君は一流の刑事になれ

著者 :
  • 東京法令出版
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本棚登録 : 203
感想 : 20
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  • Amazon.co.jp ・本 (328ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784809012327

作品紹介・あらすじ

このバッジが持つ、重みと、プライドと-次世代に伝えたい渾身のプロフェッショナル論。

感想・レビュー・書評

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  • 刑事の経験をした著者による、経験してきた事件の振り返り、体験談を失敗含めて綴ることで、後輩に檄を飛ばしている書籍だ。
    警察の組織は、警察庁の配下に、都道府県警察が全国に組織されている。東京都は警視庁(道府県警察本部にあたる)と呼ばれ、所轄(都内の各警察署)の警察との役割が異なっている。
    所轄警察署の刑事は、ほぼ犯人が明確にわかっている事件を扱うことが多いと聞いている。飲み屋で喧嘩して怪我を負わせた。夫婦の喧嘩で殺してしまったといったような事件だ。そして、その事件を裁判でさばくための書類作成が主な仕事になる。
    しかし、中には犯人がわからない事件も当然発生する。そのときに捜査に加わるのが警視庁刑事部の捜査第一課である。証拠、証言から犯人逮捕へつながる一つ一つを積み上げていく捜査を行う専門部隊になる。テレビドラマでもこの組織を舞台にしたものが多いのは、いろんな事件を扱える組織であり、不自然にならないからだろう。
    警視庁刑事部第一課には、いくつかの班がある。強行犯係、知能犯係、盗犯係などプロジェクトごとに分けられている。本書に組織図もあるので、そちらを参照されたし。
    この捜査の専門家が、自ら扱った事件について顛末と振り返りをし、捜査一課を目指す後輩に向けた言葉も添えられ、理想の刑事像というものも見えてくる。ちなみに、捜査一課への異動は一本釣りがほとんどと聞いたことがある。犯人がわからない事件が発生すると所轄警察と警視庁で、〇〇事件捜査本部というものが設置され合同での捜査が始まる。この場で活躍した所轄警察の人が、捜査一課にリクルートされたりするそうだ。
    捜査方法は日々変化しており、当時と現在では変わっているところも多々あると思われる。昭和という時代を感じさせる雰囲気が伝わってくる文章が私には心地よかった。殺人事件を扱う小説を書く人にも、本書はとても参考になると思った。
    日本の治安を守る第一線の警察官の心情を垣間見れる良書。

  • さすが警視庁捜査第1課長というだけあり、多種多様な部署を経験されている。著者の久保氏がどれほど熱い心を持ち、刑事という職業を愛し、全力を捧げているのかがリアルに伝わってくる。作家さんとはまた少し異なる文体も、久保氏の人柄を表しているようで親近感が湧く。成毛眞氏がおすすめしていたので手に取ったが、読んでよかったと思える良書である。事件内容から始まり、続いて結果に対する原因、教訓、という構成が素晴らしい。

    以下、本書よりお気に入りの箇所を抜粋。
    「日ごろから貪欲に知識を得る。その知識を現場に当てはめ、事件の性質を見抜く「知恵」に移行させる。」

    「1日を大切に精一杯努力しなさい。そして、次の日は更に頑張るのよ。辛くなったら両親のことを思い浮かべなさい。」寮母さんの言葉

    「声なきを聞き、形なきを見る」警察制度の創設創始者、川路利良大警視の語録「警察手眼」より

  • 生真面目さと刑事という仕事に対する誇りが伝わってくる。そんな久保氏は警視庁元捜査一課長でドラマで言うと古畑任三郎(警部補)や踊る大捜査線の室井さん(管理官/警視〜警視正)の上司で後に田園調布署、渋谷署所長を経て第七方面本部長(江東区、墨田区、葛飾区、江戸川区)になっている。高卒で警視庁に入り夜間の大学を卒業して25歳で捜査一課の巡査になったエリートというより現場の叩き上げのプロだ。そんな久保氏が若い刑事のバイブルとして書いたのがこの本で、ついでに一般の人にも刑事のファンになってもらいたいと綴っている。警察嫌いは多くても刑事はきらいじゃないはずだと。小学生のなりたい職業ランキングで警察官が6位にで漫画家や科学者よりも上になっているのだからわからなくもない。それに警察に協力する人が増えるのは本来は治安向上には良いことなのだから。

    失敗談と成功談のバランスがよくケーススタディとしてはよくできている。最後にデキる刑事の条件を挙げるあたりはビジネス書を読んでる様な感じだった。何度も繰り返されるのが「まさかの坂」、ガス偽装殺人事件では屋根裏は一応見たもののまさかここからの侵入はないだろうと思っていたら自供のあと見たら足跡=手がかりがハッキリ残っていたり、逆に女性の焼死体発見現場で念のため近くにあった布団を押収したところ証拠となる体液が発見され、しかも前科のある容疑者の昔の捜査資料にその布団の写真が残っていたりなど、地道に着実に証拠を固めていくことが難事件を解決する足がかりとなる。

    かすかに記憶がある平成2年の渋谷駅前公衆電話でのけんかで被害者が傘に左目をさされて亡くなった事件では、井の頭線に割り込んできた男の似顔絵と別の署の幹部の娘が吉祥寺の居酒屋でその似顔絵の男が事件の夜に入ってきて渋谷でけんかをして来たという話を結びつけ、居酒屋のボトルから勤め先を割り出しホシにたどりつく。しかし当然これだけではとても犯人とは言えない。現場に残った傘がこの男のもので、共犯者を割り出し、自供をさせてやっと犯人と特定できる。結局会社を張った刑事が逆に尋問を受けるという危ない橋を渡りながらもこの男が自ら出頭して来たため任意の取り調べでタイミングを見計らって「何を心配しているんだ。お前、罪を償おうとして来たんだろう」と畳掛け遂に自供を引き出した。他の取り調べの例でも自白の信憑性を落とさないように、どこまでやっていいかの線引きに注意しながら取り調べを続けた例を出している。例えば犯人の逃走を防ぐために任意の取り調べで警察の近くにホテルをとり、入り口を見張るのは当然だが、例えば同じ部屋に泊まるのはアウト、連日夜遅くまで取り調べるのも程度によってはアウトなど。まあこれは個人の力量に頼るのではなく録画するとかしないと自白の強要は防げないのでしょうが。

    章ごとに挟まれるこだわりのコラムがなかなか面白い。例えば刑事は長しゃり(そばやうどん)は捜査本部開設から最初の3日の三が日の間は食べない。長しゃりは伸びるからだ。それだけのことで捜査を外された巡査部長の話も出てくる。ビールもそうだ飲むのは真ん中にホシのマークがあるものに限る。ホシを呑め。朝日はホシをかき消し、キリンは逃げてしまいそうな気がする。一方でデカ部屋ではコップを割っても叱られない。デカのしごとはホシを割ることから始まるからだ。バカな縁起担ぎといってしまえばそれまでだが久保氏たちにとってはそこまでの心構えで事件にむかうということなのだろう。

    「スパイと公安警察」の泉氏がアイデアマンながら他の警察官をすぐバカにしていたのに対し、久保氏は部下や上司、検察官などと協力しあくまで地道で基本に戻った捜査を遵守する。時にはなってない刑事に対する苦言はあるが特に世話になった人への賞賛は惜しみない。なんだか少年ジャンプの「努力、友情、勝利」の方程式を思わせる。だからビジネス書を読んでる様な気がするのかも。

  • 【The 刑事 of 刑事】首都東京で起きた殺人、強盗などの凶悪事件を担当するのが警視庁捜査一課。警察の中の警察とも呼べるその組織の長を務めた著者が、若手の刑事に宛てた魂の指南書です。具体的な事件をモデルケースとしながら、ホシを捕まえるために必要なことをつぶさに顧みていきます。著者は、第62代警視庁捜査第一課長の久保正行。


    一級の刑事が「刑事とは何ぞや」というのを語っているのですから、面白くないはずがない。筆の先から漂う無骨さと男臭さに軽くあてられながらも、刑事の仕事とそれに懸ける誇りには素直に頭が下がる思いでした。刑事と刑事を志す者に一義的には宛てられた作品ですが、よく鑑みれば社会で働くあまねく人々のためになるのではと思える記述も多々ありますので、幅広い方にオススメしたい一冊です。


    また、具体的な教訓を引き出す上で、実際に久保氏が関わった事件にも触れられるのですが、その部分だけを切り取っても、日本社会の犯罪の多様さや、それらの犯人を追いつめていく手はずについて、非常に興味深く読めるかと思います。急激な世代交代や犯罪の多様化により、刑事の世界は試練のときを迎えているようですが、久保氏のような先達に導かれれば、まずもって大丈夫なのではないかと、一市民として(今はエジプト在住なんですが)ホッとさせていただきました。

    〜裏方に徹し、その場その場で懸命に働く、お世話になった人に恩返しを考えるようになれば、そのとき、君は一流の刑事と呼ばれるようになるでしょう。〜

    カバーのバッジは捜査一課員だけが着けることを許されているものだそうな☆5つ

  • 2010.9.17読了
    元捜査一課の刑事さんに勧められ読んだ。ますます警察小説が面白くなる。

  • 単純に、読み物として面白い。今まで警察関係の方の書かれた本はいくつか読んだけど、現場の、うそ臭くなく、経験に裏打ちされた本物。捜査や警察に興味がある人は一度は手に取って欲しい。

    刑事になりたての人は必須だと思う。ただ、読むだけでは意味がなく、実践して初めて何ぼの世界。その意味では刑事以外の仕事に通じるものがある。

  • さまざまな事件が取り上げられていて興味深い。
    捜査一課では、うどんが嫌わられ、揚げ物が好まれるなどのちょっとした小ネタも面白かった。

  • 刑事たるもの、どうあるべきかを熱く説いた本。刑事以外の仕事をしているひとにも熱さが伝わると思いました。
    ひとつ書き留めておくと、「まさか犯人がこんなところから侵入するはずがない」という「まさかの坂」を越えるべしという言葉。仕事をしている中、想定される範囲内で考えて行動してしまうと、あとで困ったことになることもある。だから、案件に相対するときは、予断せず大きく構え、そこから順次、着実に絞り込んでいくことが必要。【2021年8月27日読了】

  • ふむ

  • 最近何かと警官の不祥事を耳にしますが、我々の治安と安全のために最前線で体を張っているのも彼らです。
    その意味では、もっと身近で尊敬されるべき対象なのでしょうが、なんとなく昔の愛想のいい親しみやすさという点では少し薄れてきたのかな。

    本書では彼らの実態、といっても凶悪犯を扱う捜査1課のお話ですが、まず自分の失敗事例を最初に語るのは好感が持てました。
    凶悪犯罪者を検挙するというミスの許されない仕事だけに、捜査初期の思い込みや手抜きを戒めています。
    とはいえ、本書で書かれている基本とも思える捜査のイロハを一般読者向けでもあるとはいえ、今の警察学校での講義内容に一抹の不安を抱いてしまいます。
    現場100回という昔ながらの根性論も否定はしませんが、経験者の持つ貴重な知見の共有化が果たして行われているのか、今もなお新人警官はOJTで鍛え上げるという体育会系の現場主義が幅を利かせているのではという危惧を強く持ちました。
    例えば殺人現場で確認すべき項目とその詳細、さらにその例外となった事件の概要など、容易に座学で得られる知識と現場経験とのバランスをとりながら、迅速に捜査プロとしての目を鍛えていくことこそ大事だと思われますが、この辺の先輩刑事からの教育事情はどうなっているのでしょうか?

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著者プロフィール

久保 正行(くぼ・まさゆき)
1949年、北海道生まれ。第62代警視庁捜査第一課長。
1971年、警視庁刑事に。74年に捜査第一課に異動、以後警視正までの全階級で捜査第一課に在籍。鑑識課検視官、第1機動捜査隊隊長ほか、田園調布署長、渋谷署長などを経て、2008年2月、警視庁第七方面本部長を最後に勇退。現在、日本航空株式会社勤務。警視庁シニア・アドバイザー。著書に『現着:元捜一課長が語る捜査のすべて』(新潮文庫)、『警視庁捜査一課長の「人を見抜く」極意』(光文社新書)、『捜査一課のメモ術』(マイナビ新書)など。

「2019年 『警察官という生き方』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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