バイオアート―バイオテクノロジーは未来を救うのか。

制作 : 長谷川 愛 
  • ビー・エヌ・エヌ新社
3.23
  • (2)
  • (3)
  • (5)
  • (2)
  • (1)
本棚登録 : 119
感想 : 9
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784802510196

作品紹介・あらすじ

バイオアート。それは、生命科学やテクノロジーの進化が招く哲学的、倫理的な問題を可視化し、その是非を広く議論するための表現物です。

地球は今、新たな地質年代「人新世」に突入したと言われています。それは、10万年単位の地質年代として区分できるほどに、人間活動が地球環境に大きな影響を及ぼしているということの表れです。環境破壊、絶滅生物、異常気象、人口急増……私たちは今、数々の大きな問題に直面しています。

人間とはいったい何者なのか? テクノロジーは神なのか? そもそも文明と自然と呼ばれるものの境界はどこにあるのか?――バイオアートは、微生物、蛍光発光、遺伝子情報、コンピュータによるコーディング、画像装置などを利用して、こうした「人新世」の我々が持つアイデンティティ、自然、環境に対する倫理観をシフトさせようと挑みます。

本書は、バイオアーティスト50名の活動を紐解きます。生物自体をメディアとした表現、人間の身体に宿る無数の微生物群「マイクロバイオーム」に注目した作品、未来の可能性を思索する「スペキュラティヴ・デザイン」など、さまざまな作品手法とともに、バイオアートの役割、そしてバイオテクノロジーによってもらたされる未来について考えていきます。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 合成生物学、生態学、生殖医療など、生物や生命に関わる技術や科学を取り込んだアート活動であるバイオアートの世界を、さまざまなアーティストの作品と共に紹介した本。

    バイオサイエンスやバイオテクノロジーは産業の世界にも応用されているが、その同じ領域をアートと接続することで、我々の存在や社会と自然との関係性、生命の意味などさまざまなことを考えさせてくれる作品の世界が広がっている。


    本書のイントロダクションにおいて、21世紀におけるバイオアートの展開は、ちょうど1世紀前に起こったシュルレアリスムの展開と呼応するものがあるということが述べられている。

    生命に関するサイエンスがものすごいスピードで進化していく中で、我々自身が自己の存在や環境といったこれまで所与のものと考えていたものに対する不安や揺らぎを感じるようになっている。同様に、20世紀初頭は科学技術が第一次世界大戦において人間の個としての価値が揺らぎ、フロイト等の影響により自己の確立という概念にも揺らぎが見られた。

    このような中で多様な手法を駆使し、これまでの境界線や確立されていたと思われた存在を問いなおすシュルレアリスムのような芸術運動が生まれてきたということは、芸術のひとつの役割を新たしているという。

    バイオアートにおいても、自然と人工の境界線を問いなおしたり、生命の定義を考え直させるような作品が多く作られている。


    また、バイオアートの世界は、他の現代アートの世界と同じく、テクノロジーと作品が融合し、表現の技法が非常に多様化している。現代アートの世界では、映像技術などのようなパフォーマンス技術が非常に高度化し、またプログラミング技術の応用など、作品を生成するプロセスにおいても幅広い展開が見られている。

    バイオアートの世界でも、CRISPR/Cas9のような遺伝子編集の技術など、最先端のバイオサイエンスの技術が速やかにアート作品の制作にも応用される流れが出来ている。また多くのバイオアートの作家が、大学の生命科学の研究室でのトレーニングを受けたり、もともと科学者としてキャリアをスタートした人たちである。

    このような傾向は、現代のアートのあり方を最も象徴的に示すものとして、バイオアートの特色のひとつであると感じた。


    本書に取り上げられた作品を見てもう1つ印象的だったのが、人間と環境の関係性について、多くのバイオアーティストたちがより多様な見方を展開しているということだ。本書では現代が「人新世(Anthropocene)」であるという認識がバイオアートの作品にも多くの影響を与えているとしている。

    また後世学という考え方も紹介されており、DNAが人間の個体を形づくるだけではなく、人間の個体を取り巻く微生物叢や環境からの刺激が我々の遺伝子の発現形に影響を与えているという考え方である。

    多くのバイオアーティストの作品が、このことを積極的に、あるいは批判的に作品づくりに取り入れている。自らとその周囲の生物学的な環境が強制することをある意味では不可避のこととして取り入れ、そのあり方を可視化するような作品もあれば、このことが環境を通じて人間のあり方を操作するということに対して警鐘を鳴らすような作品もある。


    これらのように、バイオアートの世界は、人と環境の関係性や自らと他者の生命のあり方について、さまざまなことを考えさせてくれる。

    本書は、非常に多くのバイオアーティストの作品を、豊かなビジュアルと非常に的確な解説文で紹介してくれており、この領域の興味深い世界を知るうえでとても良いガイダンスになっていると思う。

  • 注目すべきは,シュルレアリスムの文脈が取り入れられていることだろう。技術が進化すれば,それだけ表現手段が増える一方で,生命倫理の境界に目を背けられなくなる。バイオアートはそこに切り込んでいく,やがてスリリングな体験になる。

  • バイオアートとは何か知るため、読みました。本書の内容を一言でいうと「バイオアートは生物学を表現メディアとして利用し、作品を通して生物学自体の意味や自然の変化に目を向けるもの」です。問題提起する作品が多数ありました。

  • 請求記号 702.06/My

  • ウィリアム・マイヤーズ「バイオアート」読了。タイトルの通りバイオテクノロジーとアートが融合した不思議で奇妙な作品が列挙されていた。本来科学では多くの制約が伴うが、アートを融合させる事で底なしの多種多様な主張や表現が形成され想像力を掻き立てられる。とても強い衝撃を受けた。

  • ・バイオアートを作るなら教科書を読み専門家の話を聞きに行く
    ・バイオアートは自然と人工という社会の基盤 文明の反転
    ・顕在化しなかった価値や機能、意識や美の表出。
    ・何をひっくり返すかがだいじ。

  • バイオアーティスト別に作品解説

  • 貸し出し状況等、詳細情報の確認は下記URLへ
    http://libsrv02.iamas.ac.jp/jhkweb_JPN/service/open_search_ex.asp?ISBN=9784802510196

全9件中 1 - 9件を表示

岩井木綿子の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
エリック・リース
リンダ グラット...
ジェームス W....
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×