ケプラー疑惑: ティコ・ブラーエの死の謎と盗まれた観測記録

  • 地人書館
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  • Amazon.co.jp ・本 (305ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784805207765

感想・レビュー・書評

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  •  ケプラーの研究はその師匠ティコ・ブラーエの観測記録に基づいて行われたということは有名な事実だ。この本はその観測記録の移譲に疑惑があるという視点で検証が行われている。
     個人的には400年以上も前の疑惑を検証したところで、ケプラーの業績に疑問を抱く余地は微塵もないと思うのだが。

     ケプラーの三法則をご存知でしょうか。
    1.惑星は太陽を一つの焦点とする楕円軌道を描く
    2.一定時間に太陽と惑星を結ぶ線分が掃く面積は常に一定
    3.惑星の公転周期の2乗は軌道の半長径の3乗に比例する
    いまではただの物理法則ですが、近代物理学の発展においてこの法則は、天上世界を地上世界と変わらない、物理法則の世界に貶める役割を果たしました。この発見をした人物が、本書の主役の一人、ヨハネス・ケプラーです。
     この法則があらわになるには、もう一人の人物の存在が必要でした。それが、もう一人の主役、ティコ・ブラーエです。いまだ天体望遠鏡の発明されないその時代に、肉眼で、40年にもわたって精密な天体観測の記録を残し続けた人物です。この記録のうち、特に火星の記録がケプラーの法則の発見に欠かせないデータだったわけですが、ここに、本書で取り上げられている火種があります。
     この本はかなりショッキングな話題を中心としています。それは、ブラーエがケプラーによって毒殺された、というものです。物理学の英雄の一人であるケプラーが殺人者であったなんて信じたくはありません。しかし、無常にも著者は、ケプラーの異常な精神を資料から明らかにしつつ、その状況証拠を固めていきます。
     ケプラーの名は物理学史に燦然と輝いていますが、ブラーエの名は脚注に載る程度です。そう考えれば、目の前にチャンスがあり、自分の才能に確信を持っていれば、データの簒奪という行動に出たことは、絶対に理解できないということではありません。
     しかし、全ては400年も昔のこと、いくら毒殺の証拠が挙がったといっても、ケプラーが犯人だなどと断定できるものではありません。著者もそう考えてか、最終的には弾劾するトーンが落ちていきます。
     著者の功績は、ケプラーの性格を自己分析や所管を元に明らかにしたこと、ブラーエの業績を表に出したことだと思います。だからこそ、25章で用いているような選択的思考によるケプラー殺人者説の状況証拠固めは、やって欲しくなかったと思いますが…

  • ティコ・ブラーエは毒殺だった、という話を軸に、ブラーエとケプラーの生涯を綴っている。ブラーエについては偏屈で癇癪もちという先入観が強かったけれど、どうもそのイメージは間違っていたような気がする。もちろん真相は藪の中ではあるけれど。こういう科学史ものがもっと増えるともっと面白いだろうなぁ。

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