あの夜、君が泣いたわけ―自閉症の子とともに生きて

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著者 : 野沢和弘
  • 中央法規出版 (2010年9月発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (198ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784805833711

あの夜、君が泣いたわけ―自閉症の子とともに生きての感想・レビュー・書評

  • 濃密な人間関係によって生まれる理解や信頼というものは、煩わしさという代償を払わないと手にいれられないもの。

    p89
    「今何してる?」「どこにいる?」「誰と?」若者たちが携帯で会話しているのを聞くと、盲ろう者のコミュニケーションに似ているなあと思う。見えない、聞こえないと、自分の周囲の最低限の情報を知りたがる。

    私たちはみんな利己的な磁場の中で生きている。知らず知らずのうちに利己的なものの考え方をしてしまうもの。それを自覚しているか自覚していないか、自覚したうえて相手に配慮しようとしているのかどうか。そこに障害者と社会の間で起きる差別の核心部があるように思う。

    外見だけでは障害があることがわからない人がいる。話し合ってもどこに障害があるかわからない人がいる。そうした人への配慮がないまま私たちは街をつくり、法律や制度をつくり、常識をつくりあげてきた。そのことによって彼らが行き難い世の中になったのだとしても私たちはそれに気づこうとしない。
    生き難い彼らが孤立し追い詰められて、ある日やってはならないことをしたとき、なぜ彼らが追い詰められていたのかを考えるよりも、彼らのしでかした行為を非難することで私たちは社会の安寧を保とうとしているのではないだろうか。彼らの障害上の言葉や行為が私たちの常識では奇異なものに感じられるために、凶悪性や猟奇性を示すものとして強調されているのではないだろうか。

    知的障害者の供述特性として、誘導や暗示に弱い、真実かどうかよりも目の前の質問者に迎合し期待される供述や態度を取りやすい、推測や仮定の話が苦手、抽象的な思考が苦手、などはよく指摘される。

    「母なる証明」韓国映画
    「うなぎ」
    アール・ブリュット

    何もしてなくても何をするかわからない連中と言うスティグマ(不名誉な社会的烙印)が精神障害者ら発達障害者や知的障害者には押されている。重度の脳性麻痺の男性が連続殺人犯を演じることができるのは、現実には彼らがそのような事件を起こさないと社会が認めているからじゃないのか。

    以下、感想
    今の自分の問題意識と重なる部分が多々あった。少し綺麗な言葉でまとめている部分が気にかかるが、知らないで生きて行くわけにはいかない内容である。
    特に、健常者の勝手なスティグマによって苦しむ障がい者が存在するという事実を忘れないでいたい。

  • いろいろな障害者のかたのお話で。。
    以前に読んだ、安富さんの本で
    社会のセンサーとしての障害者の方
    という話を思い出しました。

  • 意識的に飾られた文が鼻に付き理解を邪魔しているけれども、それさえ取り除ければ個性と客観性が両立していて活きた情報をもらえる本だと思う。
    一人一人の歪みを抑え込んだ社会の歪みによる抑圧があるからこそ人間が問題意識を自覚して活きていけるのだとも思う一方で、食うために生きている分けではないと思う。
    社会が妄想する恐怖感が押し付けてくる競いと争いと言う理不尽な過剰ストレスを省いて、大自然に添う集いを創り続けたい。

  • 【読書その105】100冊目でも著書を読んだ毎日新聞論説委員の野沢和宏氏の本。野沢氏には知的障害と自閉症を持つお子さんがいる。障害を持つ子供の親の立場から書いた文章は、本当に一言一言が重く、心を激しく揺さぶられる。時折、涙ぐみながら読んだ。たくさん思うことがあり、色々ありすぎて、本書全体の感想をうまくまとめきれないが、心に残った2つを紹介したい。
    1つ目は、野沢氏が紹介した柔道家の山下泰裕氏の話。柔道界の伝説的なヒーローである山下氏。自分自身も知らなかったが、彼には自閉症のお子さんがいるという。その子供の存在が、山下氏の生き方、見方を変えた。その子供は人とコミュニケーションを取るのが大の苦手。しかし、大変親切で正直で嘘がつけない。人に喜んでもらうことが大好き。彼が考えていることや気持ちはいつも表情に出る。その子の存在が、山下氏に相手の立場にたって考えること、弱い立場、ハンディを背負っている人について考える大切さを気づかせてくれたという。山下氏は、「人間誰しも素晴らしいところ、足りないところがあり、誰ひとり、自分の力だけでひとり生きていけない。我々は、お互いを支えながら生きている。障害をもった人と接し行動することが、我々に、我々が持っていながら、しかし、いまの競争社会の中で失いかけている優しさや思いやりの心を呼び起こしてくれる」という。これを読んで本当に感動した。そのとおりだと思った。
    もう一つは、「自立」についての野沢氏の問いかけ。何もかも自分の力でできることが自立なのか。あらゆることを完璧に自分一人でできる人はいない。できないこと認め合い、できないと勇気を持って言えること、SOSを聞いたらすぐに手を差し伸べてくれる人が近くにいること。それが群れをつくってしか生きていけない人間という生き物にとっての「自立」ではないかという。非常に根源的な問いかけである。それは障害者福祉だけの世界だけではない、普遍的な問いかけである。

  • 野沢さんの本はこれまでいくつか読んでいる(『シカゴの夜から六本木の朝まで』とか『わかりやすさの本質』とか)。野沢さんはPandA-Jの編集長でもあり、Sプランニングの本もいくつか(ちょうど図書館の相貸で『親』が届いたところ)。毎日新聞の人なので、署名記事も読んだことがある。

    昨日ぶらぶらと図書館の棚を見ていたら、野沢さんのこの本があって、こんなん出てたんやと借りてきた。新聞や雑誌に書いたものや書きおろしをまとめた本だという。

    帰ってきてちょっと読んでみたら、そのまま最後まで読んでしまった。はっと気づいたところ、大笑いしたところ、私がこれまでに会ったことのある自閉症の人の顔を思い出しながら読んだところ、そんなこともあるのかと初めて知ったこと…。

    「チョコレート」の話、それと通学路にある青果店の話がとくによかった。養護学校へ向かう住宅街の入り口に店を構えるその店のおじさん、おばさんは、「おはよう~」と声をかけ、生徒たちと挨拶をかわし、「いつも元気だねえ~」と声をかける。あるときおじさんが体調を崩して店のシャッターがしばらく下りていたとき、おじさんの病室には生徒たちの寄せ書きが飾られ、おじさんは、看護婦さんから「あら、学校の先生だったの?」と言われたと照れるのだった。

    障害者への差別をなくす条例がこの国で初めてできた千葉県で、野沢さんは条例原案をつくる研究会に加わっていた。その際の、「みなさんのための通訳でもあるのに、どうして私ばかりがいつも手話通訳を連れてこなければならないのだ」と訴えた聴覚障害の委員の発言に、野沢さんはじめ、他のほとんどの委員が首をかしげ、わからずにいた。その委員の訴えの意味が、野沢さんにも分かる場面がやってくる。シンポジストも会場の人たちも手話で話し、野沢さんだけが手話が分からず、みなが何を話しているのか皆目分からずにいた。まったく話が分からない打ち合わせの場面で、手話通訳はいないのかとあせり、本番で自分のための「手話からの音声通訳」がいる会場に入って、野沢さんは「みなさんのための通訳でもある」という訴えの意味が分かったという。

    自閉症をもつ子と生きてきて、野沢さん自身が「親」として感じたこと、たとえば青い芝の「母よ、殺すな」という訴えについて感じてきたこと、脳性まひ者から「親は嫌いだ。障害者を管理し束縛しようとする。親こそ権利侵害者だ」と言われて「障害者」といっても千差万別だなあと思ったこと、そんなことも書かれている。

    いい本だった。時間をおいて、またゆっくり読みたいと思う。

  • 装丁と題名に、まず惚れました。

  • 筆者である野沢さんと同じで私にも自閉症で言葉の無い長男がいる。現在少し離れた施設に入っており、一ヶ月に一度家に連れて帰っている。送って行く時に、施設に着いても降りようとしないが、無理やり降ろしている。泣かないので後ろめたさは少ないが、本人はどんな気持ちなのであろうか。それを考えると悲しくなってきた。きっと言いたいことはたくさんあるだろうに。
    野沢さんは親の気持ちを代弁してくれている面もあるが、時々それは親の気持ちの内面を見透かしているようでもありドキッとさせられる。一気に読みたくなる本であった。

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あの夜、君が泣いたわけ―自閉症の子とともに生きての作品紹介

自閉症の子の父として、ジャーナリストとして、著者が「障害」をめぐって出会った経験を綴る書き下ろしエッセイ集。「原風景」ともいえるわが子との出来事を回想した表題作のほか、静かで温かみ溢れる筆致のなかに、人のもつ本質的な「やさしさ」や人生における「障害」の意味、多様な人々が「ともに生きる」社会のあり方を感じさせる18編を収録。

あの夜、君が泣いたわけ―自閉症の子とともに生きてはこんな本です

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