどめ」「秒読み」「第十時ラウンド」などの小説(作者名がすべて言えたら偉い)、マンガでは『はるかリフレイン』『永遠の夜に向かって』「金曜の夜の集会」、映像作品では、『恋はデジャ・ヴ』『ミッション:8ミニッツ』『未来の想い出』『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』『涼宮ハルヒの憂鬱/エンドレス・エイト』『魔法少女まどか☆マギカ』『ひぐらしのなく頃に』……などなど、思いつく限りのあらゆる作品が取り上げられていて、時間ループもののカタログとして楽しめます。僕も知らなかった作品も何作も。
     ついには『涼宮ハルヒの憂鬱』の二次創作作品まで取り上げます! 突然、拙著『トンデモ本? 違う、SFだ!』(洋泉社)からの引用が出てきたのにもびっくりしましたが。
     その膨大なデータを基に論を展開していくんですが、他の評論家の解釈を批判してたり、『「時間ループ物語論」論』にもなってます。
     さらに時間ループもののルーツをさかのぼるんですが、落語の夢オチと時間ループものの類似というのは、ちょっと意表を突かれました。確かに、ループの外にいる人から見れば、主人公が自分の体験を話しても、「そりゃ夢だろ」としか思えませんからね。あと、日本各地に伝わる浦島太郎伝説を紹介した後で、急に『銀河鉄道999』の話になるあたりはエキサイティング。
     もちろん、評論だから必ずしもこの解釈で正解ではないんでしょうが、面白いのは確かです。この手の話が好きな人にはおすすめ。

  • 《目次》
    ◇第一講:オリエンテーション
     恒川光太郎「秋の牢獄」精読――ユートピアに囚われて

    ◇第二講:時間ループ物語とは何か(1)
     未来喪失という拷問――「エンドレスエイト」ほか

    ◇第三講:時間ループ物語とは何か(2)
     猶予された時間の生き方――『恋はデジャ・ヴ』ほか

    ◇第四講:時間ループ物語とは何か(3)
     ゲーム的試行錯誤の世界――『ひぐらしが鳴く頃に』ほか

    ◇第五講:時間ループ物語とは何か(4)
     悦楽の時間よ、永遠に――『うる星やつら2 ビューティフルドリーマー』ほか

    ◇第六講:世代対立の不毛を超えて
     コンテンツ批評の時間ループ物語論へ物申す――『不可能性の時代』ほか

    ◇第七講:ループものの起源をさかのぼる(1)
     人生時間の伸縮――『ファウスト』、輪廻転生、さまよえるユダヤ人ほか

    ◇第八講:ループものの起源をさかのぼる(2)
     予知と夢落ち――『フラッシュ・フォワード』「鼠穴」「芝浜」「夢金」ほか

    ◇第九講:ループものの起源をさかのぼる(3)
     物語の迷宮と時間の近代化――「デス博士の島のその他の物語」「毒入りチョコレート事件」「時間の比較社会学」ほか

    ◇第十講:ループものの起源をさかのぼる(4)
     浦島太郎伝説とユートピアの陥穽――『母系社会日本の起源』『銀河鉄道999』『夢十夜』ほか

    ◇第十一講:大先達に学ぶサバイバル法
     高等遊民の愉悦と不安――『三四郎』『それから』『一握の砂』ほか

    ◇第十二講:ループの時代を超えてゆくために
     平成ユートピアの囚われ人――『けいおん!』『門』『上海バンスキング』ほか

    ・ ものがたりの力を試す――あとがきに代えて

  • 時間ループものを材料に日本社会を論じたもの。一読の価値あり。

  • 時間ループ物はアニメぐらいでしか知らないが、結構、古い作品があるのには驚いた。
    この本の面白いところは作品の検証だけではなく、何故そのような作品が生まれたか、当時の世相なども交えて検証している事だと思う。
    [more]
    まどマギを観て、ループを題材として本がないかと探していたら図書館で見つけて読んだが、予想していた以上に濃い内容だった。
    実際のループ物の系統分類に始まり、二次創作や現実の社会の状況も交えての解説は中々に読み応えがあった。自分が漫画、小説を読む時はそこまで深く考えないから新鮮だったな。
    まあ、今後も深く考えて読む事はないだろうけど、少しは深く考えられるかな?

  • 評論

  • 浦島太郎フォーマットが、実はまともな奴が多い(さう言へば安倍晴明も竜宮で修行してゐたのであった)といふか、アレは最下層だったといふ指摘は、はー。
     生活系と日常系のメルクマール(目印)に、犬と猫があると言ふのは、角川版の『あずまんが大王』と『よつばと!』以降の小学館版での『あずまんが大王』の加筆部分とか、その『日常』での犬猫の描写とか、でもけっこう行けると思ふ。

  • てst

  • 時間ループものの小説、アニメ、映画を、それが読者のどのような欲求を満たしているかという視点から分類・整理するとともに、文学史、あるいは神話、昔話と言った物語の歴史の中に相対化しつつ位置づけ、それを社会反映論的な見地からではなく、生き方を考える際のツールとして読むことを提起している。新旧の時間ループものの紹介としても面白い。ただ、最後の章での、時間ループ物語をツールとして提起されるこれからの日本での生き方は、シンプルライフやエコのようなもので、若干落胆させられる。これも、「だったら、読者のあなたが自分でこのツールを使って考えなさい」ということかもしれないが。

  • 構成についてはざっと次のような感じ。
    前半→「時間ループ」という大雑把なテーマをさらに類型別に分類して作品をあれこれ挙げていく。
    中盤→時間ループという題材がいつ頃から生まれたかを考える。
    後半→時間ループというテーマに含められた願望や選択、結末を踏まえたうえで「我々はどうするか」を問い直す。

    とても面白かった。モラトリアム願望全開な優柔不断ヤローにはうってつけの本だと思う。
    大学の講義を元にまとめたものらしく、砕けた話し言葉で分かりやすいのが何より良い。校正はほとんどしてないというのは、まあ、そうなのだろうなあという感じのグダグダ感はある。

    例としてかなりの作品が(本・映画・古典・ゲーム・アニメ問わず)挙げられているから、それらの文献のまとめが欲しかった。
    時間ループというのがそもそも物語の根幹を為す大きな素材であるからして、引き合いに出すと必然的にネタバレになってしまうところも痛い。
    初めてタイトルを知って、面白そうだなと思った作品も、おいしいところが結構ぶちまけられてしまっていた。今後も読む(見る)ことはないだろうなあ…。

    ループ話の類型は大きく分けて二つに分類されていた。
    (1)昔からある、老いor死or負傷or処女喪失などの現象だけ限定的巻き戻しループ。
    (2)近代になって生まれた、時間まるごと過去へ巻き戻しループ。

    なぜ2番目の類型はこれだけ遅くなってようやく発生したのかというと、そ
    れは人間の時間意識に関係しているという。

    農作業や生業にまつわる現象を基準にして日々の生活を測っていた原始の状態では、抽象的時間の概念が生まれようがない(『時間の比較社会学』)
    異なる共同体どうしで交易するようになってようやく、最大公約数的な時間の単位が意識されるようになり、さらには機械時計の登場によって、俯瞰的な時間概念が意識されるようになるのだ。

    ゲームなんかでよく使われるネタは、まさに近代文明ありきなのだと実感した。

    この著では、ループ自体は否定していない。
    ループできているうちはまだ良いのだ。物語が終わらない限りは。
    しかしながら「ゲームオーバー」の惧れは何にもまして大きい。だから、そうならないためにはどうすればいいのかを、考えようとしている。

    そこで後半のキーワードとなるのが、
    (1)「現実原則」と「快楽原則」
    (2)「直線的時間」と「円環的時間」
    (3)「生活系」と「日常系」

    浦島太郎から高等遊民、そして現代の若者へと連なる「誘惑される者たち」という見方が、とても面白い。
    今やほとんどの人が、母性に溺れ退行する「永遠の少年」になる可能性を大なり小なり秘めているのだ。
    選択を間違えれば、ゲームオーバーへとまっさかさまだ。

    分岐点は必ずある。

    惰眠的ユートピアの誘惑に負けるか。
    現実的生活との接点を見失い挽回に苦しむか。
    困難な生活のなかで、何を武器にするか。

    …これはなかなかにスリリングな展開だ。

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著者プロフィール

浅羽 通明(あさば・みちあき):1959年、神奈川県生まれ。「みえない大学本舗」主宰。著述業。81年、早稲田大学法学部卒業。著書に『ニセ学生マニュアル』三部作(徳間書店)、『大学で何を学ぶか』(幻冬舎文庫)、『『君たちはどう生きるか』集中講義』『右翼と左翼』(以上、幻冬舎新書)、『教養論ノート』(リーダーズノート新書)、『思想家志願』『天皇・反戦・日本』『昭和三十年代主義』(以上、幻冬舎)、『「反戦・脱原発リベラル」はなぜ敗北するのか』(ちくま新書)、『ナショナリズム』(ちくま文庫)、『野望としての教養』(時事通信社)、『教養としてのロースクール小論文』(早稲田経営出版)、『澁澤龍彦の時代』(青弓社)、『時間ループ物語論』(洋泉社)等がある。

「2021年 『星新一の思想 予見・冷笑・賢慮のひと』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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