くわしすぎる教育勅語

著者 :
  • 太郎次郎社エディタス
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感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784811808321

作品紹介・あらすじ

近代日本に強烈な求心力と滅びへの道をもたらした教育勅語。
1890年のエリートたちがつくりだした「名文」には、何が書かれているのか。315字の一字一句の意味と文章の構造をあきらかにし、その来歴と遺産までを語り尽くす。ありそうでなかった、上げも下げもしない教育勅語入門。

感想・レビュー・書評

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  • くわしすぎる教育勅語

    高橋陽一著
    2019年2月20日発行
    太郎次郎社エディタス

    森友学園問題でまた有名になった「教育勅語」は、本文315文字、日付や署名などを入れると332文字(東大所蔵版)。ただし、文部省版や官報版は踊り字の「々」が2文字使われているので本文313文字らしい。
    いずれにしても、意外と短い。

    どういう意味か?
    この教育勅語について、いいとか悪いとか抜きに、徹底的に解説しているのがこの本。第1部では、まず現代語訳をしている。単語の意味はもちろん、文法に至るまで細かく。例えば、書き出しの
    「朕惟フニ、我カ皇祖皇宗、國ヲ肇ムルコト宏遠ニ」
    の部分は、「朕」は一人称、文法用語では自称、「惟フ」の主語で、明治期の日本では天皇のみが一人称として使います。「惟フニ」の惟フは動詞、ニは接続助詞で直前の同士の連体形を受けます・・・
    という具合に詳しく解説している。

    誰が作ったか?
    第2部は、教育勅語がどのように作られたか、そして、どのように使われたかなどの徹底解説。教育勅語は、明治23年に天皇、睦仁(後の明治天皇)自身が臣民に呼びかけた勅語。とはいえ、天皇自身が書いたのではなく、臣下が起草した文書を最終的に認めたもの。
    では、誰が書いたか?
    原案起草にまずあたったのは、中村正直。江戸の麻布生まれ、後の山梨大学の学長に当たる職についた経験があった。
    実際に使われたものを起草したのは、井上毅(こわし)と元田永孚(ながざね)で、どちらも熊本藩士の儒学者。井上の方が25歳ほど若く、はじめ2人は学問的に対立する立場にあったが、教育勅語については井上が草案をつくり、元田が協力して書き直しを重ねて完成させたらしい。

    公式解説書
    面白いのは、教育勅語の解説書である「勅諭衍義(えんぎ)」が政府関係者によって作られたこと。理由は、教育勅語は修身の教科書に載っていて、丸暗記させていたが、修身を教える教師はその意味を正しく知って解説できなければいけない。天皇の言葉だから間違えたら大変だ。だから、教師用に解説書をつくった。
    しかも、さらに面白いのは、解釈の一部が時代により変更されたことである。それも、もちろん公式に。ある部分について、それまでの解釈は無効とされ、新解釈が出された。天皇の言葉のはずなのに、時代とともに、都合よく変更され、利用されたわけだ。

    第2部には、そのほか、君が代斉唱や日の丸掲揚(国旗とは言ってなかったらしい)を学校でする場合のマニュアルなども紹介されていて興味深い。

    第3部は、教育勅語全文はもちろん、発布の手続きに際しての文、軍人勅諭や憲法発布勅諭など、当時の様々な公式文が資料として紹介されている。資料として価値がある。

    さて、この教育勅語、1948年に、衆議院、参議院、それぞれの決議で無効とされた。衆議院の決議は、教育勅語が基本的人権や国際信義の観点から問題だとも指摘している。
    国会が問題だからもう使うな、無効だと決めたものを森友学園では使っているし、一部の政治家は賞賛している。ネトウヨの皆さんは、なぜ彼等を「反日」「売国奴」と批難しないのだろうか?

  • タイトルの「くわしすぎる」は、著者の韜晦も含んでいるかもしれない。現時点の「教育勅語」研究の水準をわかりやすく解説しようとした冊子。その意図は成功していると思う。
    今後、少なくとも事実経緯や文の典拠解釈においては、本書の内容が前提になるべきと思った。

  • 2019.06.25

  • 教育勅語について語義から由来から丁寧に説明した本である。賛成反対の両派からも読まれる本であろう。教育勅語復活派にとっても教育勅語反対派にとっても基本書となる本であろうが、現在の状況でこの本の立ち位置は危険かもしれない。

  • 東2法経図・6F開架:155A/Ta33k//K

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著者プロフィール

1963年生まれ。東京大学大学院教育学研究科博士課程満期退学。武蔵野美術大学造形学部教授。日本教育史(国学・宗教教育)を専攻。単著に『チーム学校の教師論』『ファシリテーションの技法』『美術と福祉とワークショップ』(いずれも武蔵野美術大学出版局)、『くわしすぎる教育勅語』(太郎次郎社エディタス、2019年)、『共通教化と教育勅語』(東京大学出版会、2019年)。監修に『ワークショップ実践研究』、共編著に『これからの生活指導と進路指導』『総合学習とアート』『特別支援教育とアート』『道徳科教育講義』『新しい教育相談論』『造形ワークショップ入門』『造形ワークショップの広がり』(いずれも武蔵野美術大学出版局)、共著に岩波書店編集部編『教育勅語と日本社会』(岩波書店、2017年)、教育史学会編『教育勅語の何が問題か』(同、2017年)、駒込武/奈須恵子/川村肇編『戦時下学問の統制と動員 日本諸学振興委員会の研究』(東京大学出版会、2011年)、東京大学史史料室編『東京大学の学徒動員・学徒出陣』(同、1998年)、寺﨑昌男/編集委員会編『近代日本における知の配分と国民統合』(第一法規出版、1993年)ほか。

「2023年 『新しい教育通義 増補改訂版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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