同作者の時代ロマンシリーズは男女の恋愛が基本で、同性間の慕情は稀に紛れる程度。
敢えて主軸に置いたり強調する描き方は、しない方が良さそうな気がする。
それとなく匂わせるくらいが一番趣が出るというか。
尤も、この巻の「炎塵」における、陶隆房と大内義隆の話は逸品。
隆房の美貌と、傷心を秘めた辛辣さが、終始際立つ。
お屋形への度重なる挑発の陰に、少年期より身を焼き焦がす『愚者の恋』が見え隠れする。
何度諦めても終われない恋に苦しむ、隆房の憂い顔が最大の見所。
傷つけられながらも愛し続けた主君を、自らの手で攻め滅ぼして後、彼が流す涙は美しく痛い。
相良武任と不和を演じる結託の発想も、創作の醍醐味が滲む。
「氷の修羅」(『恋ひわたりの…』)でも同じ構想と展開が描かれるが、微妙に台詞の含みが変わる上、義隆側の心情描写に余裕がある分、トータルな充実度はやや「炎塵」が高いか。