戦争と浮世絵

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  • 洋泉社
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  • Amazon.co.jp ・本 (127ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784800309587

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  • 月岡芳年が彰義隊の絵も描いていると知り見て見た。
    幕末の動乱、西南戦争、日清戦争、日露戦争に分け紹介。

    <幕末>
    月岡芳年「江水 散花雪」明治7年 桜田門外の変の図  明治に入ってからのものなので、人物の名前は実名で描かれている。同じ題材の「雪中ニ大老彦根侯ヲ襲撃之図」(「衝撃の絵師月岡芳年」新人物往来社刊に所収)は人物が小さく何か現代的な雰囲気を感じたのだが、こちらは人物が曲線で重なっていて昔風。

    月岡芳年「慶応四年戌辰正月三日 城州於伏見戦争之図」明治7年  伏見奉行所にたてこもった会津藩や新撰組を薩摩郡が砲撃する図。 人物が鋭角的で現代風。

    月岡芳年「甲州勝沼駅ニ於近藤勇驍勇之図」明治7年12月 近藤勇は中央に起立し指揮をとっている。甲陽鎮撫隊と改めた新撰組は幕府直轄領の甲府を抑えるため、慶応4年3月甲府へ向かう。手前には倒される仲間、左手には頭にかぶり物をした新政府軍。

    <彰義隊>
    月岡芳年「東叡山文殊楼焼討之図 慶応戊辰五月十五日」明治7年12月 彰義隊の本拠地である寛永寺での戦闘場面。常行堂と法華堂を結ぶ渡殿を大きく手前に描き、渡殿の上と下で戦いが繰り広げられる。

    <彰義隊>
    月岡芳年「東台 山王山戦争之図」明治7年 雨の中、寛永寺で銃撃戦を行う彰義隊。画面中央の近藤武雄の陣羽織の背中には血の生首の絵。

    月岡芳年「魁題百撰相」慶応4~明治2 南北朝から江戸時代の歴史上の人物を描いているが、戊辰戦争で戦った人物のイメージが重ねられている。

    月岡芳年「函館港官兵脱兵決戦之図」明治7年 新政府軍を「官兵」、旧幕府軍を「脱兵」と題名に記す。

    西南の役も何点か描いている。
    表紙:月岡芳年「鹿児嶌紀聞之内 副将村田新八討死之図」明治10年3月20日 

    また「鹿児島平定寿語録」と題する西南の役の双六の図を明治10年12月7日に描いている。薩摩軍の決起が振り出し、各戦い、城山の陥落、西郷隆盛の首実検や凱旋を経て、画面上の上がりとなる。西南戦争が明治10年2月15日から9月24日なので、終結後すぐ描いたことになる。


    幕末期の動乱は幕府によって出版を禁じられたため、かえるなどに戯画化するとか、戦国時代の合戦を描いてほのめかす、などをして風刺した。が明治になりしばらくするとほのめかす必要はなくなり、人物名や地名をそのままに描かれた。

    西南の役、明治10年頃になると、江戸からの習慣も変わった。そんな時西南の役が起こり、「報道としての戦争画」としての役割を浮世絵師たちは見出す。が戦地に赴くことはなく新聞による情報で描いた。

    月岡芳年没:明治25年、日清戦争明治27年、日露戦争明治37年。メディアの中心は浮世絵版画から写真や雑誌に写り、明治20年代には衰退が危惧されていた浮世絵版画だったが、この頃を境に浮世絵の歴史的な役割は終焉を迎えた。

    日清戦争では小林清親、田口米作などのものが紹介されているが、色も渋く見た目は日本画のように見える。また日露戦争の「帝国艦隊旅順攻撃」明治38年の図は原画が日本画家の安田靫彦。


    著者:日野原健司氏は太田記念美術館の学芸員
    監修:太田記念美術館 東邦生命保険相互会社会長を務めた五代太田清蔵(1893-1977)のコレクションを基礎として昭和55年渋谷区に開館した浮世絵専門美術館。約1万4千点のコレクション。

    2016.8.17初版 図書館

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著者プロフィール

日野原健司(ひのはら・けんじ)
慶應義塾大学大学院文学研究科前期博士課程修了。太田記念美術館主席学芸員、慶應義塾大学非常勤講師。江戸から明治にかけての浮世絵史、ならびに出版文化史を研究。太田記念美術館にて、「北斎と暁斎―奇想の漫画」、「北斎漫画―森羅万象のスケッチ」、「葛飾北斎 冨嶽三十六景―奇想のカラクリ」、「没後170 年記念 北斎―富士への道」などの展覧会を担当。著書に『ようこそ浮世絵の世界へ 英訳付』(東京美術、2015 年)、『かわいい浮世絵』(東京美術、2016 年)、『北斎 富嶽三十六景』( 岩波文庫、2019年 )など多数。

「2020年 『ようこそ北斎の世界へ 英訳付』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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